片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い

episode683

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「よーし、今日のノルマ終わったわ」

 リュリュが嬉しそうに声を張り上げる。

「ボクも終わったよ。ベルトルドは?」

「ああ、俺も終わってる」

 ベルトルドにとって、宿題に出された問題集は簡単すぎた。悩むまでもなく、すでに全部終わっているのだ。それを隠し、2人の勉強を見てやりながら合わせている。

「ランチまでまだ時間あるし、ベルのおうちのプールで泳ぎましょうよ」

「そうだな。そうするか」

「今日のランチは、ベルトルドの家で食べるんだよね」

「うん。親父が出がけに用意してってくれてる」

 共働きの両親たちなので、毎日交代で子供たちの昼食を、準備していくことになっていた。

「ベルのパパのお料理おいしいから、楽しみ」

「そうだね」

 リュリュとアルカネットの母親の作る料理も、ベルトルドは好きだった。

 ベルトルドの家では、もっぱら料理担当は父親だ。母サーラは自他ともに認めるほど、料理に対する才能がなさすぎた。標準的な家庭料理すら、サーラにかかれば生ゴミとかわりがなくなる。

「よし、帰ろう」

 3人は本やノートを閉じて、小脇に抱えて家に向かって走っていった。



 ベルトルドにフラれてから、リューディアは数日は食欲も失せるほど消沈していた。しかし、これまでずっと思い悩んでいたことから解放されると、発明に対する意欲がどんどん向上していった。

 辛いことから逃れようとするためなのか、発明に没頭することで、気持ちを立て直そうとしているのか。

 とにかく失恋したということを、あまり思い悩みたくなかった。

 それから毎日勉強と発明に集中している中で、リューディアはついに、空飛ぶ乗り物の基礎設計にたどり着こうとしていた。

「あと少し、あと少しで完成するわ」

 機械工学スキル〈才能〉という、レアなスキル〈才能〉を授かって生まれてきたリューディアは、大きなスケッチブックに、たくさんの発明を描き込んでいた。とくに、空を飛ぶ発明に関しては、教師も舌を巻くほどのものだ。

 ハワドウレ皇国にある研究機関へ行けば、超古代文明の遺産からも、良いヒントが得られるに違いないと確信している。

 アイオン族のように翼に頼らず、魔法やサイ《超能力》にも頼らず、自らの技術で空を飛ぶのだ。

 ――あと、もう少しで完成する!



 スコールの季節が過ぎると、雨が恋しいほど毎日晴天に恵まれる。白い雲一つない、真っ青な空になる。

 空も海も真っ青で、ビーチは眩しいほど真っ白に染まり、椰子の葉も草花も、瑞々しいほど発色が良くなり、世界は明るい色で満ち溢れた。

 ビーチのそばには、ボート乗り場の小さな桟橋がある。これも子供たちのボート遊び用に、アルカネットの父イスモが設計して、皆で作り上げたものだ。

 万が一沖に流されないように、浅瀬に小さな柵が拵えてある。その内側でボート遊びをするようになっていた。

 青い空と海に映える金色の髪には、真っ赤なハイビスカスの花が一輪飾られている。そして、お気に入りの真っ白いレースのワンピースで、華奢な肢体を包み込んでいた。

 両手には発明のスケッチブックを持ち、リューディアは桟橋の上で海を眺めていた。

 今日は、可愛い弟たちに、来月からハワドウレ皇国へ行ってしまうことの報告、そして、もうじき完成しそうな空飛ぶ乗り物について、意見を求めようと思って、この場所へ来るように言ってあるのだ。

 それで早めに来て、こうして海を眺めている。

 ハワドウレ皇国へ行けば、この眺めとも暫くお別れなのだ。

 優しく海面をなでていくような風が、そっとリューディアの髪をすくっていく。

「あ…」

 その瞬間、リューディアは思いついた。

 ずっと引っかかっていた、空飛ぶ乗り物の、ブラックボックスがついに。

「おーい、ディアー」

 ベルトルドに大声で呼ばれ、リューディアはスケッチブックを開きながら顔を向ける。

 ベルトルドの後ろには、嬉しそうな顔のアルカネットとリュリュがいる。

 リューディアは微笑みながら、すぐにスケッチブックに顔を向けると、すごい勢いで描き込んでいく。

 駆け寄ってくる3人に、リューディアは左手でこたえ、そして立ち上がった。
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