片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い

episode679

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 ヨトゥン号はゆっくりとシャシカラ島を目指してへ進む。ミーナ群島の海流は穏やかなので、クルーザーはあまり揺れず、心地よい風と海鳥たちのさえずりを楽しめた。

 小さな頃から両親と共に島の周囲をクルーザーで遊んでいたので、リューディアの操縦は一級品である。

「今日の宿題は、アルカネットは授業に出てないから、ちょっと難しいかもな」

「アタシも一緒に宿題する。苦手なの、数学」

「いいぜ、ビーチに行ってやろう」

 基礎教育は大きく分けて、語学、数学、総合学の3種類ある。総合学は歴史、生物学、美術、料理、道徳などを教えた。

 15歳になると、進路を自由に選べる。スキル〈才能〉を活かしその専門学校へ進んだり、行政司法などを目指すものはその国の専門機関へ。とくに将来の目標に目処が立たない者は、基礎教育の延長線上にある大学へと進む。また、勉強を必要としなかったり、家庭の事情で進めない者は働きに出ることも可能だ。15歳までの基礎教育は、国から補助が出るので学費は免除される。基礎教育さえ受けていれば、社会に出ても成り立つからだ。

「ねえ、ベルは将来、何になるの?」

「なんだよ、いきなり」

「だってアタシ、ベルのこと大好きだもん。お嫁さんになるから、将来の旦那様の生活設計くらい、知っておかないとダメじゃない」

「まだ言ってんのかよ。俺は、女のカラダをした女じゃないと、嫁にはせん……」

「大人になったら、性転換手術を受けるから問題ないわ」

「………」

 リュリュに擦り寄られ、ベルトルドは露骨に嫌そうにジリジリと退いていく。

「とにかく、俺はお前と結婚する未来は夢見てないから、諦めてほかの男を探せっ!」

 甲板の2人の様子を見て、リューディアはクスクスと笑う。

 リュリュがベルトルドに本気の恋をしていたことを、リューディアは知っている。しかし、1年前にフラれていることも、また知っていた。

 そして、自分もベルトルドに恋をしている。

 3歳年下で、まだあどけなく、自分よりも背の低い、あのおマセな少年に。

 今は13歳と10歳で、恋愛なんてまだまだ早いのかもしれない。でも、10年もすれば、2人とも大人になって、恋愛だって当たり前に出来るようになる。

 笑顔がまだ幼いけど、大人になったら間違いなく美青年に成長するだろうベルトルド。それを想像すると、リューディアの胸はドキドキと高鳴った。まだ小さく華奢な身体も、大人になれば逞しくなるに違いない。それに、あんなに子供のくせに、どこか頼りがいのあるところも、惹きつけられてならないのだ。

(わたしの気持ちに、あの子は気づいているはず。そして、あの子もわたしのことを、きっと、好きだと思う…)

 それなのに、ベルトルドはいつもはぐらかす。

 いつの間にかベルトルドへの想いが膨らんで膨らんで、積もり積もった矢先に、アルカネットの一件だ。

 ――なんか、リューディアのことであの子、暴走したって。

 ――そうそう、リューディアに酷いことしたとかなんとかって叫んでたらしいよ。

 アルカネットは、真っ直ぐ”好きだ”という気持ちをぶつけてくる。アルカネットのことも好きだけれど、でもそれは、弟のように思っているだけで、恋とは違う。

(アルカネットもわたしに、恋をしている…)

 あまりにも素直に激しく。誰に憚ることもなく、ベルトルドに遠慮もしていない。そしてその強い想いは、今回の事件を起こすことになったのだ。

 病院送りになった女生徒たちとはクラスメイトだ。あまり話をしたことはないが、恨まれていたのだろうか。とくに彼女らに対して、嫌われるような態度をとったことはなかったはずである。でも、知らず知らずに、気に障ることでもしたのか。

 アルカネットはそのことで、自分に恋をしているせいで、事件を起こしてしまった。

 そのことで気が重くてしょうがない。

 ため息を一つつき、ふと空を見上げる。

 真っ青で、どこまでも突き抜ける広い空。

(飛びたいなあ…。)

 ヴィプネン族のリューディアには、自力で空を飛ぶ術がない。ベルトルド、リュリュにはサイ《超能力》があり、アルカネットは魔法がある。3人は能力で空を自由に飛べた。

 あの3人と一緒に、自分も空をたくさん飛んでみたい。

 あの青い空が、嫌なことも一瞬にして、忘れさせてくれるだろう。

 幼い頃からずっと憧れる空。

 自分の力で飛びたいと願う空。

 いつか、自分の発明した乗り物で、空を飛ぶ。そのために、日々勉強を重ね、思いつく発明をスケッチブックに描いている。

(あともう少しで、空を飛ぶ乗り物の基礎設計が完成しそうなのに)

 今回のアルカネットの起こした事件と、ベルトルドへの恋の悩みで、しばらくは発明に集中できそうもなかった。

 そんな気分には、なれなかったからだ。
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