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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode678
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ゼイルストラ・カウプンキの住人たちの殆どは、アーナンド島の周辺にある小島に住居を構えている。ゼイルストラ・カウプンキの首都でもあるアーナンド島に住居を構えると、税金が倍になり、よほど裕福な者でもない限りは、周辺の小島に住んだほうが安く付いた。
群島であるゼイルストラ・カウプンキでは、一家に一隻必ずクルーザーがある。島と島を行き来するのに必要だし、海上タクシーは割高だ。それに、アーナンド島に近い小島は、主に宿泊施設、別荘、レストラン、カジノなどの、観光者向け用に買い取られているため、やや離れたところからだいぶ離れたところに、島民の住居があった。
アーナンド島からクルーザーで1時間ほどの距離にあるシャシカラ島でも、一家に一隻クルーザーがあり、子供たちの通学用に3家でお金を出し合い、小型のクルーザーも一隻ある。
小型船舶免許は12歳から取得が可能なので、通学用クルーザーはリューディアが操縦していた。
免許はまだ取得できないが、ベルトルド、アルカネット、リュリュの3人も操縦は出来る。いざという時のために、家族ぐるみで子供たちに操縦を教えていたからだ。
授業を終え、スキル〈才能〉訓練も終わると、待ち合わせの場所に集まって、クルーザーのある港へ行く。
待ち合わせ場所は、学校の敷地内にある、大きな椰子の木の一つだ。
「おーい、ディア」
ベルトルドが、先に待っていたリューディアに声をかける。
リューディアは呼ばれて顔を上げたが、その表情は辛そうに沈んでいた。そんなリューディアの顔を見て、ベルトルドは内心小さく舌打ちする。
案の定、昨日のアルカネットの騒動の内容を知ってしまったらしい。
「ベル、あのね…」
「帰ろうぜ、アルカネットも待ってるしさ」
こんなところで話したくないと、ベルトルドはリューディアの言葉を遮った。そしてベルトルドはリューディアとリュリュの手を引くと、港に向かってグイグイ引っ張るようにして走り出す。
(ねえ、ベル、やっぱおねえちゃんに話しちゃうの?)
念話でリュリュから話しかけられ、ベルトルドも念話で答える。
(たぶんクラスの連中から曖昧に聞いたんだろうな、そんな表情してるしさ。だから、ちゃんと話してやらないと、余計不安だろうから)
(そうね…)
(俺が話をするから、心配すんなって)
(うん。ベルにまかせるわ)
(おう)
アーナンド島にはいくつもの港がある。島民たちのための港の一つに、みんなのクルーザーを停めている。
「俺様のヨトゥン号よ、今日もしっかりヨロシク!」
ベルトルドは無邪気にクルーザーに笑いかけると、勢いよく飛び乗る。
「アタシ、この外装恥ずかしい。ねえ、直しましょうよ……」
リュリュが垂れ目を更に垂れ下がらせて、クルーザーを迷惑そうに見つめる。
「この俺が描いたスペシャルアートなんだぞ。カッコイイじゃないか」
甲板の上に仁王立ちで、腕を組んでふんぞり返っている。
とにかくクルーザーの数が半端ではないので、各家ひと目で判るアートが炸裂している。プロのアーティストに依頼するとバカ高い為、ベルトルドがかってでたものの、らくがきも羞恥心を覚えて逃げ出すほどのアートセンスに、霜の巨人もちゃぶ台返ししたくなるだろう。それほど酷いのである。オマケにヨトゥン号の名も、何を書いてあるか、誰も読めないときている。
ベルトルドは、恐ろしく字が猛烈に下手なのだ。
「これを操縦しなくてはならないわたしの気持ちなんて、考えもしなかったんでしょうね……」
リュリュに賛同するように、リューディアは乾いたように呟いた。
二人の反応を見て、ベルトルドは片方の眉毛をひくつかせる。
「ヨトゥン号はこれでいいんだっ!」
群島であるゼイルストラ・カウプンキでは、一家に一隻必ずクルーザーがある。島と島を行き来するのに必要だし、海上タクシーは割高だ。それに、アーナンド島に近い小島は、主に宿泊施設、別荘、レストラン、カジノなどの、観光者向け用に買い取られているため、やや離れたところからだいぶ離れたところに、島民の住居があった。
アーナンド島からクルーザーで1時間ほどの距離にあるシャシカラ島でも、一家に一隻クルーザーがあり、子供たちの通学用に3家でお金を出し合い、小型のクルーザーも一隻ある。
小型船舶免許は12歳から取得が可能なので、通学用クルーザーはリューディアが操縦していた。
免許はまだ取得できないが、ベルトルド、アルカネット、リュリュの3人も操縦は出来る。いざという時のために、家族ぐるみで子供たちに操縦を教えていたからだ。
授業を終え、スキル〈才能〉訓練も終わると、待ち合わせの場所に集まって、クルーザーのある港へ行く。
待ち合わせ場所は、学校の敷地内にある、大きな椰子の木の一つだ。
「おーい、ディア」
ベルトルドが、先に待っていたリューディアに声をかける。
リューディアは呼ばれて顔を上げたが、その表情は辛そうに沈んでいた。そんなリューディアの顔を見て、ベルトルドは内心小さく舌打ちする。
案の定、昨日のアルカネットの騒動の内容を知ってしまったらしい。
「ベル、あのね…」
「帰ろうぜ、アルカネットも待ってるしさ」
こんなところで話したくないと、ベルトルドはリューディアの言葉を遮った。そしてベルトルドはリューディアとリュリュの手を引くと、港に向かってグイグイ引っ張るようにして走り出す。
(ねえ、ベル、やっぱおねえちゃんに話しちゃうの?)
念話でリュリュから話しかけられ、ベルトルドも念話で答える。
(たぶんクラスの連中から曖昧に聞いたんだろうな、そんな表情してるしさ。だから、ちゃんと話してやらないと、余計不安だろうから)
(そうね…)
(俺が話をするから、心配すんなって)
(うん。ベルにまかせるわ)
(おう)
アーナンド島にはいくつもの港がある。島民たちのための港の一つに、みんなのクルーザーを停めている。
「俺様のヨトゥン号よ、今日もしっかりヨロシク!」
ベルトルドは無邪気にクルーザーに笑いかけると、勢いよく飛び乗る。
「アタシ、この外装恥ずかしい。ねえ、直しましょうよ……」
リュリュが垂れ目を更に垂れ下がらせて、クルーザーを迷惑そうに見つめる。
「この俺が描いたスペシャルアートなんだぞ。カッコイイじゃないか」
甲板の上に仁王立ちで、腕を組んでふんぞり返っている。
とにかくクルーザーの数が半端ではないので、各家ひと目で判るアートが炸裂している。プロのアーティストに依頼するとバカ高い為、ベルトルドがかってでたものの、らくがきも羞恥心を覚えて逃げ出すほどのアートセンスに、霜の巨人もちゃぶ台返ししたくなるだろう。それほど酷いのである。オマケにヨトゥン号の名も、何を書いてあるか、誰も読めないときている。
ベルトルドは、恐ろしく字が猛烈に下手なのだ。
「これを操縦しなくてはならないわたしの気持ちなんて、考えもしなかったんでしょうね……」
リュリュに賛同するように、リューディアは乾いたように呟いた。
二人の反応を見て、ベルトルドは片方の眉毛をひくつかせる。
「ヨトゥン号はこれでいいんだっ!」
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