片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
741 / 882
奪われしもの編 彼女が遺した空への想い

episode678

しおりを挟む
 ゼイルストラ・カウプンキの住人たちの殆どは、アーナンド島の周辺にある小島に住居を構えている。ゼイルストラ・カウプンキの首都でもあるアーナンド島に住居を構えると、税金が倍になり、よほど裕福な者でもない限りは、周辺の小島に住んだほうが安く付いた。

 群島であるゼイルストラ・カウプンキでは、一家に一隻必ずクルーザーがある。島と島を行き来するのに必要だし、海上タクシーは割高だ。それに、アーナンド島に近い小島は、主に宿泊施設、別荘、レストラン、カジノなどの、観光者向け用に買い取られているため、やや離れたところからだいぶ離れたところに、島民の住居があった。

 アーナンド島からクルーザーで1時間ほどの距離にあるシャシカラ島でも、一家に一隻クルーザーがあり、子供たちの通学用に3家でお金を出し合い、小型のクルーザーも一隻ある。

 小型船舶免許は12歳から取得が可能なので、通学用クルーザーはリューディアが操縦していた。

 免許はまだ取得できないが、ベルトルド、アルカネット、リュリュの3人も操縦は出来る。いざという時のために、家族ぐるみで子供たちに操縦を教えていたからだ。

 授業を終え、スキル〈才能〉訓練も終わると、待ち合わせの場所に集まって、クルーザーのある港へ行く。

 待ち合わせ場所は、学校の敷地内にある、大きな椰子の木の一つだ。

「おーい、ディア」

 ベルトルドが、先に待っていたリューディアに声をかける。

 リューディアは呼ばれて顔を上げたが、その表情は辛そうに沈んでいた。そんなリューディアの顔を見て、ベルトルドは内心小さく舌打ちする。

 案の定、昨日のアルカネットの騒動の内容を知ってしまったらしい。

「ベル、あのね…」

「帰ろうぜ、アルカネットも待ってるしさ」

 こんなところで話したくないと、ベルトルドはリューディアの言葉を遮った。そしてベルトルドはリューディアとリュリュの手を引くと、港に向かってグイグイ引っ張るようにして走り出す。

(ねえ、ベル、やっぱおねえちゃんに話しちゃうの?)

 念話でリュリュから話しかけられ、ベルトルドも念話で答える。

(たぶんクラスの連中から曖昧に聞いたんだろうな、そんな表情してるしさ。だから、ちゃんと話してやらないと、余計不安だろうから)

(そうね…)

(俺が話をするから、心配すんなって)

(うん。ベルにまかせるわ)

(おう)

 アーナンド島にはいくつもの港がある。島民たちのための港の一つに、みんなのクルーザーを停めている。

「俺様のヨトゥン号よ、今日もしっかりヨロシク!」

 ベルトルドは無邪気にクルーザーに笑いかけると、勢いよく飛び乗る。

「アタシ、この外装恥ずかしい。ねえ、直しましょうよ……」

 リュリュが垂れ目を更に垂れ下がらせて、クルーザーを迷惑そうに見つめる。

「この俺が描いたスペシャルアートなんだぞ。カッコイイじゃないか」

 甲板の上に仁王立ちで、腕を組んでふんぞり返っている。

 とにかくクルーザーの数が半端ではないので、各家ひと目で判るアートが炸裂している。プロのアーティストに依頼するとバカ高い為、ベルトルドがかってでたものの、らくがきも羞恥心を覚えて逃げ出すほどのアートセンスに、霜の巨人もちゃぶ台返ししたくなるだろう。それほど酷いのである。オマケにヨトゥン号の名も、何を書いてあるか、誰も読めないときている。

 ベルトルドは、恐ろしく字が猛烈に下手なのだ。

「これを操縦しなくてはならないわたしの気持ちなんて、考えもしなかったんでしょうね……」

 リュリュに賛同するように、リューディアは乾いたように呟いた。

 二人の反応を見て、ベルトルドは片方の眉毛をひくつかせる。

「ヨトゥン号はこれでいいんだっ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...