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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode677
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「ホントにもう、あんたはマセガキなんだから! 10歳児のくせに、大人でも滅多にできないことをするんじゃないのっ」
アルカネットのために身を引いたことを、サーラは見抜いていた。
ぐわんぐわん脳天から痛みが押し寄せてくるが、ベルトルドは顔を上げてサーラを睨みつける。
「脳細胞が死滅する!」
「大丈夫よ、まだ若いんだから」
小児科医の母親にサラッと言われて、ベルトルドは言葉に詰まる。
「イラナイ細胞を取り払って、必要な分だけ残ればいいのよ」
「医者の風上にも置けん発言を堂々と……」
「リューディアちゃんがあんたのお嫁さんなら、二つ返事でOKしたのに」
これはサーラの本音である。
幼馴染に恋を譲るなど、健気なことをしている息子を可愛いと思う反面、そこまでしなくてもと思う。何故なら、リューディア本人はベルトルドに気があると、サーラは気づいているからだ。
ベルトルドはサーラから、フイッと顔を背けた。
「俺には、家族と同じくらい、アルカネットもディアも大事だ。リューも、おじさんたちやおばさんたちも大事だから、だから、わだかまりは作りたくない」
真顔になり、正面にある飾り棚に並べられた写真立てを見つめる。
「選べないんだ。アルカネットか、ディアか。どちらかを選べば、きっと失ってしまうんだ。表面上は仲のいい幼馴染でも、きっと心に小さなわだかまりができて、それで歪んでしまうかもしれないから」
ベルトルドはサイ《超能力》によって、あえて透視をおこなわなくても、他人の心が勝手に見えてしまう。流れ込んできてしまう。サイ《超能力》を抑制する装飾品を付けられる前も今も、容赦なく視えてしまうから。だから、ベルトルドは知っている。
仲良しの他人同士が、実は小さなわだかまりを心の奥底に隠し持っていて、それを悟られないように、ペルソナをかぶって生きていることを。
父も母も。おじさんもおばさんも。
視えてしまうからこそ、避けたかった。そんなイヤなモヤモヤを抱えて、それを隠しながら、嘘をつきながら生きたくない。
大人になれば、そんなものはいくつも抱えていくことになる。子供の今だけは綺麗なまま生きていけるけど、大人の世界に入れば、イヤでも沢山のイヤなものを持つようになる。
それでも。
大切なあの2人とは、永遠に純粋なまま、心の底から仲良しでいたい。
そのためなら、無理に自分の恋を押し通さなくてもいい。
アルカネットとリューディアが幸せになれば、それは自分にとって幸せなのだから。
「心配すんな! 俺には世界中の女が待っている! 美人も選り取りみどり、そこで新しい恋を見つけるぜ!」
ディアだけが女じゃない! と、拳を掲げて力強く宣言したところで、サーラのゲンコツが再び脳天に炸裂した。
「息子を労われ母親……」
「いい、ベルトルド、これだけは言っておくわ」
ベルトルドの小さな耳をつまみ上げ、サーラは口を近づけて囁くように言う。
「あんたがリクハルド二世なのは、母親のわたしがよぉーっく判ってる。だから注意しておくわね。いいこと、性病にだけは気をつけなさい。あんたが星の数の女とエッチなことをしても、わたしは咎めたりしない。けど、性病をもらってきた日には、親子の縁を切るから、それだけは一生心に刻んで励むことね」
2人の様子をリビングの入口からこっそりと見ていたリクハルドは、がんばれ息子よ! と、心の中で我が子を応援していた。
アルカネットのために身を引いたことを、サーラは見抜いていた。
ぐわんぐわん脳天から痛みが押し寄せてくるが、ベルトルドは顔を上げてサーラを睨みつける。
「脳細胞が死滅する!」
「大丈夫よ、まだ若いんだから」
小児科医の母親にサラッと言われて、ベルトルドは言葉に詰まる。
「イラナイ細胞を取り払って、必要な分だけ残ればいいのよ」
「医者の風上にも置けん発言を堂々と……」
「リューディアちゃんがあんたのお嫁さんなら、二つ返事でOKしたのに」
これはサーラの本音である。
幼馴染に恋を譲るなど、健気なことをしている息子を可愛いと思う反面、そこまでしなくてもと思う。何故なら、リューディア本人はベルトルドに気があると、サーラは気づいているからだ。
ベルトルドはサーラから、フイッと顔を背けた。
「俺には、家族と同じくらい、アルカネットもディアも大事だ。リューも、おじさんたちやおばさんたちも大事だから、だから、わだかまりは作りたくない」
真顔になり、正面にある飾り棚に並べられた写真立てを見つめる。
「選べないんだ。アルカネットか、ディアか。どちらかを選べば、きっと失ってしまうんだ。表面上は仲のいい幼馴染でも、きっと心に小さなわだかまりができて、それで歪んでしまうかもしれないから」
ベルトルドはサイ《超能力》によって、あえて透視をおこなわなくても、他人の心が勝手に見えてしまう。流れ込んできてしまう。サイ《超能力》を抑制する装飾品を付けられる前も今も、容赦なく視えてしまうから。だから、ベルトルドは知っている。
仲良しの他人同士が、実は小さなわだかまりを心の奥底に隠し持っていて、それを悟られないように、ペルソナをかぶって生きていることを。
父も母も。おじさんもおばさんも。
視えてしまうからこそ、避けたかった。そんなイヤなモヤモヤを抱えて、それを隠しながら、嘘をつきながら生きたくない。
大人になれば、そんなものはいくつも抱えていくことになる。子供の今だけは綺麗なまま生きていけるけど、大人の世界に入れば、イヤでも沢山のイヤなものを持つようになる。
それでも。
大切なあの2人とは、永遠に純粋なまま、心の底から仲良しでいたい。
そのためなら、無理に自分の恋を押し通さなくてもいい。
アルカネットとリューディアが幸せになれば、それは自分にとって幸せなのだから。
「心配すんな! 俺には世界中の女が待っている! 美人も選り取りみどり、そこで新しい恋を見つけるぜ!」
ディアだけが女じゃない! と、拳を掲げて力強く宣言したところで、サーラのゲンコツが再び脳天に炸裂した。
「息子を労われ母親……」
「いい、ベルトルド、これだけは言っておくわ」
ベルトルドの小さな耳をつまみ上げ、サーラは口を近づけて囁くように言う。
「あんたがリクハルド二世なのは、母親のわたしがよぉーっく判ってる。だから注意しておくわね。いいこと、性病にだけは気をつけなさい。あんたが星の数の女とエッチなことをしても、わたしは咎めたりしない。けど、性病をもらってきた日には、親子の縁を切るから、それだけは一生心に刻んで励むことね」
2人の様子をリビングの入口からこっそりと見ていたリクハルドは、がんばれ息子よ! と、心の中で我が子を応援していた。
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