739 / 882
奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode676
しおりを挟む
島へ着いてからイスモとレンミッキは、ベルトルドとリュリュの家を回って、遅く帰ってきた事情の説明と謝罪をした。
「デザート持ってきたわ、ベルトルド」
夕食後、リビングのソファに寝転ぶベルトルドのもとへ、フルーツを入れた皿を持って、母サーラが傍らに座った。
「あなたの大好きなアナナスの実よ、食べなさい」
「うん」
跳ねるように飛び起きて、テーブルの上に置かれた皿を取る。
スプーンですくって口に入れたアナナスの実は、噛むとジューシーな果汁をたっぷりとしみ出した。よく熟れていて、甘い味が口いっぱいに広がる。
「今日は大変だったわね」
「うん…」
「あなたに怪我がなくて、本当に良かった」
「俺が怪我するわけないじゃん」
ベルトルドはムキになって、アナナスの実を3切れ口に放り込んだ。
「万が一、アルカネットくんの魔法が当たったりしたら…」
「学校じゃ装飾品は外してもらえてるから、念力で防ぐだけさ。俺、優秀なんだぜ」
拗ねるようにサーラを見ると、サーラは深々とため息をついた。そして、握り拳を作ると、拳に「はーっ」と息をかけて、息子の脳天に叩きつける。
「………ディアのより痛いぞ母さん……」
「まったくもー!」
一発ゲンコツを見舞ったあと、サーラはベルトルドを抱きしめる。
「心配してるのよ! いくらあんたがOverランクのサイ《超能力》があるといっても、まだ10歳のお子様なの」
「……」
「幼馴染で家族同然とは言っても、万が一ってことにでもなったら」
「万が一には、絶対にならない!」
母の胸に顔を押し付けられながらも、ベルトルドはきっぱりと言った。
「ベルトルド……」
「あいつは原因もなく暴走したりしない。アルカネットが暴走したのは、ディアが危険な目に遭うかもしれない会話を耳にしたからだ」
「え?」
アルカネットが問題を起こした事情を知れば、リューディアが傷つくだろうと、イスモとレンミッキはそこまで詳細な説明をしなかった。
ベルトルドはそのことも含めてサーラに話すと、沈痛な面持ちになり、サーラは深々とため息をついた。
「そうだったの…。たしかに、リューディアちゃんが知ったら、とても深く傷つくと思うわ。優しくて責任感の強い子だもの」
「明日学校へ行けば、ディアも知っちゃうかもしれないけどな」
「そうね。口には関所がないから」
ベルトルドはソファの上にあぐらをかいて腕を組む。
「ディアのことが絡まなければ、アルカネットは暴走しない。キレやすいところはあるけど、ディアのこと以外で、あいつがキレたことなんかない」
無関心ではないが、リューディア以外のことには、あまり熱くならない。
「俺が2人をしっかり守るから、もう大丈夫だ!」
責任感の塊のようなことを言う息子を、サーラは黙って見ていた。しかし、目をスッと細めると、ベルトルドの耳元でそっと囁く。
「あんたもリューディアちゃんに、とーっても恋しちゃってるでしょ?」
すると一瞬にして、ベルトルドの顔も耳も真っ赤に染まり、蒸気でも噴射しそうな顔を向けてきた。
「ばっ…ばっ、ばっか! 何をいきなり言うんだババア!!」
「誰がババアじゃ!」
返す刀の勢いで、サーラの容赦のない肘鉄が、脳天に炸裂する。
「のおお……」
頭をかかえて、ベルトルドは俯いた。
「デザート持ってきたわ、ベルトルド」
夕食後、リビングのソファに寝転ぶベルトルドのもとへ、フルーツを入れた皿を持って、母サーラが傍らに座った。
「あなたの大好きなアナナスの実よ、食べなさい」
「うん」
跳ねるように飛び起きて、テーブルの上に置かれた皿を取る。
スプーンですくって口に入れたアナナスの実は、噛むとジューシーな果汁をたっぷりとしみ出した。よく熟れていて、甘い味が口いっぱいに広がる。
「今日は大変だったわね」
「うん…」
「あなたに怪我がなくて、本当に良かった」
「俺が怪我するわけないじゃん」
ベルトルドはムキになって、アナナスの実を3切れ口に放り込んだ。
「万が一、アルカネットくんの魔法が当たったりしたら…」
「学校じゃ装飾品は外してもらえてるから、念力で防ぐだけさ。俺、優秀なんだぜ」
拗ねるようにサーラを見ると、サーラは深々とため息をついた。そして、握り拳を作ると、拳に「はーっ」と息をかけて、息子の脳天に叩きつける。
「………ディアのより痛いぞ母さん……」
「まったくもー!」
一発ゲンコツを見舞ったあと、サーラはベルトルドを抱きしめる。
「心配してるのよ! いくらあんたがOverランクのサイ《超能力》があるといっても、まだ10歳のお子様なの」
「……」
「幼馴染で家族同然とは言っても、万が一ってことにでもなったら」
「万が一には、絶対にならない!」
母の胸に顔を押し付けられながらも、ベルトルドはきっぱりと言った。
「ベルトルド……」
「あいつは原因もなく暴走したりしない。アルカネットが暴走したのは、ディアが危険な目に遭うかもしれない会話を耳にしたからだ」
「え?」
アルカネットが問題を起こした事情を知れば、リューディアが傷つくだろうと、イスモとレンミッキはそこまで詳細な説明をしなかった。
ベルトルドはそのことも含めてサーラに話すと、沈痛な面持ちになり、サーラは深々とため息をついた。
「そうだったの…。たしかに、リューディアちゃんが知ったら、とても深く傷つくと思うわ。優しくて責任感の強い子だもの」
「明日学校へ行けば、ディアも知っちゃうかもしれないけどな」
「そうね。口には関所がないから」
ベルトルドはソファの上にあぐらをかいて腕を組む。
「ディアのことが絡まなければ、アルカネットは暴走しない。キレやすいところはあるけど、ディアのこと以外で、あいつがキレたことなんかない」
無関心ではないが、リューディア以外のことには、あまり熱くならない。
「俺が2人をしっかり守るから、もう大丈夫だ!」
責任感の塊のようなことを言う息子を、サーラは黙って見ていた。しかし、目をスッと細めると、ベルトルドの耳元でそっと囁く。
「あんたもリューディアちゃんに、とーっても恋しちゃってるでしょ?」
すると一瞬にして、ベルトルドの顔も耳も真っ赤に染まり、蒸気でも噴射しそうな顔を向けてきた。
「ばっ…ばっ、ばっか! 何をいきなり言うんだババア!!」
「誰がババアじゃ!」
返す刀の勢いで、サーラの容赦のない肘鉄が、脳天に炸裂する。
「のおお……」
頭をかかえて、ベルトルドは俯いた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです
珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。
老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。
そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる