片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い

episode676

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 島へ着いてからイスモとレンミッキは、ベルトルドとリュリュの家を回って、遅く帰ってきた事情の説明と謝罪をした。

「デザート持ってきたわ、ベルトルド」

 夕食後、リビングのソファに寝転ぶベルトルドのもとへ、フルーツを入れた皿を持って、母サーラが傍らに座った。

「あなたの大好きなアナナスの実よ、食べなさい」

「うん」

 跳ねるように飛び起きて、テーブルの上に置かれた皿を取る。

 スプーンですくって口に入れたアナナスの実は、噛むとジューシーな果汁をたっぷりとしみ出した。よく熟れていて、甘い味が口いっぱいに広がる。

「今日は大変だったわね」

「うん…」

「あなたに怪我がなくて、本当に良かった」

「俺が怪我するわけないじゃん」

 ベルトルドはムキになって、アナナスの実を3切れ口に放り込んだ。

「万が一、アルカネットくんの魔法が当たったりしたら…」

「学校じゃ装飾品は外してもらえてるから、念力で防ぐだけさ。俺、優秀なんだぜ」

 拗ねるようにサーラを見ると、サーラは深々とため息をついた。そして、握り拳を作ると、拳に「はーっ」と息をかけて、息子の脳天に叩きつける。

「………ディアのより痛いぞ母さん……」

「まったくもー!」

 一発ゲンコツを見舞ったあと、サーラはベルトルドを抱きしめる。

「心配してるのよ! いくらあんたがOverランクのサイ《超能力》があるといっても、まだ10歳のお子様なの」

「……」

「幼馴染で家族同然とは言っても、万が一ってことにでもなったら」

「万が一には、絶対にならない!」

 母の胸に顔を押し付けられながらも、ベルトルドはきっぱりと言った。

「ベルトルド……」

「あいつは原因もなく暴走したりしない。アルカネットが暴走したのは、ディアが危険な目に遭うかもしれない会話を耳にしたからだ」

「え?」

 アルカネットが問題を起こした事情を知れば、リューディアが傷つくだろうと、イスモとレンミッキはそこまで詳細な説明をしなかった。

 ベルトルドはそのことも含めてサーラに話すと、沈痛な面持ちになり、サーラは深々とため息をついた。

「そうだったの…。たしかに、リューディアちゃんが知ったら、とても深く傷つくと思うわ。優しくて責任感の強い子だもの」

「明日学校へ行けば、ディアも知っちゃうかもしれないけどな」

「そうね。口には関所がないから」

 ベルトルドはソファの上にあぐらをかいて腕を組む。

「ディアのことが絡まなければ、アルカネットは暴走しない。キレやすいところはあるけど、ディアのこと以外で、あいつがキレたことなんかない」

 無関心ではないが、リューディア以外のことには、あまり熱くならない。

「俺が2人をしっかり守るから、もう大丈夫だ!」

 責任感の塊のようなことを言う息子を、サーラは黙って見ていた。しかし、目をスッと細めると、ベルトルドの耳元でそっと囁く。

「あんたもリューディアちゃんに、とーっても恋しちゃってるでしょ?」

 すると一瞬にして、ベルトルドの顔も耳も真っ赤に染まり、蒸気でも噴射しそうな顔を向けてきた。

「ばっ…ばっ、ばっか! 何をいきなり言うんだババア!!」

「誰がババアじゃ!」

 返す刀の勢いで、サーラの容赦のない肘鉄が、脳天に炸裂する。

「のおお……」

 頭をかかえて、ベルトルドは俯いた。
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