片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
736 / 882
奪われしもの編 彼女が遺した空への想い

episode673

しおりを挟む
 刃物で斬ったように、綺麗に真っ二つに割れたリンゴを見て、中年の男性教師は満足そうに微笑んだ。

「コントロールが格段に上達しているね。さすが、優秀な子だ」

「この、鬱陶しいのを早く外したいからね」

 ベルトルドは手首に巻いていた装飾品を、嫌そうにつまみあげた。今は、学校なので教師に外してもらっている。

「ハワドウレ皇国のサイ《超能力》専門機関に作ってもらった特注品だぞ。生憎ゼイルストラでは、キミほどの能力を制御できるモノは作れないから」

 ませた調子で肩をすくめると、ベルトルドは装飾品を机の上に置く。

 今日は念力のコントロールを訓練していた。

 サイ《超能力》は精神力が全てであり、精神力をまず鍛え、自らコントロール出来なければ、サイ《超能力》を上手く扱うことはできない。

 ベルトルドのようにOverランクのスキル〈才能〉にもなると、とてつもない精神力が必要になる。大人でも制御できるかどうか不明なレベルだ。しかし、ベルトルドは使いこなせる自信がある。守るべき者たちのために使いこなすことが、今のベルトルドの目標でもあるからだ。

「よし、次は…」

「ベル、ベル! 大変なの、早くきてちょうだい!!」

 突然教室にリュリュが飛び込んできて、ベルトルドの服にしがみついてまくしたてる。

「どうしたリュー?」

「とにかく大変なのよ! アルが」

「アルカネットが?」

 眉間をしかめ、ベルトルドはリュリュの記憶を読んだ。そして舌打ちすると、教室を飛び出した。



 食堂に駆けつけると、たくさんの生徒たちが群がっていて大きな騒動になっていた。

「アルカネット!」

 人垣の外からアルカネットの名を叫ぶが、騒然とした生徒たちの声でかきけされる。

 アーナンド島にある、ゼイルストラ・カウプンキ唯一の総合学校。基礎的な勉強と、各種スキル〈才能〉に対応した訓練機関を一緒にしている。ハワドウレ皇国や小国などと違い、自由都市では総合学校として、同じ敷地内で子供たちに勉強やスキル〈才能〉訓練を行わせていた。

「ええい、邪魔だバカ者共!!」

 かなり乱暴に、念力を使って群がっている生徒たちを払い除けた。

 いきなりたくさんの生徒たちが吹っ飛ばされ、食堂は更にどよめき騒然とする。

「俺の前を塞ぐんじゃない」

 ケッとした表情で言い捨てると、ベルトルドは人垣の中へ踏み込んだ。

「アルカネット!」

 首を項垂れさせて、アルカネットは後ろを向いていた。その足元には、大怪我をした女生徒が5名転がっている。

「息してんのか!?」

 びっくりしたベルトルドは、すぐさま女生徒たちのもとへ駆け寄り、赤毛の女生徒を揺さぶる。

「うぅ……」

 揺さぶった衝撃で怪我に響いたのか、女生徒はくぐもった声で唸った。

「よかった、まだ生きてるな」

 ベルトルドは人垣のほうへ振り向き、ドスをきかせた声を張り上げる。

「見てないで女生徒たちを医務室に運べ無能ども!!」

 否定も拒絶も受け付けない尊大な態度で怒鳴られ、生徒たちはワラワラと慌てて駆け寄った。普通なら”無能ども”と10歳児に言われれば、キレてもいいところだ。しかし皆おとなしく言われるままに従っている。ベルトルドがOverランクのサイ《超能力》を有していることを、知らない者などいないからだ。

「怪我してるからな、丁寧に運べよ」

 男女の生徒が複数がかりで、怪我をした女生徒たちを抱え上げて医務室へと向かった。

「それから残ってるお前ら、とっとと教室戻るなり家に帰れ! 鬱陶しいわ」

 視線だけで殺されそうな気迫につままれて、野次馬たちは蜘蛛の子を散らすように、その場からそそくさと立ち去っていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...