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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode672
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あまりにも正直な慌てふためきぶりに、指摘したリューディアのほうが困ってしまっていた。
「学校で好きな女の子でも出来たの~?」
ニヤニヤと聞かれて、ベルトルドは握り拳を作る。
「俺は女が好きだ。美醜はある程度問うが、女が大好きだ!」
高らかに言うと、リューディアのゲンコツが脳天に炸裂した。
「力込めすぎだぞディア……」
「リクハルドおじさんみたいなことを言わないの! まったく」
ベルトルドの父リクハルドも、酒が入ると「俺は女が大好きだー!」と叫ぶくせがある。父のクスタヴィによると、若い頃は女に手を出すのが早くて、奥さんのサーラには初めてフラレたことがきっかけで、プロポーズに至ったという。
「あんたってホント、リクハルドおじさんに似てるわね」
「遺伝だからしょうがない……」
「もっと子供っぽい単語を使いなさいっ」
再びゲンコツを食らって、ベルトルドは頭を抱えた。
「あ、判ったわ! ベルは年上の女性に惚れてるんでしょ?」
ギクッとなって、ベルトルドは心の中でダラダラ汗を流し続けた。
「まさか、わたしとか?」
そう言われた瞬間、ベルトルドは打ちのめされたように愕然としていた。
リューディアの心の中が、視えてしまったからだ。
ベルトルドのサイ《超能力》は、学校の教師から付けられた腕の装飾品によって抑え込まれている。しかし、ベルトルドは伝えていないが、この装飾品は完全にはサイ《超能力》を抑え込みきれていないのだ。
だから、使えてしまう。
サイ《超能力》が。
そして視えてしまう、リューディアの心の中が。
ベルトルドへ向ける、淡い恋心が。
3歳も歳下の自分に、恋をするリューディアの本当の気持ちが。
リューディアの気を引きたくて、いつも怒られることばかり言う。気にかけて欲しくて、無茶ばかりをする。構って欲しくて、自分にだけ目を向けて欲しくて。
自分は歳下だから、少しでも大人びていたい。歳下なんだと意識して欲しくない。年上の女性(リューディア)に釣り合うような男でいたい。
最初は意図的にしていた。けれど、最近ではすでに当たり前の行動のようになっていて、とくにリューディアの気を引きたくてやっているつもりはない。
それなのに、伝わってしまっていたのだろうか、自分の小さな想いが。
願いが、叶ってしまったのだろうか。
隣に座るリューディアを、横目でじっと見つめる。
月や星の明かりの中でも煌くような金色の髪、日焼けもしない白い肌。スラリとした華奢な身体。そして時々目のやり場に困ってしまう、近頃目立ってきた胸のふくらみ。
敵うものなどいないと思わせる程の美しい顔には、海のように透明な青い瞳がはめ込まれていて、ベルトルドはその瞳が大好きだった。陽の光を弾いて煌く、海のようなその澄んだ青い瞳が。
その青い瞳に映し出されているのが、まさか自分だったなんて。
ベルトルドは嬉しかった。心底嬉しかった。しかし、その反面とても辛かった。
相思相愛なんだと、ベルトルドは告げることができない。
何故なら、アルカネットもリューディアが大好きだから。
本気で、恋をしているから。
「ディアは自惚れ屋なんだな! 俺はみんな大好きだし、まだ特定の女は選んでないぜ」
叫ぶように言って、ベルトルドは勢いよく立つ。
「もっとおっぱいが、バインバインの女が俺には似合うんだぜ!」
立ち上がったリューディアの胸に、両手を押し付けむにゅっと揉んだ。まだ小さいが、とても柔らかな感触が掌に広がる。
「ちょっ! なにすんのよベル!!」
「ディアのおっぱいじゃ、まだまだだな!」
「こんのおおおベルっ!!」
顔を真っ赤にして、握り拳を作ったリューディアは、逃げていくベルトルドの後を全力で追いかけた。
そう、自分とリューディアの関係は、これでいい。
(仲のいい姉弟のような、こんな関係でいいんだ)
自分には選べない。リューディアをとるか、アルカネットをとるか。
どちらも大切な存在だから。
この時ベルトルドは、自分の想いを胸に仕舞い、リューディアとアルカネットの行く末を、そっと見守ろうと決意していた。
「学校で好きな女の子でも出来たの~?」
ニヤニヤと聞かれて、ベルトルドは握り拳を作る。
「俺は女が好きだ。美醜はある程度問うが、女が大好きだ!」
高らかに言うと、リューディアのゲンコツが脳天に炸裂した。
「力込めすぎだぞディア……」
「リクハルドおじさんみたいなことを言わないの! まったく」
ベルトルドの父リクハルドも、酒が入ると「俺は女が大好きだー!」と叫ぶくせがある。父のクスタヴィによると、若い頃は女に手を出すのが早くて、奥さんのサーラには初めてフラレたことがきっかけで、プロポーズに至ったという。
「あんたってホント、リクハルドおじさんに似てるわね」
「遺伝だからしょうがない……」
「もっと子供っぽい単語を使いなさいっ」
再びゲンコツを食らって、ベルトルドは頭を抱えた。
「あ、判ったわ! ベルは年上の女性に惚れてるんでしょ?」
ギクッとなって、ベルトルドは心の中でダラダラ汗を流し続けた。
「まさか、わたしとか?」
そう言われた瞬間、ベルトルドは打ちのめされたように愕然としていた。
リューディアの心の中が、視えてしまったからだ。
ベルトルドのサイ《超能力》は、学校の教師から付けられた腕の装飾品によって抑え込まれている。しかし、ベルトルドは伝えていないが、この装飾品は完全にはサイ《超能力》を抑え込みきれていないのだ。
だから、使えてしまう。
サイ《超能力》が。
そして視えてしまう、リューディアの心の中が。
ベルトルドへ向ける、淡い恋心が。
3歳も歳下の自分に、恋をするリューディアの本当の気持ちが。
リューディアの気を引きたくて、いつも怒られることばかり言う。気にかけて欲しくて、無茶ばかりをする。構って欲しくて、自分にだけ目を向けて欲しくて。
自分は歳下だから、少しでも大人びていたい。歳下なんだと意識して欲しくない。年上の女性(リューディア)に釣り合うような男でいたい。
最初は意図的にしていた。けれど、最近ではすでに当たり前の行動のようになっていて、とくにリューディアの気を引きたくてやっているつもりはない。
それなのに、伝わってしまっていたのだろうか、自分の小さな想いが。
願いが、叶ってしまったのだろうか。
隣に座るリューディアを、横目でじっと見つめる。
月や星の明かりの中でも煌くような金色の髪、日焼けもしない白い肌。スラリとした華奢な身体。そして時々目のやり場に困ってしまう、近頃目立ってきた胸のふくらみ。
敵うものなどいないと思わせる程の美しい顔には、海のように透明な青い瞳がはめ込まれていて、ベルトルドはその瞳が大好きだった。陽の光を弾いて煌く、海のようなその澄んだ青い瞳が。
その青い瞳に映し出されているのが、まさか自分だったなんて。
ベルトルドは嬉しかった。心底嬉しかった。しかし、その反面とても辛かった。
相思相愛なんだと、ベルトルドは告げることができない。
何故なら、アルカネットもリューディアが大好きだから。
本気で、恋をしているから。
「ディアは自惚れ屋なんだな! 俺はみんな大好きだし、まだ特定の女は選んでないぜ」
叫ぶように言って、ベルトルドは勢いよく立つ。
「もっとおっぱいが、バインバインの女が俺には似合うんだぜ!」
立ち上がったリューディアの胸に、両手を押し付けむにゅっと揉んだ。まだ小さいが、とても柔らかな感触が掌に広がる。
「ちょっ! なにすんのよベル!!」
「ディアのおっぱいじゃ、まだまだだな!」
「こんのおおおベルっ!!」
顔を真っ赤にして、握り拳を作ったリューディアは、逃げていくベルトルドの後を全力で追いかけた。
そう、自分とリューディアの関係は、これでいい。
(仲のいい姉弟のような、こんな関係でいいんだ)
自分には選べない。リューディアをとるか、アルカネットをとるか。
どちらも大切な存在だから。
この時ベルトルドは、自分の想いを胸に仕舞い、リューディアとアルカネットの行く末を、そっと見守ろうと決意していた。
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