片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
735 / 882
奪われしもの編 彼女が遺した空への想い

episode672

しおりを挟む
 あまりにも正直な慌てふためきぶりに、指摘したリューディアのほうが困ってしまっていた。

「学校で好きな女の子でも出来たの~?」

 ニヤニヤと聞かれて、ベルトルドは握り拳を作る。

「俺は女が好きだ。美醜はある程度問うが、女が大好きだ!」

 高らかに言うと、リューディアのゲンコツが脳天に炸裂した。

「力込めすぎだぞディア……」

「リクハルドおじさんみたいなことを言わないの! まったく」

 ベルトルドの父リクハルドも、酒が入ると「俺は女が大好きだー!」と叫ぶくせがある。父のクスタヴィによると、若い頃は女に手を出すのが早くて、奥さんのサーラには初めてフラレたことがきっかけで、プロポーズに至ったという。

「あんたってホント、リクハルドおじさんに似てるわね」

「遺伝だからしょうがない……」

「もっと子供っぽい単語を使いなさいっ」

 再びゲンコツを食らって、ベルトルドは頭を抱えた。

「あ、判ったわ! ベルは年上の女性に惚れてるんでしょ?」

 ギクッとなって、ベルトルドは心の中でダラダラ汗を流し続けた。

「まさか、わたしとか?」

 そう言われた瞬間、ベルトルドは打ちのめされたように愕然としていた。

 リューディアの心の中が、視えてしまったからだ。

 ベルトルドのサイ《超能力》は、学校の教師から付けられた腕の装飾品によって抑え込まれている。しかし、ベルトルドは伝えていないが、この装飾品は完全にはサイ《超能力》を抑え込みきれていないのだ。

 だから、使えてしまう。

 サイ《超能力》が。

 そして視えてしまう、リューディアの心の中が。

 ベルトルドへ向ける、淡い恋心が。

 3歳も歳下の自分に、恋をするリューディアの本当の気持ちが。

 リューディアの気を引きたくて、いつも怒られることばかり言う。気にかけて欲しくて、無茶ばかりをする。構って欲しくて、自分にだけ目を向けて欲しくて。

 自分は歳下だから、少しでも大人びていたい。歳下なんだと意識して欲しくない。年上の女性(リューディア)に釣り合うような男でいたい。

 最初は意図的にしていた。けれど、最近ではすでに当たり前の行動のようになっていて、とくにリューディアの気を引きたくてやっているつもりはない。

 それなのに、伝わってしまっていたのだろうか、自分の小さな想いが。

 願いが、叶ってしまったのだろうか。

 隣に座るリューディアを、横目でじっと見つめる。

 月や星の明かりの中でも煌くような金色の髪、日焼けもしない白い肌。スラリとした華奢な身体。そして時々目のやり場に困ってしまう、近頃目立ってきた胸のふくらみ。

 敵うものなどいないと思わせる程の美しい顔には、海のように透明な青い瞳がはめ込まれていて、ベルトルドはその瞳が大好きだった。陽の光を弾いて煌く、海のようなその澄んだ青い瞳が。

 その青い瞳に映し出されているのが、まさか自分だったなんて。

 ベルトルドは嬉しかった。心底嬉しかった。しかし、その反面とても辛かった。

 相思相愛なんだと、ベルトルドは告げることができない。

 何故なら、アルカネットもリューディアが大好きだから。

 本気で、恋をしているから。

「ディアは自惚れ屋なんだな! 俺はみんな大好きだし、まだ特定の女は選んでないぜ」

 叫ぶように言って、ベルトルドは勢いよく立つ。

「もっとおっぱいが、バインバインの女が俺には似合うんだぜ!」

 立ち上がったリューディアの胸に、両手を押し付けむにゅっと揉んだ。まだ小さいが、とても柔らかな感触が掌に広がる。

「ちょっ! なにすんのよベル!!」

「ディアのおっぱいじゃ、まだまだだな!」

「こんのおおおベルっ!!」

 顔を真っ赤にして、握り拳を作ったリューディアは、逃げていくベルトルドの後を全力で追いかけた。

 そう、自分とリューディアの関係は、これでいい。

(仲のいい姉弟のような、こんな関係でいいんだ)

 自分には選べない。リューディアをとるか、アルカネットをとるか。

 どちらも大切な存在だから。

 この時ベルトルドは、自分の想いを胸に仕舞い、リューディアとアルカネットの行く末を、そっと見守ろうと決意していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...