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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode671
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その瞬間、気にもならなかった波の音が、騒音のように耳に流れ込んでくる。緩やかな風に揺れる椰子の葉音すら大音量に聞こえてしょうがない。
心臓が、トクンッと跳ねたような気がした。
何か言葉を紡がなければ。そう、どこかで別の自分が慌てふためいている。
「そうか。まあ、頑張れよ」
苦笑しながら言うベルトルドの顔を見て、アルカネットは安心したように微笑んだ。そして、宿題を終わらせるために、再びノートに顔を向ける。
「僕がリューディアに告白するから、ベルトルドは引き下がってね」
アルカネットの言葉が、胸にズキリと突き刺さる。
見透かされていたのだろうか? リューディアに向ける、密かな想いを。
心の中に過ぎっていった寂しいと感じる気持ちを、ベルトルドは表情には出さないよう一生懸命こらえていた。
夕飯が終わったあと、ベルトルドは外に出た。
ブラブラ歩いて、島で一番高い場所へとくる。
街灯もなく、月と星あかりだけで歩いてきたここは、島の南端にある岩場だった。
とてもとても小さい島なので、子供の足で一周しても30分でまわれてしまう。
ベルトルドはその場に座り、満天の夜空を見上げた。
スコールの季節は終わっている。殆ど晴れ間しかないミーナ群島では、星が大きく見えて、輝きもまた大きい。そしてその中で一際大きな輝きを放つ月もまた、とても美しく見えた。
昼間アルカネットに言われたことが、ずっと心の中で繰り返し再生されている。
――僕がリューディアに告白するから、ベルトルドは引き下がってね。
引き下がってね。
アルカネットは、自分の心の奥底に漂う気持ちに、気づいていたのだろう。
リューディアに気があると。
そうでなければ、わざわざ牽制などしてくるはずもない。
もっと幼い頃は、そういう気にはならなかった。リューディアは家族同然の存在で、姉であり、大切な友達の一人だ。でも、昨年くらいから、どこかリューディアが気になってしょうがない。毎日のように、そうした悶々とする思いが心の中で燻っていた。そんな時にアルカネットにああ言われ、妙に落ち込んでしまっているのだ。
ベルトルドもアルカネットも一人っ子で、兄弟がいない。しかしベルトルドは、アルカネットやリュリュが、弟のような気がしている。それでいつも、兄貴分な気持ちで2人に接していた。アルカネットにはそういうところはなく、一人っ子特有の独占欲で何事もとらえる。
恋をするのにそんな優先順位など関係ない。でも、弟のように思っているアルカネットが、引き下がれという。
リューディアもアルカネットも、ベルトルドにとっては大切な存在だ。
だから……。
「こんな遅くに何を黄昏ているのよ? 子供のくせに」
ビクッとして首を後ろに振り向けると、ランプを持ったリューディアが立っていた。
よりにもよって、このタイミングでリューディアが現れて、ベルトルドは暗がりで顔の色がはっきり見えないのを、心底感謝していた。何故ならとても、真っ赤になっていると自分でもよく判るからだ。
「あ、足音も立てずに近寄ってくるなよ、ビビったあ」
「あ~ら、あんたでもビビることあるんだ」
リューディアはニヤニヤと笑いながら近づいてきて、ベルトルドの横に座った。その時、ふわりと花の香りがして、ベルトルドの心臓がドキドキと早鐘を打った。
「どうしたのよ、こんなところで」
「ディアのほうこそ、なんで俺がここにいること知ってるんだ」
落ち込んでいるところを見られてしまい、ベルトルドの口調が突っ慳貪になる。
「ベルが出かけるところが見えたからよ。気になってついてきちゃった」
「ふーん」
「まさか、アレ? 恋の悩みとか」
「ばっ、ばっかじゃね! この俺がそんな子供みたいなことで悩む訳無いだろ!!」
「あんたまだ10歳の子供じゃない……」
「ぐぬ…」
心臓が、トクンッと跳ねたような気がした。
何か言葉を紡がなければ。そう、どこかで別の自分が慌てふためいている。
「そうか。まあ、頑張れよ」
苦笑しながら言うベルトルドの顔を見て、アルカネットは安心したように微笑んだ。そして、宿題を終わらせるために、再びノートに顔を向ける。
「僕がリューディアに告白するから、ベルトルドは引き下がってね」
アルカネットの言葉が、胸にズキリと突き刺さる。
見透かされていたのだろうか? リューディアに向ける、密かな想いを。
心の中に過ぎっていった寂しいと感じる気持ちを、ベルトルドは表情には出さないよう一生懸命こらえていた。
夕飯が終わったあと、ベルトルドは外に出た。
ブラブラ歩いて、島で一番高い場所へとくる。
街灯もなく、月と星あかりだけで歩いてきたここは、島の南端にある岩場だった。
とてもとても小さい島なので、子供の足で一周しても30分でまわれてしまう。
ベルトルドはその場に座り、満天の夜空を見上げた。
スコールの季節は終わっている。殆ど晴れ間しかないミーナ群島では、星が大きく見えて、輝きもまた大きい。そしてその中で一際大きな輝きを放つ月もまた、とても美しく見えた。
昼間アルカネットに言われたことが、ずっと心の中で繰り返し再生されている。
――僕がリューディアに告白するから、ベルトルドは引き下がってね。
引き下がってね。
アルカネットは、自分の心の奥底に漂う気持ちに、気づいていたのだろう。
リューディアに気があると。
そうでなければ、わざわざ牽制などしてくるはずもない。
もっと幼い頃は、そういう気にはならなかった。リューディアは家族同然の存在で、姉であり、大切な友達の一人だ。でも、昨年くらいから、どこかリューディアが気になってしょうがない。毎日のように、そうした悶々とする思いが心の中で燻っていた。そんな時にアルカネットにああ言われ、妙に落ち込んでしまっているのだ。
ベルトルドもアルカネットも一人っ子で、兄弟がいない。しかしベルトルドは、アルカネットやリュリュが、弟のような気がしている。それでいつも、兄貴分な気持ちで2人に接していた。アルカネットにはそういうところはなく、一人っ子特有の独占欲で何事もとらえる。
恋をするのにそんな優先順位など関係ない。でも、弟のように思っているアルカネットが、引き下がれという。
リューディアもアルカネットも、ベルトルドにとっては大切な存在だ。
だから……。
「こんな遅くに何を黄昏ているのよ? 子供のくせに」
ビクッとして首を後ろに振り向けると、ランプを持ったリューディアが立っていた。
よりにもよって、このタイミングでリューディアが現れて、ベルトルドは暗がりで顔の色がはっきり見えないのを、心底感謝していた。何故ならとても、真っ赤になっていると自分でもよく判るからだ。
「あ、足音も立てずに近寄ってくるなよ、ビビったあ」
「あ~ら、あんたでもビビることあるんだ」
リューディアはニヤニヤと笑いながら近づいてきて、ベルトルドの横に座った。その時、ふわりと花の香りがして、ベルトルドの心臓がドキドキと早鐘を打った。
「どうしたのよ、こんなところで」
「ディアのほうこそ、なんで俺がここにいること知ってるんだ」
落ち込んでいるところを見られてしまい、ベルトルドの口調が突っ慳貪になる。
「ベルが出かけるところが見えたからよ。気になってついてきちゃった」
「ふーん」
「まさか、アレ? 恋の悩みとか」
「ばっ、ばっかじゃね! この俺がそんな子供みたいなことで悩む訳無いだろ!!」
「あんたまだ10歳の子供じゃない……」
「ぐぬ…」
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