片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い

episode669

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「それは私も同じ意見だねえ。私は建築スキル〈才能〉だが、アルカネットは魔法スキル〈才能〉ときたもんだ。オマケにアルカネットもOverランクの判定をもらってきたばかりですよ」

 レアスキル〈才能〉の中でもサイ《超能力》と魔法のスキル〈才能〉を授かって生まれてくると、毎年能力値検査を受けさせられる。これは自由都市でも必ず行われていた。

 一昨日その検査があり、ベルトルド同様異例中の異例として、Overランクを授けられたばかりだ。

 魔力を均等に引き出し魔法を放つために、魔具を使ってコントロールする。とくにアルカネットの場合、自らの身体そのものが魔具の役割を果たすため、魔具を必要としない。更に呪文によって魔力から魔法のための力を引き出すが、呪文すら必要がない。無詠唱魔法が可能な魔法使いだ。

 まさに想像を絶するレベルのことで、ベルトルドと揃って、神域能力者などとゼイルストラ・カウプンキでは知れ渡っていた。

「歩く小さな危険物ですな。オレのリュリュは無難にSランクでした」

 リューディアとリュリュの父クスタヴィは、魚の入った大きなバケツを両手に下げて、笑いながらテラスに戻ってきた。危険物扱いされて、ベルトルドとアルカネットがムスッと顔を歪める。危険物という表現に、2人の両親は大笑いしていた。

「Sランクを無難とは言わない気がする……」

 クスタヴィの後ろから、妻のカーリナがため息混じりにつっこんだ。それにも笑いがおこる。

 本来これだけのレアスキル〈才能〉持ちが、一箇所に生まれてくることなど珍しい。皆ランクも計り知れなく、リュリュもSランクとはいえ、ずば抜けた能力値なのだ。しかしもっとすごいレアスキル〈才能〉持ちもいた。

「これだけのレアスキル〈才能〉持ちがいるみんなの中で、一番素敵なスキル〈才能〉を授かったのは、リューディアちゃんね」

 アルカネットの母レンミッキが、にっこりと言った。

「そうだよ。リューディアのスキル〈才能〉が一番凄いよ!」

 アルカネットも母に賛同するように、勢い込んで身を乗り出す。

「ふふっ」

 隣に座るアルカネットに、リューディアは嬉しそうに笑いかけた。

「2年後には、ハワドウレ皇国にある機械工学専門の学校に入れるの。そしたら超古代文明の遺産に触れたり、自分の発明を形にすることができるんですって」

「リューディアは設計するのが好きだもんね」

「ええ。色んなアイデアを描き貯めてるわ。このスケッチブックは、わたしの夢と希望が詰まった、魔法のスケッチブックよ」

 顔から光がこぼれ落ちそうなほど、リューディアの笑顔は素敵だった。ゼイルストラ・カウプンキでも一番の美少女と評判なほどだ。

 レアスキル〈才能〉の中で人々が求める最高のものは、機械工学スキル〈才能〉だ。

 超古代文明の遺産と呼ばれる、1万年前の世界の遺物を、発掘して修理し、再び使用可能とすることができる。

 そこから新たに発明をして、船や汽車などの開発、一般には使用されていない車なども、機械工学スキル〈才能〉を持つ者たちによって作られていた。

 機械工学スキル〈才能〉を授かって生まれてくる者も、また少ない。そうした機械工学スキル〈才能〉を授かってきた子供は、15歳になるとハワドウレ皇国にある専門学校に入学が義務付けられ、あらゆる分野の適性を磨く。それは自由都市出身者もけっして例外ではない。

 今年13歳になるリューディアも、すでに2年後の入学が決まっている。

「リューディアは学校へ行って、何を作りたいの?」

 アルカネットが覗き込むようにしてたずねると、リューディアはテラスの向こうに広がる真っ青な空を見つめた。

「空を飛ぶ乗り物よ」

 迷いのない返事が、すぐ返ってきた。

「乗り物が空を飛ぶの??」

 アルカネットが目を丸くする。

「ふふ、そうよ。空を自由に飛べる乗り物。わたし、そういうものが作りたいの」

 この世界には空を飛ぶ乗り物がない。空を飛べるのは、サイ《超能力》と魔法のスキル〈才能〉を持つ者か、アイオン族だけである。だから、空を飛ぶ乗り物、と言われても、アルカネットにはピンとこない。

「乗り物が空を飛ぶなんて、リューディアは変わった発想をするんだね」

「あら、そう? だって、ベルもアルも自由に空を飛べるじゃない。でも、空を飛べる人間なんて限られてるし。それに」

 リューディアは真剣な顔になる。

「遠いところへ行くためにはエグザイル・システムを使うでしょ。でもわたしたちの自由都市にはエグザイル・システムがないわ。ほかの自由都市にもないし。だから移動も不便だしね。でも空を飛べたら、うんと早く行けるのよ。山も海もひとっ飛び~ってね」

「そうだね、そうなったら素敵だね」

「そうでしょう。だからわたしは、空を飛ぶ乗り物を発明するの」

 やる気満々の表情で、リューディアはきっぱりと言い放った。

「リューディアなら絶対できるよ」

「ありがとう、アル」

 にっこりと笑い合う2人を少し離れたところで見ていたベルトルドは、優しい微笑みを、そっとリューディアに向けた。
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