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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode668
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3種族の惑星には、それぞれ自由都市というものが、いくつも存在している。
種族統一国家を嫌う人々が集まり、小さな町を興し、そこから都市規模まで発展したものを、自由都市と総称している。
かつては種族統一国家の弾圧を受けていたが、長い交渉と小競り合いを経て、不可侵条約が結ばれた。それは3種族共通の取り決めとして、現在に至っている。
その代償として、何が起きても救助も救援も求めることができず、支援を受けることもできない。一切の干渉をしないとされた。そして、エグザイル・システムを所有しないことも条件のひとつとなっている。不可侵条約という背景上、犯罪者の逃亡先の温床となることを、なるべく防ぐためとも言われていた。
独立して国として認められている小国などは、存続のために種族統一国家に税を納め、色々な制約を課せられている。そのため完全な独立国家とは言えず、その見返りとして、エグザイル・システムの所有は認められていた。
ヴィプネン族が治める惑星ヒイシには、5つの自由都市がある。その中で海洋リゾート地として名高く、赤道沿いに近いところにある自由都市を、ゼイルストラ・カウプンキという。
大きな島アーナンドを中心に、無数の小さな島が集まる群島で、ミーナ群島と呼ばれるところだ。
アーナンド島は行政機関、商業施設、宿泊施設、病院や学校など、都市として必要なものが全て集い、住民の生活区域は周辺の小島などにある。
ゼイルストラ・カウプンキへのアクセスは、ウエケラ大陸から船が出ている。およそ半日の航海で行くことができるため、バカンスを楽しむ富裕層が多く訪れていた。
多くの島民はアーナンド島に近い小島に家屋を構えていたが、離れていても美しく静かな小島を好んだ3家族が、シャシカラ島に住んでいた。そのためアーナンド島へは船で1時間もかかる。
「ディアは乱暴だな、浴槽に勢いよく放り込まれたぞ」
風呂に入って着替えたベルトルドは、肉や野菜を刺した串を片手に文句を言う。濡れていた髪の毛は、すぐに陽の光で乾いていた。
「おかげで綺麗になったでしょう」
ジュースのグラスを両手で挟んで、リューディアはすました表情で、ストローでジュースをすすった。
「ベルトルドが海に飛び込むからいけないんだよ」
リューディアの横にぴったりとくっつくように座るアルカネットが、本気で責めるように言った。
「砂を払い落とす時間を、短縮しただけだ」
ツンっとそっぽを向くと、ベルトルドは拗ねたように唇を尖らせた。そして、右の手首にしっかりと巻きつけられた金属を、忌々しげに見つめる。
「こんなモンがあるから、色々不便なんだよ……」
左手で金属を外そうと試みるが、ぴったりと皮膚に貼り付いたようにして離れなかった。
「コラコラ、とっちゃだめだぞー。学校の先生のお許しが出るまでは」
焚き火台の前で汗しながら肉を焼いているベルトルドの父リクハルドが、首を横に振った。
「そうよ、あなたはまだ、力のコントロールが完璧じゃないんだから。何か事故でも起きたら大変でしょう?」
母サーラが、息子を抱き寄せながら頭にキスをする。
ベルトルドのスキル〈才能〉はサイ《超能力》。レアスキル〈才能〉の一つで、ベルトルドは異常に能力値が高かった。
スキル〈才能〉をランクで表すと、最高値はSクラスになる。しかしベルトルドの能力値はSクラスも遥かに突き抜け、異例中の異例でOverランクに付けられていた。もはや計測不能な領域という意味だ。
そのあまりにも強すぎるサイ《超能力》は、まだ10歳のベルトルドには扱いが難しく、コントロールが思うようにできない。特に透視の分野では、勝手に他人の思考や記憶が流れ込んできてしまうため、それで心や精神を疲弊させてしまう。
そこで、能力を抑え込んでしまう特殊な装飾品をつけられ、普段はサイ《超能力》が使えないようになっていた。学校に行った時にのみ、専任の教師が装飾品を外してくれる。
「俺に似て、料理スキル〈才能〉で生まれてくれば、そんな面倒な思いをせずにすんだのに。なあ」
リクハルドは隣で一緒に肉を焼く、アルカネットの父イスモに笑いかける。
種族統一国家を嫌う人々が集まり、小さな町を興し、そこから都市規模まで発展したものを、自由都市と総称している。
かつては種族統一国家の弾圧を受けていたが、長い交渉と小競り合いを経て、不可侵条約が結ばれた。それは3種族共通の取り決めとして、現在に至っている。
その代償として、何が起きても救助も救援も求めることができず、支援を受けることもできない。一切の干渉をしないとされた。そして、エグザイル・システムを所有しないことも条件のひとつとなっている。不可侵条約という背景上、犯罪者の逃亡先の温床となることを、なるべく防ぐためとも言われていた。
独立して国として認められている小国などは、存続のために種族統一国家に税を納め、色々な制約を課せられている。そのため完全な独立国家とは言えず、その見返りとして、エグザイル・システムの所有は認められていた。
ヴィプネン族が治める惑星ヒイシには、5つの自由都市がある。その中で海洋リゾート地として名高く、赤道沿いに近いところにある自由都市を、ゼイルストラ・カウプンキという。
大きな島アーナンドを中心に、無数の小さな島が集まる群島で、ミーナ群島と呼ばれるところだ。
アーナンド島は行政機関、商業施設、宿泊施設、病院や学校など、都市として必要なものが全て集い、住民の生活区域は周辺の小島などにある。
ゼイルストラ・カウプンキへのアクセスは、ウエケラ大陸から船が出ている。およそ半日の航海で行くことができるため、バカンスを楽しむ富裕層が多く訪れていた。
多くの島民はアーナンド島に近い小島に家屋を構えていたが、離れていても美しく静かな小島を好んだ3家族が、シャシカラ島に住んでいた。そのためアーナンド島へは船で1時間もかかる。
「ディアは乱暴だな、浴槽に勢いよく放り込まれたぞ」
風呂に入って着替えたベルトルドは、肉や野菜を刺した串を片手に文句を言う。濡れていた髪の毛は、すぐに陽の光で乾いていた。
「おかげで綺麗になったでしょう」
ジュースのグラスを両手で挟んで、リューディアはすました表情で、ストローでジュースをすすった。
「ベルトルドが海に飛び込むからいけないんだよ」
リューディアの横にぴったりとくっつくように座るアルカネットが、本気で責めるように言った。
「砂を払い落とす時間を、短縮しただけだ」
ツンっとそっぽを向くと、ベルトルドは拗ねたように唇を尖らせた。そして、右の手首にしっかりと巻きつけられた金属を、忌々しげに見つめる。
「こんなモンがあるから、色々不便なんだよ……」
左手で金属を外そうと試みるが、ぴったりと皮膚に貼り付いたようにして離れなかった。
「コラコラ、とっちゃだめだぞー。学校の先生のお許しが出るまでは」
焚き火台の前で汗しながら肉を焼いているベルトルドの父リクハルドが、首を横に振った。
「そうよ、あなたはまだ、力のコントロールが完璧じゃないんだから。何か事故でも起きたら大変でしょう?」
母サーラが、息子を抱き寄せながら頭にキスをする。
ベルトルドのスキル〈才能〉はサイ《超能力》。レアスキル〈才能〉の一つで、ベルトルドは異常に能力値が高かった。
スキル〈才能〉をランクで表すと、最高値はSクラスになる。しかしベルトルドの能力値はSクラスも遥かに突き抜け、異例中の異例でOverランクに付けられていた。もはや計測不能な領域という意味だ。
そのあまりにも強すぎるサイ《超能力》は、まだ10歳のベルトルドには扱いが難しく、コントロールが思うようにできない。特に透視の分野では、勝手に他人の思考や記憶が流れ込んできてしまうため、それで心や精神を疲弊させてしまう。
そこで、能力を抑え込んでしまう特殊な装飾品をつけられ、普段はサイ《超能力》が使えないようになっていた。学校に行った時にのみ、専任の教師が装飾品を外してくれる。
「俺に似て、料理スキル〈才能〉で生まれてくれば、そんな面倒な思いをせずにすんだのに。なあ」
リクハルドは隣で一緒に肉を焼く、アルカネットの父イスモに笑いかける。
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