728 / 882
奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode665
しおりを挟む
「さあリッキー、目を開けてごらん」
耳元で囁くように言われて、キュッリッキはゆっくりと目を開いた。
「うわっ」
目に飛び込んできたそれにびっくりして、キュッリッキは胸の前で手を組んだ。
それは、巨大な白い月だった。
丸くて大きな、大きな月。
「あれ、本物の月なの?」
隣に座るベルトルドに顔を向けて、小さく首をかしげる。
「月の映像なんだ。実際の月はもっともっと大きいんだよ」
「そうなんだ~。凄い迫力だけど綺麗、とっても」
丸い輪郭は、柔らかな白い光に覆われていて、濃紺の空間に凛と浮いている。
キュッリッキは周りを見回すと、とても不思議な空間にいることに気づいた。
天井や壁は吸い込まれそうなほど透明で青く、まるで水底を彷彿とさせる。そして床もキラキラと青い水晶のようで、そこに置かれたソファに座っていた。
つい先程までアジトにいたのに、一瞬でこんな不思議で素敵なところに移動してしまっている。そうキュッリッキは思っていた。しかし、意識を奪われ、その間に色々なことが起こったことは知らない。それは、ベルトルドによって意識を奪われていたからだ。
「ここが、ベルトルドさんの隠れ家なの? あの月の映像が、コレクション?」
「そうだよ。リッキーが俺の所へ来る前は、一人になりたい時は、ここへきて、あの月をじっと眺めるのが好きだったんだ」
とても穏やかで優しい口調のベルトルドに、キュッリッキもつられて小さく微笑む。
「なんか、気持ちが落ち着く部屋だね。水の中にいるような気分」
「そうだろう。俺は、青い色が大好きだ」
「アタシもそう。でも、アタシの好きな青は、空の色なの。高く高く続く深い青い色。ここの青は、水の底みたいな深い青だね」
「ああ。リッキーとは逆に、俺は水の底の青が好きなんだ」
同じ青でも、見ている場所は違う。
キュッリッキは飛べない空に憧れているから、空の青が大好きだった。自分の目で見える空の青は、水色に近い色をしている。しかし、自由に空を飛べたら、きっともっと濃くて深い青色が見えるだろう。
アルケラから召喚した空を飛べるものたちに連れて行ってもらえば、好きな青色を見ることができる。しかし、翼を授かって生まれてきたアイオン族であるキュッリッキは、自分自身の翼で空を翔け上がりたいのだ。
でもそれは、願望でしかない。生まれつき片方の翼が奇形で育っておらず、自力で空を飛ぶことができないからだ。
飛べないからこそ憧れる空。自由に羽ばたきたいと願う空の青い空間。飛べないと判っていても、願いは青色に込めて、気持ちの中に持ち続けていた。
同じように青色が好きなベルトルドは、一体どんな思いを込めて、水の底の青色を見つめているのだろうか。
「リッキーは、月の別名を知っているかい?」
「別名? 月にほかの名前があるんだ??」
「うん」
ベルトルドはにっこりと笑いかける。
「アルケラの門、と昔は言っていたんだよ」
「アルケラの門……」
「そう、あの月を通って、神々の世界アルケラへ行けるのだと、昔の人々は信じていたんだ」
耳元で囁くように言われて、キュッリッキはゆっくりと目を開いた。
「うわっ」
目に飛び込んできたそれにびっくりして、キュッリッキは胸の前で手を組んだ。
それは、巨大な白い月だった。
丸くて大きな、大きな月。
「あれ、本物の月なの?」
隣に座るベルトルドに顔を向けて、小さく首をかしげる。
「月の映像なんだ。実際の月はもっともっと大きいんだよ」
「そうなんだ~。凄い迫力だけど綺麗、とっても」
丸い輪郭は、柔らかな白い光に覆われていて、濃紺の空間に凛と浮いている。
キュッリッキは周りを見回すと、とても不思議な空間にいることに気づいた。
天井や壁は吸い込まれそうなほど透明で青く、まるで水底を彷彿とさせる。そして床もキラキラと青い水晶のようで、そこに置かれたソファに座っていた。
つい先程までアジトにいたのに、一瞬でこんな不思議で素敵なところに移動してしまっている。そうキュッリッキは思っていた。しかし、意識を奪われ、その間に色々なことが起こったことは知らない。それは、ベルトルドによって意識を奪われていたからだ。
「ここが、ベルトルドさんの隠れ家なの? あの月の映像が、コレクション?」
「そうだよ。リッキーが俺の所へ来る前は、一人になりたい時は、ここへきて、あの月をじっと眺めるのが好きだったんだ」
とても穏やかで優しい口調のベルトルドに、キュッリッキもつられて小さく微笑む。
「なんか、気持ちが落ち着く部屋だね。水の中にいるような気分」
「そうだろう。俺は、青い色が大好きだ」
「アタシもそう。でも、アタシの好きな青は、空の色なの。高く高く続く深い青い色。ここの青は、水の底みたいな深い青だね」
「ああ。リッキーとは逆に、俺は水の底の青が好きなんだ」
同じ青でも、見ている場所は違う。
キュッリッキは飛べない空に憧れているから、空の青が大好きだった。自分の目で見える空の青は、水色に近い色をしている。しかし、自由に空を飛べたら、きっともっと濃くて深い青色が見えるだろう。
アルケラから召喚した空を飛べるものたちに連れて行ってもらえば、好きな青色を見ることができる。しかし、翼を授かって生まれてきたアイオン族であるキュッリッキは、自分自身の翼で空を翔け上がりたいのだ。
でもそれは、願望でしかない。生まれつき片方の翼が奇形で育っておらず、自力で空を飛ぶことができないからだ。
飛べないからこそ憧れる空。自由に羽ばたきたいと願う空の青い空間。飛べないと判っていても、願いは青色に込めて、気持ちの中に持ち続けていた。
同じように青色が好きなベルトルドは、一体どんな思いを込めて、水の底の青色を見つめているのだろうか。
「リッキーは、月の別名を知っているかい?」
「別名? 月にほかの名前があるんだ??」
「うん」
ベルトルドはにっこりと笑いかける。
「アルケラの門、と昔は言っていたんだよ」
「アルケラの門……」
「そう、あの月を通って、神々の世界アルケラへ行けるのだと、昔の人々は信じていたんだ」
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧乏秀才令嬢がヤサグレ天才少年と、世界の理を揺るがします。
凜
恋愛
貧乏貴族のダリアは、国一番の魔法学校の副首席。首席になりたいのに、その壁はとんでもなくぶあつく…。
ある日謎多き少年シアンと出会い、彼が首席とわかるやいなや強烈な興味を持ち粘着するようになった。
クセの多い登場人物が織りなす、身分、才能、美醜が絡み、陰謀渦巻く魔法学校でのスクールストーリー。
ヒロインは始まる前に退場していました
サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女
産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。
母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場
捨てる神あれば拾う神あり?
人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。
そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。
主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。
ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。
同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております
追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新としております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる