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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode664
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背中の痛みは大して気にはならなかったが、意識を失っている間にキュッリッキを連れ去られてしまったことは、不覚としか言い様がない。
メルヴィンは瓦礫に寄りかかり、座り込んで項垂れていた。その傍らにいるカーティスとランドンは、かける言葉が見つからずに、困ったように佇んでいる。
「カーティス」
ギャリーに名を呼ばれ顔を向けると、カーティスは「ゲッ」と小さく驚いて目を見開いた。
「リュリュさん」
「なあーにがゲッよ。失礼しちゃうわねン」
あの距離で聞こえたのかよと、カーティスはうんざりと胸中でため息をついた。
カーティスの足元に座り込んでいるメルヴィンに目を向け、リュリュは肩をすくめる。
「随分と容赦なく吹っ飛ばされたようね。怪我自体はたいしたことなくてよかったわ」
「あ~れぇ、パウリじゃん~~」
集まってきたマリオンが、リュリュの背後に控えている男に手を振る。
「やあマリオン、元気そうだね」
パウリ少佐は柔らかな笑みをマリオンに向ける。
モナルダ大陸戦争時に世話になったダエヴァのひとだ、とルーファスは思い出す。マリオンとパウリ少佐はかつて恋人同士だったと、ベルトルドが言っていたことも思い出した。
「さて、みんな集まったかしらん」
リュリュは集まった面々を見渡し、キュッリッキを除く全員が集まったことを確認する。
「ベルの雷霆(ケラウノス)の攻撃は、そこの狼ちゃんが守ってくれたようね。よくやったわ、フローズヴィトニル」
褒められたフローズヴィトニルは、嬉しそうに小さく鳴き声をあげた。
「正直言うと、ベルがここまで徹底的にやるとは思ってなかったわ。よっぽどストレス溜まってたのか、いよいよかと気持ちが昂ぶって抑えきれなかったのか……」
リュリュは口をへの字に曲げて、肩で息をつく。
エルダー街のライオン傭兵団のアジトを中心に、半径5キロほどの広範囲を炎の海に沈めているという。ハーメンリンナは強固な城壁に守られて、火の驚異から免れて無事らしい。
炎に包まれる広大な街を目にし、改めてベルトルドの力が強大なものであると、皆痛感していた。
「リュリュさん、あの人は一体何をしようとしているんですか? キューリさんを攫って」
カーティスが不安げにもらすと、リュリュは目を伏せる。
「それをあーたたちに教えに来たのよ。そして、小娘を救い出し、ベルの計画を阻止してもらうために」
「リッキーを救い……何か、リッキーが危険なめにあうと言うんですか!」
メルヴィンは顔を上げてリュリュを睨む。
痛いほど真っ直ぐなその目を見て、リュリュはフイっと顔を背けた。そして小さくため息をつく。
「これからちょっと、長い話を聞いてもらうことになるわ。話を聞きながら、戦闘準備をなさい。必要なものはこちらで用意させてあるから」
リュリュが手をスッと上げると、背後に控えていたパウリ少佐が敬礼した。そして数名のダエヴァの軍人たちに合図をすると、様々な荷物を抱えた軍人たちが、それをライオン傭兵団の前に積み上げていく。
「話をよく聞いて、各自しっかり覚悟を決めなさい」
メルヴィンは瓦礫に寄りかかり、座り込んで項垂れていた。その傍らにいるカーティスとランドンは、かける言葉が見つからずに、困ったように佇んでいる。
「カーティス」
ギャリーに名を呼ばれ顔を向けると、カーティスは「ゲッ」と小さく驚いて目を見開いた。
「リュリュさん」
「なあーにがゲッよ。失礼しちゃうわねン」
あの距離で聞こえたのかよと、カーティスはうんざりと胸中でため息をついた。
カーティスの足元に座り込んでいるメルヴィンに目を向け、リュリュは肩をすくめる。
「随分と容赦なく吹っ飛ばされたようね。怪我自体はたいしたことなくてよかったわ」
「あ~れぇ、パウリじゃん~~」
集まってきたマリオンが、リュリュの背後に控えている男に手を振る。
「やあマリオン、元気そうだね」
パウリ少佐は柔らかな笑みをマリオンに向ける。
モナルダ大陸戦争時に世話になったダエヴァのひとだ、とルーファスは思い出す。マリオンとパウリ少佐はかつて恋人同士だったと、ベルトルドが言っていたことも思い出した。
「さて、みんな集まったかしらん」
リュリュは集まった面々を見渡し、キュッリッキを除く全員が集まったことを確認する。
「ベルの雷霆(ケラウノス)の攻撃は、そこの狼ちゃんが守ってくれたようね。よくやったわ、フローズヴィトニル」
褒められたフローズヴィトニルは、嬉しそうに小さく鳴き声をあげた。
「正直言うと、ベルがここまで徹底的にやるとは思ってなかったわ。よっぽどストレス溜まってたのか、いよいよかと気持ちが昂ぶって抑えきれなかったのか……」
リュリュは口をへの字に曲げて、肩で息をつく。
エルダー街のライオン傭兵団のアジトを中心に、半径5キロほどの広範囲を炎の海に沈めているという。ハーメンリンナは強固な城壁に守られて、火の驚異から免れて無事らしい。
炎に包まれる広大な街を目にし、改めてベルトルドの力が強大なものであると、皆痛感していた。
「リュリュさん、あの人は一体何をしようとしているんですか? キューリさんを攫って」
カーティスが不安げにもらすと、リュリュは目を伏せる。
「それをあーたたちに教えに来たのよ。そして、小娘を救い出し、ベルの計画を阻止してもらうために」
「リッキーを救い……何か、リッキーが危険なめにあうと言うんですか!」
メルヴィンは顔を上げてリュリュを睨む。
痛いほど真っ直ぐなその目を見て、リュリュはフイっと顔を背けた。そして小さくため息をつく。
「これからちょっと、長い話を聞いてもらうことになるわ。話を聞きながら、戦闘準備をなさい。必要なものはこちらで用意させてあるから」
リュリュが手をスッと上げると、背後に控えていたパウリ少佐が敬礼した。そして数名のダエヴァの軍人たちに合図をすると、様々な荷物を抱えた軍人たちが、それをライオン傭兵団の前に積み上げていく。
「話をよく聞いて、各自しっかり覚悟を決めなさい」
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