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召喚士編
episode661
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真っ白なドレスに身を包み、裾を踏まないか気をつけながら、ゆっくりと歩いてきた。
「大人っぽいデザインだね。似合うかなあ」
ちょっとはしゃいだように言うキュッリッキに、ベルトルドは感無量の表情を浮かべると、凄いスピードで抱きついて、高速スリスリをしていた。
「美しいぞ! 美しすぎるぞ俺のリッキー!!!」
「………」
もはやいつものパターンですっかり慣れっこになっていたので、キュッリッキはされるがまま疲れたようにため息をついた。
(あれ? ベルトルドさんに触られても、あんまり怖くないかも……)
しっかり抱きしめられ、頬ずりされているけど、身体は竦んでいないし怖くなかった。ベルトルド邸で暮らしていた時と、なんら変わらない感覚だ。
メルヴィンが怖くなくなったから、もう大丈夫になったのだろうか。
試しに近くにいるギャリーに触れようとしたが、キュッリッキの手は石になったように固まってしまっていた。
(治ったわけじゃないんだ……)
せめて、ライオン傭兵団の仲間たちだけでも、大丈夫になればいいのにと、キュッリッキはガッカリしてため息をついていた。
「俺の可愛い可愛い女神様、さあ、行こうか」
「うん…」
ベルトルドはすっかり上機嫌のようだ。
「リッキー、目を閉じてごらん」
「え? う、うん。こう?」
言われるがまま素直に目を閉じる。
その瞬間、キュッリッキは意識を失い、ベルトルドの腕の中に倒れ込んでしまった。
「!?」
異変に気づいてメルヴィンが駆け寄ろうとした。しかし、
「邪魔だ」
ベルトルドはメルヴィンに掌を向ける。すると、目に見えない衝撃波がメルヴィンを後方へ吹き飛ばし、玄関扉を突き破って向かい側の建物の壁に叩きつけた。
「なにしやがる!?」
ギャリーが吠えて、金縛りが解けたランドンが、慌ててメルヴィンへ駆け寄る。
「メルヴィン、メルヴィンしっかり!」
壁に叩きつけられた時の衝撃が大きかったのか、石造りの壁には亀裂が入り、メルヴィンは気を失っていた。
「御大、一体何を…」
「俺はもう、お前たちの保護者じゃない。副宰相の職を辞した瞬間から、リッキーのこと以外の全ての責務を放棄している。すでに無関係のお前たちに、とやかく言われる筋合いのことではないぞ」
不敵な笑みを口の端に滲ませ、キュッリッキを片腕に抱いたまま外に出た。そして気を失っているメルヴィンに、嘲笑を含んだ一瞥を投げかける。
「お前になど、守れるものか。ママゴトごっこはもう終わりだ」
気を失っているキュッリッキの額に優しく口付けると、ベルトルドは地面を蹴って宙へ飛び上がった。
ゆっくりと上空へあがり、ベルトルドは足元に集まるライオン傭兵団や、騒ぎで出てきた近隣の傭兵たちを睥睨した。
秋風の中に寒気が混ざり肌寒い。腕に抱いたキュッリッキの細い身体の温もりが、服越しに感じられて心地よかった。
ベルトルドはもう片方の手で、雷霆(ケラウノス)を形作り始めた。大気に漂う微量の電気エネルギーが、ベルトルドの掌に集まり凝縮されていく。
「おい…、あれ、ヤバくねえか」
下から見上げて、ギャリーが額に汗を浮かべる。
「おっさんの超必殺技じゃね? 遺跡で見せつけられた」
ザカリーが眉をしかめて唸った。
「まっさか……オレたちに向けて投げつけてくる、なーんてことはナイ……よね?」
「投げてきそうですねえ……。なんにしても、あんなものを食らったら近所迷惑のレベルを遥かに超えますよ」
頼りなげに言うルーファスに返事をしつつ、カーティスは周囲にいる人々に叫んだ。
「サイ《超能力》使いは防御を広範囲に展開、魔法使いは超広域防御魔法を今すぐです!!」
近所の傭兵たちも、カーティスのただならぬ声に弾かれて、それぞれ叫び始めた。
その様子を上空から見ていたベルトルドは、小馬鹿にしたように鼻で笑う。
すでに雷霆(ケラウノス)は完成している。黄金のような光沢を放つ、電気エネルギーを凝縮したそれを、ベルトルドは掴んだ。そして、もう少し上に浮上する。
「長いようで短い付き合いだったが、後腐れないように消し炭にしてくれよう。さらばだ、愛すべきバカ者共!!」
夜空に轟き渡るほどの嘲笑を足元に見舞い、ライオン傭兵団のアジトめがけ、勢いよく雷霆(ケラウノス)を投げつけた。
雷霆(ケラウノス)はアジトの屋根に突き刺さると、カッと激しく発光し、盛大に爆発した。
一瞬にして皇都イララクス全体が激しく照らし出され、夜空も白く染まった。そのあと、世界が崩壊するのではないかと思わせる程の爆音が轟き、地面は大地震のように震え、無数の電気がムチのようにしなって皇都中を暴れまわった。
世界に類を見ない規模を誇るハワドウレ皇国の皇都イララクスは、その日激しい炎に包まれ真紅の都と化した。
************
召喚士編終わります。次回から新章に入りますね。
まだ見直し箇所が多いので、都度アップしていきます。
ベルトルドたちの幼少期のエピソードもありますが、後半性描写シーンが含まれる事になるので、不快に感じる方はご注意ください。結構重いお話になります。
マッハ更新中ですが、お時間のあるときにでも、のんびり読んでいただけると嬉しいです!
「大人っぽいデザインだね。似合うかなあ」
ちょっとはしゃいだように言うキュッリッキに、ベルトルドは感無量の表情を浮かべると、凄いスピードで抱きついて、高速スリスリをしていた。
「美しいぞ! 美しすぎるぞ俺のリッキー!!!」
「………」
もはやいつものパターンですっかり慣れっこになっていたので、キュッリッキはされるがまま疲れたようにため息をついた。
(あれ? ベルトルドさんに触られても、あんまり怖くないかも……)
しっかり抱きしめられ、頬ずりされているけど、身体は竦んでいないし怖くなかった。ベルトルド邸で暮らしていた時と、なんら変わらない感覚だ。
メルヴィンが怖くなくなったから、もう大丈夫になったのだろうか。
試しに近くにいるギャリーに触れようとしたが、キュッリッキの手は石になったように固まってしまっていた。
(治ったわけじゃないんだ……)
せめて、ライオン傭兵団の仲間たちだけでも、大丈夫になればいいのにと、キュッリッキはガッカリしてため息をついていた。
「俺の可愛い可愛い女神様、さあ、行こうか」
「うん…」
ベルトルドはすっかり上機嫌のようだ。
「リッキー、目を閉じてごらん」
「え? う、うん。こう?」
言われるがまま素直に目を閉じる。
その瞬間、キュッリッキは意識を失い、ベルトルドの腕の中に倒れ込んでしまった。
「!?」
異変に気づいてメルヴィンが駆け寄ろうとした。しかし、
「邪魔だ」
ベルトルドはメルヴィンに掌を向ける。すると、目に見えない衝撃波がメルヴィンを後方へ吹き飛ばし、玄関扉を突き破って向かい側の建物の壁に叩きつけた。
「なにしやがる!?」
ギャリーが吠えて、金縛りが解けたランドンが、慌ててメルヴィンへ駆け寄る。
「メルヴィン、メルヴィンしっかり!」
壁に叩きつけられた時の衝撃が大きかったのか、石造りの壁には亀裂が入り、メルヴィンは気を失っていた。
「御大、一体何を…」
「俺はもう、お前たちの保護者じゃない。副宰相の職を辞した瞬間から、リッキーのこと以外の全ての責務を放棄している。すでに無関係のお前たちに、とやかく言われる筋合いのことではないぞ」
不敵な笑みを口の端に滲ませ、キュッリッキを片腕に抱いたまま外に出た。そして気を失っているメルヴィンに、嘲笑を含んだ一瞥を投げかける。
「お前になど、守れるものか。ママゴトごっこはもう終わりだ」
気を失っているキュッリッキの額に優しく口付けると、ベルトルドは地面を蹴って宙へ飛び上がった。
ゆっくりと上空へあがり、ベルトルドは足元に集まるライオン傭兵団や、騒ぎで出てきた近隣の傭兵たちを睥睨した。
秋風の中に寒気が混ざり肌寒い。腕に抱いたキュッリッキの細い身体の温もりが、服越しに感じられて心地よかった。
ベルトルドはもう片方の手で、雷霆(ケラウノス)を形作り始めた。大気に漂う微量の電気エネルギーが、ベルトルドの掌に集まり凝縮されていく。
「おい…、あれ、ヤバくねえか」
下から見上げて、ギャリーが額に汗を浮かべる。
「おっさんの超必殺技じゃね? 遺跡で見せつけられた」
ザカリーが眉をしかめて唸った。
「まっさか……オレたちに向けて投げつけてくる、なーんてことはナイ……よね?」
「投げてきそうですねえ……。なんにしても、あんなものを食らったら近所迷惑のレベルを遥かに超えますよ」
頼りなげに言うルーファスに返事をしつつ、カーティスは周囲にいる人々に叫んだ。
「サイ《超能力》使いは防御を広範囲に展開、魔法使いは超広域防御魔法を今すぐです!!」
近所の傭兵たちも、カーティスのただならぬ声に弾かれて、それぞれ叫び始めた。
その様子を上空から見ていたベルトルドは、小馬鹿にしたように鼻で笑う。
すでに雷霆(ケラウノス)は完成している。黄金のような光沢を放つ、電気エネルギーを凝縮したそれを、ベルトルドは掴んだ。そして、もう少し上に浮上する。
「長いようで短い付き合いだったが、後腐れないように消し炭にしてくれよう。さらばだ、愛すべきバカ者共!!」
夜空に轟き渡るほどの嘲笑を足元に見舞い、ライオン傭兵団のアジトめがけ、勢いよく雷霆(ケラウノス)を投げつけた。
雷霆(ケラウノス)はアジトの屋根に突き刺さると、カッと激しく発光し、盛大に爆発した。
一瞬にして皇都イララクス全体が激しく照らし出され、夜空も白く染まった。そのあと、世界が崩壊するのではないかと思わせる程の爆音が轟き、地面は大地震のように震え、無数の電気がムチのようにしなって皇都中を暴れまわった。
世界に類を見ない規模を誇るハワドウレ皇国の皇都イララクスは、その日激しい炎に包まれ真紅の都と化した。
************
召喚士編終わります。次回から新章に入りますね。
まだ見直し箇所が多いので、都度アップしていきます。
ベルトルドたちの幼少期のエピソードもありますが、後半性描写シーンが含まれる事になるので、不快に感じる方はご注意ください。結構重いお話になります。
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