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召喚士編
episode660
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やんちゃな少年のような笑顔になるベルトルドに、キュッリッキは迷うような表情を向けた。
ベルトルドのところへ行けば、アルカネットもいるのではないだろうか。そう思うと、素直に返事ができない。それに、今はメルヴィンと離れていたくなかった。
すると、突然ベルトルドは悲しげな表情になり、寂しさを漂わせるため息をついた。
「こないだはすまなかった。俺がもっと気をつけていれば、リッキーをこんなに傷つけることなどなかったのに……。――もう俺とは、一緒に居たくないのだな……」
目を伏せ、顔を俯かせる。
「そ、そんなことないよっ」
ベルトルドの辛そうな様子に慌てたキュッリッキは、ベルトルドのほうへ身を乗り出した。
「ベルトルドさんのところへ行くと、その……アルカネットさんもいるかなって……思ったから……だから」
「アルカネットはいない。あそこは、俺の隠れ家だからな」
「隠れ家?」
「うん。アルカネットもリューも知らない、俺の秘密の場所なんだ。だから、アルカネットはいないぞ」
「そうなんだ……」
しっかりとメルヴィンの腕を掴んだまま、キュッリッキは床を見つめながら考えた。
酷いことをしたのはアルカネットで、ベルトルドは助けてくれた。
これまでベルトルドは、ずっと自分を守ってくれた。周りには厳しくても、自分にだけは特上に甘いくらいに。
少々強引なところはあるが、こうしてわざわざ迎えに来てまで見せたいものがあるという。それなら、少し見に行くだけなら、大丈夫だろうか。
「ちゃんと、帰してくれる?」
不安そうにぽつりと言うキュッリッキに、ベルトルドはにっこりと微笑んだ。
「ああ、必ず送ろう」
その言葉に安心したように、キュッリッキはこくりと頷いた。
「じゃあ、ドレスに着替えてくるね」
「ありがとう、リッキー」
メルヴィンのそばから離れて、マリオン、マーゴットと共に自室へ戻る。
その後ろ姿を見送ったあと、メルヴィンは鋭い視線をベルトルドに向けた。
「一体、何を企んでいるんです?」
「企む?」
真っ向からメルヴィンの鋭い目を受け止め、ベルトルドは小馬鹿にしたような笑いを口元にたたえた。
「今言った通りだ。俺のコレクションを、リッキーに見せたいだけだ。それのどこが企むになるんだ、青二才」
「ようやく落ち着いてきたところに、あなたが迎えに来るなど、心に負担を強いるだけです」
「文句があるならアルカネットに言え。俺はリッキーに、あんな真似はせん」
「いやあ……一番しそうな気が……」
遠慮がちにザカリーが口を挟むと、ギロリと鋭く睨まれて首をすくめた。
「俺はフェミニストだぞ! 女が大好きで大好きで大好きでたまらんのに、女が怖がることなどするかたわけ!! ましてリッキーが怖がることをするわけがなかろうが」
「女好きを高らかに言わないでください……」
カーティスが疲れたように言った。ベルトルドの場合は、単に女性に甘いだけだ。男権女権など、ベルトルドからしてみたらどっちでもいいのだ。有能な者が就くべき座に就けばいい。性別など関係ない。常にそう思っている。
「オレも付いて行きます」
「断る!」
「リッキーを一人に出来ません!」
メルヴィンは真剣な表情で、ベルトルドに食いつかんばかりに言った。
たとえベルトルドが手を出さなくても、アルカネットが何をするか判らない。隠れ家には居ないというが、それが本当かどうか判らないのだ。アルカネットはベルトルドの部下であり、万が一ということもある。キュッリッキを一人でそんな獣の巣に行かせるわけにはいかない。
周りが戦々恐々と見守る中、射殺しそうなほど険しい目で、ベルトルドはメルヴィンを睨んだ。
「俺はな、リッキーとお前の仲を認めたわけじゃないんだぞ? 今はリッキーの気持ちを尊重しているに過ぎん。図に乗るな、小僧の分際で」
聞いた者が震え上がるほどの低い声で、静かに言った。しかしその程度でメルヴィンは怯んだりしなかった。しっかりとベルトルドの目を見据え、睨みつけていた。
ベルトルドとメルヴィンの視線のぶつかるところに、火花を通り越して爆発のようなイメージがして、ヴァルトは渋面を作ってブルッと身体を震わせた。アレに関わるなと、野生の勘が警告を発している。
静かに白熱しかかるそこへ、ドレスに着替えたキュッリッキが戻ってきた。
「お待たせ~」
ベルトルドのところへ行けば、アルカネットもいるのではないだろうか。そう思うと、素直に返事ができない。それに、今はメルヴィンと離れていたくなかった。
すると、突然ベルトルドは悲しげな表情になり、寂しさを漂わせるため息をついた。
「こないだはすまなかった。俺がもっと気をつけていれば、リッキーをこんなに傷つけることなどなかったのに……。――もう俺とは、一緒に居たくないのだな……」
目を伏せ、顔を俯かせる。
「そ、そんなことないよっ」
ベルトルドの辛そうな様子に慌てたキュッリッキは、ベルトルドのほうへ身を乗り出した。
「ベルトルドさんのところへ行くと、その……アルカネットさんもいるかなって……思ったから……だから」
「アルカネットはいない。あそこは、俺の隠れ家だからな」
「隠れ家?」
「うん。アルカネットもリューも知らない、俺の秘密の場所なんだ。だから、アルカネットはいないぞ」
「そうなんだ……」
しっかりとメルヴィンの腕を掴んだまま、キュッリッキは床を見つめながら考えた。
酷いことをしたのはアルカネットで、ベルトルドは助けてくれた。
これまでベルトルドは、ずっと自分を守ってくれた。周りには厳しくても、自分にだけは特上に甘いくらいに。
少々強引なところはあるが、こうしてわざわざ迎えに来てまで見せたいものがあるという。それなら、少し見に行くだけなら、大丈夫だろうか。
「ちゃんと、帰してくれる?」
不安そうにぽつりと言うキュッリッキに、ベルトルドはにっこりと微笑んだ。
「ああ、必ず送ろう」
その言葉に安心したように、キュッリッキはこくりと頷いた。
「じゃあ、ドレスに着替えてくるね」
「ありがとう、リッキー」
メルヴィンのそばから離れて、マリオン、マーゴットと共に自室へ戻る。
その後ろ姿を見送ったあと、メルヴィンは鋭い視線をベルトルドに向けた。
「一体、何を企んでいるんです?」
「企む?」
真っ向からメルヴィンの鋭い目を受け止め、ベルトルドは小馬鹿にしたような笑いを口元にたたえた。
「今言った通りだ。俺のコレクションを、リッキーに見せたいだけだ。それのどこが企むになるんだ、青二才」
「ようやく落ち着いてきたところに、あなたが迎えに来るなど、心に負担を強いるだけです」
「文句があるならアルカネットに言え。俺はリッキーに、あんな真似はせん」
「いやあ……一番しそうな気が……」
遠慮がちにザカリーが口を挟むと、ギロリと鋭く睨まれて首をすくめた。
「俺はフェミニストだぞ! 女が大好きで大好きで大好きでたまらんのに、女が怖がることなどするかたわけ!! ましてリッキーが怖がることをするわけがなかろうが」
「女好きを高らかに言わないでください……」
カーティスが疲れたように言った。ベルトルドの場合は、単に女性に甘いだけだ。男権女権など、ベルトルドからしてみたらどっちでもいいのだ。有能な者が就くべき座に就けばいい。性別など関係ない。常にそう思っている。
「オレも付いて行きます」
「断る!」
「リッキーを一人に出来ません!」
メルヴィンは真剣な表情で、ベルトルドに食いつかんばかりに言った。
たとえベルトルドが手を出さなくても、アルカネットが何をするか判らない。隠れ家には居ないというが、それが本当かどうか判らないのだ。アルカネットはベルトルドの部下であり、万が一ということもある。キュッリッキを一人でそんな獣の巣に行かせるわけにはいかない。
周りが戦々恐々と見守る中、射殺しそうなほど険しい目で、ベルトルドはメルヴィンを睨んだ。
「俺はな、リッキーとお前の仲を認めたわけじゃないんだぞ? 今はリッキーの気持ちを尊重しているに過ぎん。図に乗るな、小僧の分際で」
聞いた者が震え上がるほどの低い声で、静かに言った。しかしその程度でメルヴィンは怯んだりしなかった。しっかりとベルトルドの目を見据え、睨みつけていた。
ベルトルドとメルヴィンの視線のぶつかるところに、火花を通り越して爆発のようなイメージがして、ヴァルトは渋面を作ってブルッと身体を震わせた。アレに関わるなと、野生の勘が警告を発している。
静かに白熱しかかるそこへ、ドレスに着替えたキュッリッキが戻ってきた。
「お待たせ~」
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