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召喚士編
episode659
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「あー、なんとか大丈夫そうだねえ」
「うんうん。愛の力よねぇ~」
ルーファスとマリオンは、しみじみと頷きあった。
「つーかよ、いい加減アイツらを覗いて、映像を共有すんのヤメねーか……。そのうち乳繰り合うところまで見せられそーなんだが!」
ザカリーがゲッソリした顔でルーファスを睨む。
「だってさ、気になるじゃん。心配デショー? 当傭兵団唯一の純粋派カップルなんだし。しっかり大事に見守っていってやらないと」
「単に面白がってるだけだろが」
「人聞き悪いなあ」
ギャリーにツッこまれて、ルーファスはえへへと笑って誤魔化した。
「まあ、暫くは我々男性陣――ガエルとハーマン除く――を怖がると思いますが、心が癒されるまで辛抱ですよ、みなさん」
ホッとしたようにカーティスに言われ、
「なんで、俺とハーマンは除外なんだ?」
ガエルが不思議そうに首をかしげた。
「やっぱそこは、クマと狐だからじゃない?」
ルーファスが代弁する。
「セクハラだ」
「クマがセクハラとかいってんじゃねーよ!! 腹がよじれるだろ!」
すかさずヴァルトが爆笑しながら茶化した。
「失敬な」
ムッと不愉快そうに、ガエルは眉間に縦ジワを刻んだ。
カーティスの予想通り、キュッリッキはガエルとハーマンは怖がらなかった。むしろ、積極的に抱きついたりしているくらいだ。
キュッリッキの認識では、ガエルもハーマンも、トゥーリ族は歩く動物のぬいぐるみなのだ。そこに性別はあまり関係ないようである。
ただ、アイオン族やヴィプネン族の男性陣に関しては、やはり怖がってそばに寄ろうとしなかった。
デリケートな問題だけに、皆もわざとそばに寄ってからかったりせず、キュッリッキが怖がらない距離で接していた。
それから穏やかに一週間ほど過ぎた夜、それは突然やってきた。
飲みに出かけようとして、玄関を出ようとしたギャリーとタルコットは、ドアを開けた瞬間盛大に悲鳴を上げた。
「この馬鹿どもが、この俺を見て悲鳴を上げるな気色悪い!!」
腕を組んで、不機嫌そうに言ったその人物。
「な、御大!?」
ギャリーは目をぱちくりさせて、正面に立つ男を凝視した。
ドスのきいた悲鳴に驚いて、奥からみんながぞろぞろと駆けつけてくる。
「げっ、ベルトルド様!?」
「なにが”げっ”だルー、男に黄色い声で歓迎されると気色悪いが、ゲッとか言うな馬鹿者!」
「これは……ベルトルド卿」
みんな驚きと複雑な表情を浮かべ、偉そうに立つベルトルドを見やった。
「リッキー」
メルヴィンの後ろに隠れるようにして顔をのぞかせるキュッリッキに気づいて、ベルトルドはこれ以上にないほど優しい笑顔を向けた。
「こっちにおいで、リッキー」
ベルトルドはそう言って手を差し伸べる。しかしキュッリッキはメルヴィンにしがみついて、困ったように顔を伏せた。
そんなキュッリッキの様子に、一瞬だけベルトルドの表情に悲しげな笑みが過ぎった。
「どのようなご用件でしょう? ベルトルド卿」
カーティスが簾のような前髪の奥の目を眇め、ベルトルドにたずねる。
「リッキーを迎えに来た」
ベルトルドは勝手知ったるなんとやらで、玄関ホールに置いてある待合用のソファに座る。両腕を背もたれにかけ、長い脚を組んだ。
その、あまりにも威圧的に表現される態度に、
――なんて、ふてぶてしい……。
キュッリッキ以外の皆は、異口同音に胸中で唸った。
謙虚・謙遜・遠慮という単語は、絶対この男には備わっていない。備わっていたとしても、墓まで持って行って、生涯表に出てくることはないだろう。
「リッキーには、特注のドレスを用意してあるから、それに着替えておいで」
ベルトルドは何もない空間からいきなり大きな箱を出現させ、箱に触れずマリオンにポイッと投げた。
「あわわわわ」
いきなりのことに、マリオンは慌てて大箱をキャッチする。真っ白な紙の箱には、ピンク色のリボンが結ばれていた。中身は予想より軽い。
「大切に扱え、リッキーのために作らせたんだ。マリオン、マーゴット、着替えを手伝え」
2人にはぞんざいに顎をしゃくると、キュッリッキには優しい笑顔を向けた。
「着替えてきなさい」
キュッリッキはいきなりのことに、困惑した表情を浮かべながらメルヴィンの腕をしっかりと握った。
「でも……」
「でも?」
「その、なんで、アタシを迎えに来たの?」
一週間前の出来事が脳裏に蘇り、表情が暗く曇った。
思い出したくない、忌まわしい出来事だ。ベルトルドは助けてくれた側だが、姿を見ただけで足が竦んでしまう。
「どうしてもリッキーに、見せたいものがあるんだ」
ベルトルドは右手を膝において、やや上体を屈めた。
「きっとビックリするぞ。なんせ、俺のとっておきのコレクションだからな」
「うんうん。愛の力よねぇ~」
ルーファスとマリオンは、しみじみと頷きあった。
「つーかよ、いい加減アイツらを覗いて、映像を共有すんのヤメねーか……。そのうち乳繰り合うところまで見せられそーなんだが!」
ザカリーがゲッソリした顔でルーファスを睨む。
「だってさ、気になるじゃん。心配デショー? 当傭兵団唯一の純粋派カップルなんだし。しっかり大事に見守っていってやらないと」
「単に面白がってるだけだろが」
「人聞き悪いなあ」
ギャリーにツッこまれて、ルーファスはえへへと笑って誤魔化した。
「まあ、暫くは我々男性陣――ガエルとハーマン除く――を怖がると思いますが、心が癒されるまで辛抱ですよ、みなさん」
ホッとしたようにカーティスに言われ、
「なんで、俺とハーマンは除外なんだ?」
ガエルが不思議そうに首をかしげた。
「やっぱそこは、クマと狐だからじゃない?」
ルーファスが代弁する。
「セクハラだ」
「クマがセクハラとかいってんじゃねーよ!! 腹がよじれるだろ!」
すかさずヴァルトが爆笑しながら茶化した。
「失敬な」
ムッと不愉快そうに、ガエルは眉間に縦ジワを刻んだ。
カーティスの予想通り、キュッリッキはガエルとハーマンは怖がらなかった。むしろ、積極的に抱きついたりしているくらいだ。
キュッリッキの認識では、ガエルもハーマンも、トゥーリ族は歩く動物のぬいぐるみなのだ。そこに性別はあまり関係ないようである。
ただ、アイオン族やヴィプネン族の男性陣に関しては、やはり怖がってそばに寄ろうとしなかった。
デリケートな問題だけに、皆もわざとそばに寄ってからかったりせず、キュッリッキが怖がらない距離で接していた。
それから穏やかに一週間ほど過ぎた夜、それは突然やってきた。
飲みに出かけようとして、玄関を出ようとしたギャリーとタルコットは、ドアを開けた瞬間盛大に悲鳴を上げた。
「この馬鹿どもが、この俺を見て悲鳴を上げるな気色悪い!!」
腕を組んで、不機嫌そうに言ったその人物。
「な、御大!?」
ギャリーは目をぱちくりさせて、正面に立つ男を凝視した。
ドスのきいた悲鳴に驚いて、奥からみんながぞろぞろと駆けつけてくる。
「げっ、ベルトルド様!?」
「なにが”げっ”だルー、男に黄色い声で歓迎されると気色悪いが、ゲッとか言うな馬鹿者!」
「これは……ベルトルド卿」
みんな驚きと複雑な表情を浮かべ、偉そうに立つベルトルドを見やった。
「リッキー」
メルヴィンの後ろに隠れるようにして顔をのぞかせるキュッリッキに気づいて、ベルトルドはこれ以上にないほど優しい笑顔を向けた。
「こっちにおいで、リッキー」
ベルトルドはそう言って手を差し伸べる。しかしキュッリッキはメルヴィンにしがみついて、困ったように顔を伏せた。
そんなキュッリッキの様子に、一瞬だけベルトルドの表情に悲しげな笑みが過ぎった。
「どのようなご用件でしょう? ベルトルド卿」
カーティスが簾のような前髪の奥の目を眇め、ベルトルドにたずねる。
「リッキーを迎えに来た」
ベルトルドは勝手知ったるなんとやらで、玄関ホールに置いてある待合用のソファに座る。両腕を背もたれにかけ、長い脚を組んだ。
その、あまりにも威圧的に表現される態度に、
――なんて、ふてぶてしい……。
キュッリッキ以外の皆は、異口同音に胸中で唸った。
謙虚・謙遜・遠慮という単語は、絶対この男には備わっていない。備わっていたとしても、墓まで持って行って、生涯表に出てくることはないだろう。
「リッキーには、特注のドレスを用意してあるから、それに着替えておいで」
ベルトルドは何もない空間からいきなり大きな箱を出現させ、箱に触れずマリオンにポイッと投げた。
「あわわわわ」
いきなりのことに、マリオンは慌てて大箱をキャッチする。真っ白な紙の箱には、ピンク色のリボンが結ばれていた。中身は予想より軽い。
「大切に扱え、リッキーのために作らせたんだ。マリオン、マーゴット、着替えを手伝え」
2人にはぞんざいに顎をしゃくると、キュッリッキには優しい笑顔を向けた。
「着替えてきなさい」
キュッリッキはいきなりのことに、困惑した表情を浮かべながらメルヴィンの腕をしっかりと握った。
「でも……」
「でも?」
「その、なんで、アタシを迎えに来たの?」
一週間前の出来事が脳裏に蘇り、表情が暗く曇った。
思い出したくない、忌まわしい出来事だ。ベルトルドは助けてくれた側だが、姿を見ただけで足が竦んでしまう。
「どうしてもリッキーに、見せたいものがあるんだ」
ベルトルドは右手を膝において、やや上体を屈めた。
「きっとビックリするぞ。なんせ、俺のとっておきのコレクションだからな」
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