片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
719 / 882
召喚士編

episode656

しおりを挟む
 ターヴェッティ学院の卒業日のことだ。

 ターヴェッティ学院とは、ハワドウレ皇国の国政を担う、エリート人材を育成する専門機関である。創立者で、数百年前の皇王ターヴェッティの名をとってつけられていた。

 大臣や軍幹部、要職のポストに就くためには、ターヴェッティ学院を卒業しなければならない。皇国では、血筋やコネで地位を得ることが出来ないのだ。

「わしはの、お前の記憶を視てしまったことを、激しく後悔したものじゃ。しかし放ってもおけない。望みを叶えるという形で、お前の計画に乗ってしまったようなもんじゃ」

 皇王のスキル〈才能〉はサイ《超能力》である。立場上能力を振るう機会など滅多にないが、Sクラスの実力を持つ。感知能力も絶大で、時折勝手に他人の思考や記憶がみえてしまうことがあった。

 ターヴェッティ学院の卒業式に出席するために、皇王は学院に赴いていた。そこで、卒業生代表として、創立以来最高の成績で主席卒業をするベルトルドを初めて目にし、そしてベルトルドの記憶を垣間見てしまったのだ。

 ベルトルドの幼い過去も、過去何があったのかも、何故ターヴェッティ学院に入ったのかも、皇王には一瞬で視えてしまった。

(この若者を、止めなければならない)

 当時皇王はそう思った。

 彼の目的はあまりにも大それていて、それでいて危険なものだ。実行すれば、間違いなく死んでしまう。

 成績優秀、スキル〈才能〉はOverランク、先が本当に楽しみな若者だ。

 死なせたくはない。心からそう思った。それで、まだターヴェッティ学院を卒業したばかりの18歳の青二才に、副宰相になれと言った。

 一方記憶を覗かれたベルトルドにも、皇王が記憶を視たことはすぐに気づいた。Overランクを持つベルトルドには、他者に記憶を覗かれれば、それを察知してしまう。

 何を意図して副宰相の地位を持ちかけてきたのか判り、副宰相職を引き受ける代わりにと、ベルトルドが要求したのは、アルケラ研究機関ケレヴィルの所長の座だった。元々ケレヴィル所長の座が欲しくて、ターヴェッティ学院へ入ったのだから。

「わしは全て知って、お前を副宰相の地位に就けた。本来ならマルックを退けて、宰相にしてもよかった。それだけの才覚と実力があったからじゃ。それをお前が断り、副宰相でいいと言い張るから、国政全部を丸々投げたがの」

「ああ。厚かましさこの上ない所業でしたな。この俺にかかれば、造作もないことではあったが、毎日毎日とんでもない仕事量だったのは確かだ」

「………まあ、それでお前が計画を諦めてくれると思っとったんじゃが…」

 皇王は肩をすくめた。

 ベルトルドが計画を諦めるよう、これでもか、これでもかと仕事を丸投げしたのは皇王だ。それなのに、ベルトルドは全部こなしてしまう。

「バカめ、その程度で頓挫するほど、温い決意ではないわっ!」

 ベルトルドはフンッと鼻息を吹き出し、居丈高に皇王を見やった。

 おとなしくしていれば美しい顔立ちなのに、どこかやんちゃな印象を与える。それは全て、尊大でふてぶてしい性格が表情に現れているからだろうと皇王は考えていた。

 翻意させることは出来なかった。23年もかけたのに、ベルトルドの計画は着々と進んでしまっている。

 もう、止めさせようがない。

「どうしても、実行するのじゃな……」

「長かった。31年、かかった」

 ベルトルドは悲哀のこもった笑みを浮かべ、噛み締めるように言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

処理中です...