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召喚士編
episode654
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「調子はどぉ~お~? キューリちゃ~ん」
ノックとともに部屋へ入ってきたのがマリオンと判り、キュッリッキは小さく安堵のため息をついた。そして、安堵したことに軽くショックを受けて、顔を俯かせた。メルヴィンが来たのかと思ってしまったのだ。
「膝がまだ痛む、かな…」
ベッドに半身を起こして座っていたキュッリッキは、シーツの上からそっと右足の膝に触れる。
先ほどメルヴィンに湿布を変えてもらい、包帯を巻き直してもらった。
キュッリッキを労わり気遣いながら、優しく丁寧に巻いてくれた。それなのに、キュッリッキは酷い拷問を受けていたような気持ちに包まれていた。そんな気持ちになってしまったことで、どこか後ろめたい気持ちが苦く心に広がっている。
「あのね、メルヴィン……その、怒ってた?」
横に座ったマリオンの顔を見ないように、キュッリッキはぽつりと言った。
その様子を見て、マリオンは即答しなかった。わざとらしく「ん~~」と頬に片手をあてて考え込む。
「怒ってたようなぁ~、そうでもないよぅなぁ」
キュッリッキはマリオンの顔を見て、そして俯く。
包帯を巻き終えたメルヴィンが、抱きしめようと手を伸ばしたとき、激しく嫌がってしまったのだ。あの時の驚いたメルヴィンの顔が忘れられない。
大好きなメルヴィンの手を、あんなに怖くなって拒絶してしまった。そんなふうに思う自分が信じられなかった。
無言で部屋を出て行ったメルヴィン。きっと、怒ったに違いないと、キュッリッキの心は不安でいっぱいになっていた。
2人共無言になり、沈黙が暫く続いた。
「……目が覚めたらアタシの部屋で、隣に、メルヴィンいたの」
シーツを掴む手の甲を見つめながら、キュッリッキは抑えたように話し出した。
「メルヴィンいた、帰ってきた、って、凄く嬉しかったの。でもね……メルヴィンの手がアタシの顔に触れたとき、よく判らないけどゾワッとして、身がすくむほど怖かった」
手が小刻みに震えだす。
「何でだろう、メルヴィンの手なのに怖いの! メルヴィンに抱きしめててもらいたいのに、手が身体に触れると怖くてたまらない。アタシ、どうしちゃったんだろうっ」
キュッリッキは叫ぶように言うと、シーツで顔を覆った。
優しくて大好きなメルヴィンの手。それが、目が覚めた途端、恐怖の対象になっていた。そして、そう思ってしまう自分に、キュッリッキは激しく戸惑っている。
「キューリちゃん……」
「メルヴィンにずっとそばに居て欲しいのに、でもなんでか判んないけど怖い……」
マリオンはベッドに腰掛けて、泣き出したキュッリッキを抱きしめた。
本来こうして抱きしめてほしい相手はメルヴィンだろうが、メルヴィンを怖いと感じるキュッリッキの乙女心が理解出来て、マリオンは小さくため息をついた。
サイ《超能力》を使って記憶を勝手に覗き見て、その理由が判ったのだ。
(こんなことされたんじゃあ……怖がるわけだぁ)
かろうじて半未遂ではあるものの、ベッドに押し倒され、力ずくで唇を奪われた挙句、陰部を触られたのだ。
性行為全般に疎い、というより知らなすぎるキュッリッキにとっては、酷いトラウマになるだろう。そしてそれをおこなったのが、アルカネットだというところが重大な問題だった。
心から信頼を寄せていた相手に、レイプまがいのことをされたのだ。
父親のように慕っていた相手から受けた蛮行に、キュッリッキの心は深く傷ついている。
これでは暫く、男全部が恐怖の対象だろう。メルヴィンとて例外ではないのだ。
(これってぇ、誰に相談すればいいのよぉ~~~~)
覗くんじゃなかった、とマリオンは後悔の念で頭を抱えた。
(なんてぇことぉーしてくれたんだあ~~っ、あのムッツリスケベぇ!!)
マリオンは心の中で、ぐぐぐっと拳を握った。
ノックとともに部屋へ入ってきたのがマリオンと判り、キュッリッキは小さく安堵のため息をついた。そして、安堵したことに軽くショックを受けて、顔を俯かせた。メルヴィンが来たのかと思ってしまったのだ。
「膝がまだ痛む、かな…」
ベッドに半身を起こして座っていたキュッリッキは、シーツの上からそっと右足の膝に触れる。
先ほどメルヴィンに湿布を変えてもらい、包帯を巻き直してもらった。
キュッリッキを労わり気遣いながら、優しく丁寧に巻いてくれた。それなのに、キュッリッキは酷い拷問を受けていたような気持ちに包まれていた。そんな気持ちになってしまったことで、どこか後ろめたい気持ちが苦く心に広がっている。
「あのね、メルヴィン……その、怒ってた?」
横に座ったマリオンの顔を見ないように、キュッリッキはぽつりと言った。
その様子を見て、マリオンは即答しなかった。わざとらしく「ん~~」と頬に片手をあてて考え込む。
「怒ってたようなぁ~、そうでもないよぅなぁ」
キュッリッキはマリオンの顔を見て、そして俯く。
包帯を巻き終えたメルヴィンが、抱きしめようと手を伸ばしたとき、激しく嫌がってしまったのだ。あの時の驚いたメルヴィンの顔が忘れられない。
大好きなメルヴィンの手を、あんなに怖くなって拒絶してしまった。そんなふうに思う自分が信じられなかった。
無言で部屋を出て行ったメルヴィン。きっと、怒ったに違いないと、キュッリッキの心は不安でいっぱいになっていた。
2人共無言になり、沈黙が暫く続いた。
「……目が覚めたらアタシの部屋で、隣に、メルヴィンいたの」
シーツを掴む手の甲を見つめながら、キュッリッキは抑えたように話し出した。
「メルヴィンいた、帰ってきた、って、凄く嬉しかったの。でもね……メルヴィンの手がアタシの顔に触れたとき、よく判らないけどゾワッとして、身がすくむほど怖かった」
手が小刻みに震えだす。
「何でだろう、メルヴィンの手なのに怖いの! メルヴィンに抱きしめててもらいたいのに、手が身体に触れると怖くてたまらない。アタシ、どうしちゃったんだろうっ」
キュッリッキは叫ぶように言うと、シーツで顔を覆った。
優しくて大好きなメルヴィンの手。それが、目が覚めた途端、恐怖の対象になっていた。そして、そう思ってしまう自分に、キュッリッキは激しく戸惑っている。
「キューリちゃん……」
「メルヴィンにずっとそばに居て欲しいのに、でもなんでか判んないけど怖い……」
マリオンはベッドに腰掛けて、泣き出したキュッリッキを抱きしめた。
本来こうして抱きしめてほしい相手はメルヴィンだろうが、メルヴィンを怖いと感じるキュッリッキの乙女心が理解出来て、マリオンは小さくため息をついた。
サイ《超能力》を使って記憶を勝手に覗き見て、その理由が判ったのだ。
(こんなことされたんじゃあ……怖がるわけだぁ)
かろうじて半未遂ではあるものの、ベッドに押し倒され、力ずくで唇を奪われた挙句、陰部を触られたのだ。
性行為全般に疎い、というより知らなすぎるキュッリッキにとっては、酷いトラウマになるだろう。そしてそれをおこなったのが、アルカネットだというところが重大な問題だった。
心から信頼を寄せていた相手に、レイプまがいのことをされたのだ。
父親のように慕っていた相手から受けた蛮行に、キュッリッキの心は深く傷ついている。
これでは暫く、男全部が恐怖の対象だろう。メルヴィンとて例外ではないのだ。
(これってぇ、誰に相談すればいいのよぉ~~~~)
覗くんじゃなかった、とマリオンは後悔の念で頭を抱えた。
(なんてぇことぉーしてくれたんだあ~~っ、あのムッツリスケベぇ!!)
マリオンは心の中で、ぐぐぐっと拳を握った。
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