片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
711 / 882
召喚士編

episode648

しおりを挟む
 目を覚まして身を起こすと、アルカネットは小さく息をつく。時計を見ると、まだ朝の4時を少しばかり回った頃だ。

 隣を見ると、キュッリッキとベルトルドがぐっすりと眠っている。

 キュッリッキの無防備で愛らしい寝顔に、アルカネットは自然と笑みが漏れた。

 毎日でも見ていたいこの寝顔、しかし、今では週に一度しか拝めない。

 キュッリッキはエルダー街の、ライオン傭兵団のアジトに帰ってしまい、テレビを見に水曜日にしか戻ってきてくれないのだ。

 ベルトルドの屋敷がキュッリッキの本当の家となっているが、キュッリッキにとってそれはあくまで書類上のこと。帰るべき家は、エルダー街のアジトだとキュッリッキは思っているので、アルカネットもベルトルドも心から残念だった。

 それでも久しぶりにこうして一緒に寝ることができて――ベルトルドが非常に邪魔――嬉しいが、昨夜の寝る前の会話を思い出して、アルカネットはズキリと痛んだ胸を押さえた。

「アタシとベルトルドさん、親娘(おやこ)みたいに見えるんだ~」

 キュッリッキの言葉を思い出し、再び胸が痛む。

 感心したように言い、嬉しそうな表情をしていた。

 親娘の関係を求めているのなら、それをベルトルドに感じてくれているなら幸いだ。自分とは男女の関係になれる。なのに何故、親娘を求めるような感情が、ベルトルドに向いたことに、こんなにも心が痛むのだろうか。

 アルカネットは急に目眩を感じたが、静かにベッドを出ると、ふらつく足で急いで部屋を出た。



 翌朝キュッリッキは目を覚ますと、左右に寝ていた筈のベルトルドとアルカネットがいないので首をかしげた。サイドテーブルに置いてある時計を見ると、まだ朝の6時を回ったところだ。

 アルカネットが早起きをしているのは不思議に思わないが、ベルトルドが寝ていないことには驚いた。

「今日は雨かな……」

 キュッリッキは起き上がると、モソモソとベッドから出る。そしてフェンリルたちの寝ているソファのそばにあるテーブルの上を見て、書類が消えているのに気がついた。

「お仕事してるのかな。ベルトルドさんも起きてるのはビックリ」

 いつもあれだけ起こしても起きないベルトルドが、自分から起きているのは本当に驚くばかりだ。

「さーて、顔洗ってこよ」



 着替えを済ませると、キュッリッキは部屋を出た。

「あ、リトヴァさん、おはよう~」

「おはようございます、お嬢様」

「ベルトルドさん、もう起きてるの?」

「はい。書斎でアルカネット様とお仕事をなさっていたようです。先ほど終えられ、ご自分のお部屋に戻られていると思いますよ」

「やっぱ、ベルトルドさん、ちゃんと起きられたんだ……」

 ベルトルドの寝起きの悪さをしみじみ判っている2人は、毎日こうならいいのに、という気持ちを乗せたため息をついた。

 キュッリッキはふと、リトヴァが手にしているものに目を向けた。

「アルカネット様の手袋でございます。玄関ホールで脱がれたのでしょう、お忘れになっていたので、今からお届けに行くところです」

「アタシが届けてくる!」

「あら、そうですか? では、お願いいたします」

「任せて!」

 本来なら、この屋敷の令嬢であるキュッリッキに、おつかいなどさせてはいけない。しかしキュッリッキが行ったほうが喜ぶだろうことを心得ているので、あえてリトヴァはキュッリッキに任せた。

 リトヴァから手袋を受け取ると、キュッリッキはアルカネットの部屋へ向かった。

 アルカネットの部屋も東棟にある。とにかく大きく広い屋敷なので、リトヴァが見えなくなると、キュッリッキは走り出した。屋敷の中で走っていると怒られるからである。

 部屋の前に着いて、キュッリッキは扉をノックした。

 暫く待っても返事がなく、ちょっと考え込み、そして扉をそっと開けてみる。

「アルカネットさん、いるー?」

 部屋の中に入ると、カーテンは全て開けられて、室内は明るい陽光で満ちている。ベッドには寝た形跡がなく、誰もいなかった。

「そいえば、アルカネットさんの部屋に入ったの初めてかも」

 ベルトルドの部屋へは何度も入ったことがあるが、アルカネットの部屋は初めてだ。

 テーブルの上に手袋を置くと、キュッリッキはベッドのサイドテーブルの写真立てに気がついた。

 不思議とそれに興味を覚え、近づいて写真立てを手に取ってみる。そしてその写真を見て、思わず目を見張った。

「あれ? アタシ??」

 小さく声を上げたところで、人の気配を感じて振り向いた。

「アルカネットさん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

処理中です...