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召喚士編
episode643
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「ファニー」
ハーメンリンナの城砦前に佇んでいたファニーに、キュッリッキはブンブン手を振った。
「やほー、温泉旅行ぶり」
ファニーと合流して、キュッリッキは門の衛兵に通行証を見せる。
「これはキュッリッキお嬢様、お帰りなさいませ」
若い衛兵はキュッリッキに恭しく一礼する。キュッリッキの存在は衛兵にも伝わっており、通行証を丁寧に返すと、ファニーに顔を向ける。
「こちらの女性は、お友達でしょうか?」
「うん。今日は一緒にお買い物するの、入れてもらってもいいでしょ?」
「もちろんでございます。ようこそ、ハーメンリンナへ」
衛兵はにこやかに、ファニーに一礼する。
本来なら顔パスで大丈夫なキュッリッキの連れだけに、ファニーもすんなり通行許可が下りる。
「お、お邪魔しますっ」
しゃちほこばって挨拶すると、ファニーはキュッリッキの腕にしがみつく。
「ありがと。いこ、ファニー」
「う、うん」
「いってらっしゃいませ、ごゆっくり」
衛兵に見送られ、キュッリッキとファニーはハーメンリンナに入っていった。
「なーんか、前もきたことあったけど、緊張するなあ」
「アタシも最初は緊張したけど、今はもう慣れちゃった」
キュッリッキとファニーは、並んで地下通路を歩く。
「ハーメンリンナってすごいトコだよね。地上を歩けないのは残念だけど」
「区画間移動はゴンドラか地下通路移動しか、しちゃだめなんだって。ゴンドラのんびりすぎて、歩いたほうが早いんだもん」
楽しかったのは最初だけだ。
「副宰相閣下に言って、法律変えてもらったら? そしたら上を歩けるじゃない」
「まあね~。でも、そんなにくるわけじゃないし。来るのは水曜日だけかなあ」
「なによ、水曜日だけって?」
「テレビ見に行くの、ベルトルドさんちに」
「………」
テレビというものは、ハーメンリンナの外だと公共機関や資産家の屋敷にくらいしかない。一般家庭には縁のないものである。
ファニーは当然テレビなど見たこともないし、8月の国家中継を臨時設置モニターで見たことがある程度だ。
「あんたすっかり、お金持ちのお嬢様ねえ」
「なんか、アタシの実家はベルトルドさんちになってるんだって」
キュッリッキの生い立ちについては、直接話を聞いている。ファニーはキュッリッキが自ら過去を打ち明けた友人の一人だ。そして、現在キュッリッキは皇国に認められた召喚士であることも聞いている。
「まあ、あんたは他の召喚スキル〈才能〉を持ってる人たちみたいに、本来贅沢三昧出来る身分なんだから、ハーメンリンナに住めばいいのに」
「そんなことしたら、メルヴィンと離れ離れになっちゃうじゃん」
「さっさと結婚して、一緒に住めばいいのよ」
「け、ケッコン!?」
キュッリッキは思わずその場に飛び上がった。
「だって、いずれ結婚するんでしょ? それが今か先かの話じゃない」
「そ、そうだけど…」
耳まで真っ赤になりながら、キュッリッキはしどろもどろに両手の指先をつつきあう。
「あんたってば、その様子だと、まだセックスもしてないんじゃ」
「セックス?」
「そうよ、エッチしてないでしょ? メルヴィンさんと」
キュッリッキはひどく不思議そうにファニーを見る。
「どんなことするの?」
ハーメンリンナの城砦前に佇んでいたファニーに、キュッリッキはブンブン手を振った。
「やほー、温泉旅行ぶり」
ファニーと合流して、キュッリッキは門の衛兵に通行証を見せる。
「これはキュッリッキお嬢様、お帰りなさいませ」
若い衛兵はキュッリッキに恭しく一礼する。キュッリッキの存在は衛兵にも伝わっており、通行証を丁寧に返すと、ファニーに顔を向ける。
「こちらの女性は、お友達でしょうか?」
「うん。今日は一緒にお買い物するの、入れてもらってもいいでしょ?」
「もちろんでございます。ようこそ、ハーメンリンナへ」
衛兵はにこやかに、ファニーに一礼する。
本来なら顔パスで大丈夫なキュッリッキの連れだけに、ファニーもすんなり通行許可が下りる。
「お、お邪魔しますっ」
しゃちほこばって挨拶すると、ファニーはキュッリッキの腕にしがみつく。
「ありがと。いこ、ファニー」
「う、うん」
「いってらっしゃいませ、ごゆっくり」
衛兵に見送られ、キュッリッキとファニーはハーメンリンナに入っていった。
「なーんか、前もきたことあったけど、緊張するなあ」
「アタシも最初は緊張したけど、今はもう慣れちゃった」
キュッリッキとファニーは、並んで地下通路を歩く。
「ハーメンリンナってすごいトコだよね。地上を歩けないのは残念だけど」
「区画間移動はゴンドラか地下通路移動しか、しちゃだめなんだって。ゴンドラのんびりすぎて、歩いたほうが早いんだもん」
楽しかったのは最初だけだ。
「副宰相閣下に言って、法律変えてもらったら? そしたら上を歩けるじゃない」
「まあね~。でも、そんなにくるわけじゃないし。来るのは水曜日だけかなあ」
「なによ、水曜日だけって?」
「テレビ見に行くの、ベルトルドさんちに」
「………」
テレビというものは、ハーメンリンナの外だと公共機関や資産家の屋敷にくらいしかない。一般家庭には縁のないものである。
ファニーは当然テレビなど見たこともないし、8月の国家中継を臨時設置モニターで見たことがある程度だ。
「あんたすっかり、お金持ちのお嬢様ねえ」
「なんか、アタシの実家はベルトルドさんちになってるんだって」
キュッリッキの生い立ちについては、直接話を聞いている。ファニーはキュッリッキが自ら過去を打ち明けた友人の一人だ。そして、現在キュッリッキは皇国に認められた召喚士であることも聞いている。
「まあ、あんたは他の召喚スキル〈才能〉を持ってる人たちみたいに、本来贅沢三昧出来る身分なんだから、ハーメンリンナに住めばいいのに」
「そんなことしたら、メルヴィンと離れ離れになっちゃうじゃん」
「さっさと結婚して、一緒に住めばいいのよ」
「け、ケッコン!?」
キュッリッキは思わずその場に飛び上がった。
「だって、いずれ結婚するんでしょ? それが今か先かの話じゃない」
「そ、そうだけど…」
耳まで真っ赤になりながら、キュッリッキはしどろもどろに両手の指先をつつきあう。
「あんたってば、その様子だと、まだセックスもしてないんじゃ」
「セックス?」
「そうよ、エッチしてないでしょ? メルヴィンさんと」
キュッリッキはひどく不思議そうにファニーを見る。
「どんなことするの?」
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