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召喚士編
episode641
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「フェンリルは巫女を守るために使わされた、ということですか」
「うん。歴代の巫女の傍らには、必ずフェンリルが付き添っている」
「なるほど」
シ・アティウスは顎に手をあてる。
「ということは、キュッリッキ嬢は現代のアルケラの巫女というわけですか」
「そうだな」
「まさか、千年も生きるんでしょうか?」
「んー……、それは俺も判らん……」
キュッリッキがいくつで初潮を迎えたかは知らないが、さすがに外見の成長は止まっていない。はずである。
「では、あの15名の召喚スキル〈才能〉を持っていた少女たちは、何なのです?」
アルカネットが不思議そうに首をかしげる。
「フェイク、偽装だ」
アルカネットとシ・アティウスは顔を見合わせる。
「1万年前のユリディスの悲劇が、そうさせたんだ。神は巫女を守るために、フェイクを用意することにした。万が一ヤルヴィレフト王家の者のような暴挙が巫女に及ばないよう、本物の巫女を守るためだけに用意されたフェイク。それが召喚スキル〈才能〉を持たされた、少女たちの存在理由なんだ」
アルケラの巫女であるキュッリッキを、隠し守るためだけに生まれてきた少女たち。同じ日に生を受け、そんな重い宿命を背負わされているとは一生知らずに、贅沢を謳歌してきた。
召喚スキル〈才能〉を示す証はその特異な目だけで、召喚スキル〈才能〉が実際どんなものか、キュッリッキが現れるまで誰も知らなかった。だから本物か偽物かなど、判りようがない。
そもそも、本物か偽物など、誰も考えつかないことだ。
「ダエヴァに調べさせたが、アイオン族とトゥーリ族にも、やはり召喚スキル〈才能〉を持った者は数名存在していた。リッキーと同じように、7月7日に生まれた女児だ」
フェイクは各種族に、均等にばら蒔かれていた。
「何故召喚スキル〈才能〉を持つ者を国が保護するか、どうしてそれが3種族で昔から決められていたのか。謎でしかなかったがな、神がそう仕組みを人間たちに仕込んだ。それなのにどういうわけか、リッキーはその仕組みの外に居た。それこそが、神の守護だったんだ。フェンリルを使わし、国の保護から外れさせた。リッキーからしてみたら、えらい迷惑な話だがな。不憫な境遇に落とし込んでも、それでも神は巫女の命を守りたかったのだろう」
片翼で生まれなくてはならなかったことも、それによって両親から捨てられたことも、全て神の仕組んだこと。そこまでして、巫女として生まれてきたキュッリッキを、神は守りたかったのだろうか。ベルトルドにはまるで理解できないことだ。他にいくらでも方法はあっただろうに、心を傷つけてまで何故そうしたのか。
「ユリディスの末路を考えれば、そうなりますね。良い方法とは思いませんが」
本来尊ばれ、神と同等に扱われていた筈の地上の女神。しかしヤルヴィレフト王家は禁を破ってユリディスに手を出した。その結果、世界は半壊しかけ、多くの歴史を闇に葬り、9千年の時を経て、新たな歴史が紡がれ始めた。
それが、今の世界。
「キュッリッキ嬢が生まれるまで、召喚士…アルケラの巫女が存在していた記録は残っていませんでした」
「おそらくユリディス以来の、初めてのアルケラの巫女誕生なのだろうな。もっとも、リッキーにはアルケラの巫女としての自覚もないし、神から巫女としての役目を言い渡されていない感じはする。どういうことなのかは不明だが」
人間の未来を正しく導く、という意思は全く感じられないし、キュッリッキ自身ようやく安住の地を得たのだ。大勢の他人のことを考えられるようになるには、まだ時間がかかるだろう。自分のことで手一杯なのだから。
「さて、長話がすぎたな。俺とアルカネットは事後処理で皇都に戻る。こちらのことはお前に任せた」
「はい」
「戻るぞアルカネット」
「ええ」
ベルトルドとアルカネットが空間転移でその場から瞬時に消えると、シ・アティウスはレディトゥス・システムへ目を向けた。
フリングホルニの動力部中央へ設置されたレディトゥス・システム。これを運び込むなとヒューゴは言っていた。それによって何が引き起こされるか、シ・アティウスにはよく判っている。それを成す為だけに、ベルトルドは動いているのだから。しかしそれと同時に、あることもまた心を複雑にさせていた。
「あなたは恨むでしょうか、それとも、許すのでしょうか……」
「うん。歴代の巫女の傍らには、必ずフェンリルが付き添っている」
「なるほど」
シ・アティウスは顎に手をあてる。
「ということは、キュッリッキ嬢は現代のアルケラの巫女というわけですか」
「そうだな」
「まさか、千年も生きるんでしょうか?」
「んー……、それは俺も判らん……」
キュッリッキがいくつで初潮を迎えたかは知らないが、さすがに外見の成長は止まっていない。はずである。
「では、あの15名の召喚スキル〈才能〉を持っていた少女たちは、何なのです?」
アルカネットが不思議そうに首をかしげる。
「フェイク、偽装だ」
アルカネットとシ・アティウスは顔を見合わせる。
「1万年前のユリディスの悲劇が、そうさせたんだ。神は巫女を守るために、フェイクを用意することにした。万が一ヤルヴィレフト王家の者のような暴挙が巫女に及ばないよう、本物の巫女を守るためだけに用意されたフェイク。それが召喚スキル〈才能〉を持たされた、少女たちの存在理由なんだ」
アルケラの巫女であるキュッリッキを、隠し守るためだけに生まれてきた少女たち。同じ日に生を受け、そんな重い宿命を背負わされているとは一生知らずに、贅沢を謳歌してきた。
召喚スキル〈才能〉を示す証はその特異な目だけで、召喚スキル〈才能〉が実際どんなものか、キュッリッキが現れるまで誰も知らなかった。だから本物か偽物かなど、判りようがない。
そもそも、本物か偽物など、誰も考えつかないことだ。
「ダエヴァに調べさせたが、アイオン族とトゥーリ族にも、やはり召喚スキル〈才能〉を持った者は数名存在していた。リッキーと同じように、7月7日に生まれた女児だ」
フェイクは各種族に、均等にばら蒔かれていた。
「何故召喚スキル〈才能〉を持つ者を国が保護するか、どうしてそれが3種族で昔から決められていたのか。謎でしかなかったがな、神がそう仕組みを人間たちに仕込んだ。それなのにどういうわけか、リッキーはその仕組みの外に居た。それこそが、神の守護だったんだ。フェンリルを使わし、国の保護から外れさせた。リッキーからしてみたら、えらい迷惑な話だがな。不憫な境遇に落とし込んでも、それでも神は巫女の命を守りたかったのだろう」
片翼で生まれなくてはならなかったことも、それによって両親から捨てられたことも、全て神の仕組んだこと。そこまでして、巫女として生まれてきたキュッリッキを、神は守りたかったのだろうか。ベルトルドにはまるで理解できないことだ。他にいくらでも方法はあっただろうに、心を傷つけてまで何故そうしたのか。
「ユリディスの末路を考えれば、そうなりますね。良い方法とは思いませんが」
本来尊ばれ、神と同等に扱われていた筈の地上の女神。しかしヤルヴィレフト王家は禁を破ってユリディスに手を出した。その結果、世界は半壊しかけ、多くの歴史を闇に葬り、9千年の時を経て、新たな歴史が紡がれ始めた。
それが、今の世界。
「キュッリッキ嬢が生まれるまで、召喚士…アルケラの巫女が存在していた記録は残っていませんでした」
「おそらくユリディス以来の、初めてのアルケラの巫女誕生なのだろうな。もっとも、リッキーにはアルケラの巫女としての自覚もないし、神から巫女としての役目を言い渡されていない感じはする。どういうことなのかは不明だが」
人間の未来を正しく導く、という意思は全く感じられないし、キュッリッキ自身ようやく安住の地を得たのだ。大勢の他人のことを考えられるようになるには、まだ時間がかかるだろう。自分のことで手一杯なのだから。
「さて、長話がすぎたな。俺とアルカネットは事後処理で皇都に戻る。こちらのことはお前に任せた」
「はい」
「戻るぞアルカネット」
「ええ」
ベルトルドとアルカネットが空間転移でその場から瞬時に消えると、シ・アティウスはレディトゥス・システムへ目を向けた。
フリングホルニの動力部中央へ設置されたレディトゥス・システム。これを運び込むなとヒューゴは言っていた。それによって何が引き起こされるか、シ・アティウスにはよく判っている。それを成す為だけに、ベルトルドは動いているのだから。しかしそれと同時に、あることもまた心を複雑にさせていた。
「あなたは恨むでしょうか、それとも、許すのでしょうか……」
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