片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
702 / 882
召喚士編

episode639

しおりを挟む
 ベルトルドは素直に頷いた。そして、わざとらしく肩をすくめてみせる。

「計画は順調に進み、ヒューゴもユリディスも、結局俺を止められなかったな」

 腕を組んでふんぞり返り、レディトゥス・システムに嘲笑を向けた。

「所詮は、過去の亡霊たちです」

「そうだな」

 ふふんと笑い、ベルトルドは真剣な表情になる。

「かつて惑星ヒイシには、ヴィプネン族の種族統一国家、神王国ソレルが在った。この時代のようにいくつもの離反した小国が存在せず、見事に一つの国にまとまっていた。それは、他惑星のアイオン族、トゥーリ族も同じだ。だが、国はまとまっていたが、政治の中枢は腐敗し、国を治めるヤルヴィレフト王家もまた腐っていた。――1万年前のこの世界は、3つの種族間で戦争が頻発していた。その戦いに打ち勝つために、ヤルヴィレフト王家はこの超巨大戦艦を建造したんだ」

 ベルトルドの脳裏に、ユリディスの記憶で見た光景がオーバーラップしていく。

「神に愛されし召喚士に手を出してまで、この艦で得ようとしたものは、けっして人間が手を出してはいけない領域だった」

 アルカネットとシ・アティウスは、黙ってベルトルドの話を聞いている。

「ヤルヴィレフト王家の愚行を阻止するために、ユリディスは命をかけた。そのかいあって、ヤルヴィレフト王家の野望は食い止められた。だが、1万年の時を越えて、この俺に見つかった」

「せっかく命をかけたのに、無駄になってしまいましたね」

「そうじゃないさアルカネット。1万年間守りきったんだ、じゅうぶん頑張ったさ」

 これには、アルカネットもシ・アティウスも肩をすくめて苦笑う。

「先代のヴェルナから引き継ぎ、ユリディスもつつがなく役目を果たして、次代へ引き継がせて眠るはずだっただろうに。――ユリディスはな、その日に食うのにも困る貧しい漁師の夫婦のもとに生まれた。母親が一家心中を考えていた矢先に、神殿から迎えがきて命拾いしたんだ」

「ほお…」

 それはシ・アティウスの記憶格納庫には入っていない情報だ。

「波乱な人生が待っていることが判っていれば、心中していたほうが幸せだったのかもしれん。だが、神は次なる後継者をヴェルナに教え、迎えさせてしまった」

 ベルトルドはレディトゥス・システムの前に立って、じっと透明な柩のようなケースを見上げた。

「召喚士とはな、後世が勝手に改変してつけた名称だ。今では真の呼び名を知る者はほとんどいなくなってしまった。それもまた、神の計画通りだったのだろうが、俺たちは知っている」

 ベルトルドはニヤリと口の端を歪める。

「アルケラの巫女、それが召喚士の正式名称だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...