片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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召喚士編

episode637

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「ユリディスの記憶か……」

 ベルトルドは急に苦いものがこみ上げてきて、小さく苦笑を浮かべた。

 貧しいなりをしたユリディスの姿が、かつてキュッリッキの記憶で視た、幼い日のキュッリッキの姿に重なったのだ。

「記憶が視えたんですか?」

 隣でシ・アティウスが言うと、ベルトルドは肯定するように頷いた。

「まだ幼い頃の記憶がな、流れ込んできた」

「ほほう」

「ユリディスの先代も視えた。名をヴェルナといったかな、あどけなさを残す美少女だった」

 暫く宙に視線を彷徨わせていたシ・アティウスが、ああ、と小さく声を上げた。

「記録にありますね。後継にユリディスを見出し、役目を全うした最後の人です」

「最後?」

「ユリディスは全うできなかったのですよ、自らに課せられた本来の役目を」

 記憶スキル〈才能〉を持つシ・アティウスは、己の記憶格納庫からユリディスに関する情報を取り出す。

「ヤルヴィレフト王家の暴挙によって、ユリディスは王家に捕らえられてしまいました。そして役目を最後まで果たすことができず、こうして閉じ込められた」

 目の前の台座にそっと手を触れる。

 半円形の台座の上には、柩のような縦長のケースが立てられていた。

 透明なケースの中には何もない。

 ベルトルドの雷霆(ケラウノス)により破壊された神殿は、レディトゥス・システムと床だけを残し、木っ端微塵に吹き飛んでいた。15名の少女たちの亡骸も、蒸発して消えている。

 大人一人入るくらいの大きさのケースには、傷跡一つ無い。

「俺の雷霆(ケラウノス)でも傷が付かないとか、頑丈だなあ」

 しみじみと感心したように呟く。

「おそらくユリディスの結界が、このケースにもかかっているのでしょう」

「結界まだあるのか? フリングホルニにこれ設置して、ちゃんと作動するんだろうな?」

 ベルトルドがやや声を荒らげ怪訝そうに言うと、

「問題ありません。ご心配なく」

 メガネのブリッジを指で軽く押し上げ、シ・アティウスは口元を歪ませた。



 ベルトルドはエーベルハルド長官を呼ぶと、いくつか指示を出した。

「ハーメンリンナに戻ったら、リュリュと一緒に召喚スキル〈才能〉の娘たちの家族を全て逮捕しろ。そして家財全て差し押さえ、家族は地下の処理場で始末しておけ」

「はっ!」

「周辺で騒ぐ者があれば、問答無用で圧力をかけろ。今回のことは皇王も存じているから、そのあたりの脅迫は黙殺して構わん。俺たちはこいつをエルアーラ遺跡に運び込んでから戻る。あとのことは任せた」

「承知致しました。お気をつけて」

「ああ」

 ベルトルド、アルカネット、シ・アティウスの3人はレディトゥス・システムの台座の上に立った。

 ベルトルドは意識を集中して、フリングホルニの動力部を脳裏に思い出し描く。

「いくぞ」
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