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召喚士編
episode633
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留学先で両親の訃報を知り、悲しむ間もなく命を狙われ、学院で雇った傭兵たちに守られて無事首都に帰り着いた。しかし、そのことがきっかけで、ハワドウレ皇国副宰相に目をつけられた。
表向きは身の安全確保のためであったが、実際は召喚スキル〈才能〉を持っているからという理由で、ハワドウレ皇国に招かれた。
王家の娘として、更に貴重な召喚スキル〈才能〉を授かり生まれてきた。その召喚スキル〈才能〉は生憎なんのためのスキル〈才能〉だか見当もつかないほど、なにもその力を発揮してはくれなかった。
世間一般で伝えられているのは、別の次元にあるという、神々の世界アルケラを覗き視ることが出来て、そのアルケラに住まう者共を召喚し、使役することができるという。それゆえ、召喚スキル〈才能〉を持つ者を召喚士と呼称している。
アルケラから何かを招いたことはない。同じスキル〈才能〉を持っていた、あのキュッリッキという少女が、フェンリルとフローズヴィトニルだといった仔犬を見ても、何も感じなかった。それがなんなのかさえ判らない。
出来なかったことは、そんなに罪なのだろうか?
確かに貴重なスキル〈才能〉というだけで、そのスキル〈才能〉のレベルを問わず、必要以上に大事にされてきた。王女であった点を除いても。
召喚できなかったことを責められたことはない。そんなところに誰も興味を持たなかった。だから、出来ないことを罪悪に考えたことなど一度もないのだ。
そして、ベルトルドが言っていた、大事な役目。それは一体なんなのか。しかもすでに、その大事な役目は終わっているという。――キュッリッキを庇護下に置いたからということだが、謎が深まるばかり。
それはどういう意味なのだろうか。
疑問は後から尽きない。そして、
「貴様はリッキーを泣かせた」
メルヴィンに惚れたことで、あの少女を自分が泣かせた。
あの2人は恋人同士だと、アルカネットという男が言っていた。
恋人同士である2人の間に割って入り、波風を立てるのは良くないことだろう。本来そういうことは嫌悪していたはずだったのに、イリニア王女はメルヴィンを本気で自分の恋人にしたいと願った。
恋人がいたなど知らなかったし、知ってもなお恋心はつのっている。そう簡単に諦めて吹っ切れるほど、まだ時間は経っていないのだ。
短期間にあまりにも色々な出来事がのしかかり、精神的にも堪えることばかりだ。
ベルトルドもアルカネットも、結界を解け、死ねと言っていた。結界というものがどんなものかは知らないが、自分が死ねば解けるものなのだろうか?
「死ぬのは嫌よ…」
トビアスの死を聞かされ、悲しみの中に怒りもある。たとえ小国とはいえ、王女としての矜持まで失ったわけではない。こんな理不尽な扱いを受け、言われた通り死んでやる必要などないのだ。
トビアスの亡骸を丁寧に弔ってやりたい。
メルヴィンへ想いを打ち明け、キュッリッキから奪ってやりたい。
生まれ故郷である祖国の女王の座に就いて、自分が亡き両親の後を継いで国を守っていく。
様々な思いに突き動かされて、イリニア王女は壁に手をつき立ち上がった。
どこかにきっと、逃げ口があるはず。外は軍人たちがいっぱいいるが、逃げ延びてみる。否、逃げ延びる。そう決意して毅然と顔を上げた時だった。
どこか生臭い臭気が鼻を付いて、イリニア王女は顔をしかめた。そして、なにかが蠢く気配を感じ、正面を凝視する。
薄暗い中から、何かが近づいてきている。
臭気はどんどん密度を増し、鼻と口元に手を当て臭いを防ごうとした。
「あ……あれは……なんですの……」
薄暗い影から姿を現したそれは、赤黒い脚を前に突き出した。
表向きは身の安全確保のためであったが、実際は召喚スキル〈才能〉を持っているからという理由で、ハワドウレ皇国に招かれた。
王家の娘として、更に貴重な召喚スキル〈才能〉を授かり生まれてきた。その召喚スキル〈才能〉は生憎なんのためのスキル〈才能〉だか見当もつかないほど、なにもその力を発揮してはくれなかった。
世間一般で伝えられているのは、別の次元にあるという、神々の世界アルケラを覗き視ることが出来て、そのアルケラに住まう者共を召喚し、使役することができるという。それゆえ、召喚スキル〈才能〉を持つ者を召喚士と呼称している。
アルケラから何かを招いたことはない。同じスキル〈才能〉を持っていた、あのキュッリッキという少女が、フェンリルとフローズヴィトニルだといった仔犬を見ても、何も感じなかった。それがなんなのかさえ判らない。
出来なかったことは、そんなに罪なのだろうか?
確かに貴重なスキル〈才能〉というだけで、そのスキル〈才能〉のレベルを問わず、必要以上に大事にされてきた。王女であった点を除いても。
召喚できなかったことを責められたことはない。そんなところに誰も興味を持たなかった。だから、出来ないことを罪悪に考えたことなど一度もないのだ。
そして、ベルトルドが言っていた、大事な役目。それは一体なんなのか。しかもすでに、その大事な役目は終わっているという。――キュッリッキを庇護下に置いたからということだが、謎が深まるばかり。
それはどういう意味なのだろうか。
疑問は後から尽きない。そして、
「貴様はリッキーを泣かせた」
メルヴィンに惚れたことで、あの少女を自分が泣かせた。
あの2人は恋人同士だと、アルカネットという男が言っていた。
恋人同士である2人の間に割って入り、波風を立てるのは良くないことだろう。本来そういうことは嫌悪していたはずだったのに、イリニア王女はメルヴィンを本気で自分の恋人にしたいと願った。
恋人がいたなど知らなかったし、知ってもなお恋心はつのっている。そう簡単に諦めて吹っ切れるほど、まだ時間は経っていないのだ。
短期間にあまりにも色々な出来事がのしかかり、精神的にも堪えることばかりだ。
ベルトルドもアルカネットも、結界を解け、死ねと言っていた。結界というものがどんなものかは知らないが、自分が死ねば解けるものなのだろうか?
「死ぬのは嫌よ…」
トビアスの死を聞かされ、悲しみの中に怒りもある。たとえ小国とはいえ、王女としての矜持まで失ったわけではない。こんな理不尽な扱いを受け、言われた通り死んでやる必要などないのだ。
トビアスの亡骸を丁寧に弔ってやりたい。
メルヴィンへ想いを打ち明け、キュッリッキから奪ってやりたい。
生まれ故郷である祖国の女王の座に就いて、自分が亡き両親の後を継いで国を守っていく。
様々な思いに突き動かされて、イリニア王女は壁に手をつき立ち上がった。
どこかにきっと、逃げ口があるはず。外は軍人たちがいっぱいいるが、逃げ延びてみる。否、逃げ延びる。そう決意して毅然と顔を上げた時だった。
どこか生臭い臭気が鼻を付いて、イリニア王女は顔をしかめた。そして、なにかが蠢く気配を感じ、正面を凝視する。
薄暗い中から、何かが近づいてきている。
臭気はどんどん密度を増し、鼻と口元に手を当て臭いを防ごうとした。
「あ……あれは……なんですの……」
薄暗い影から姿を現したそれは、赤黒い脚を前に突き出した。
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