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召喚士編
episode631
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ベルトルドは組んでいた腕を解いて、両手を広げた。
「顔を上げてあれを見ろ。立派だろう? 1万年も前に作られた神殿の遺跡だ」
少女たちはベルトルドが示す方向へ顔を向けると、いつの間にかそこにある神殿を見て目を見開いた。
四角い神殿だった。灰色の石造りで、華美な彫刻などは殆どない。美術的価値はなさそうだが、歴史的にはきっと重要なのだろう。正面から見ているので、奥行がどのくらいあるのかは判らなかった。
「この神殿には結界が張ってあってな、中にあるものを取り出せずに困っている」
ベルトルドは再び腕を組むと、ちょっと首を傾げて少女たちをチラッと見た。
「貴様たち、結界を外してくれ」
困惑した目が、ベルトルドに集中する。
「アルケラから何一つ召喚経験もなく、意識を飛ばしてアルケラの住人たちと交信経験もなく、なぜそれが召喚スキル〈才能〉なのか謎だっただろう。国は大金を毎年支払って貴様らを贅沢に養っているんだから、恩返しのひとつもしたいと思わんか? 何も貢献しないまま老後を迎えて死ぬなぞ、税金を支払っている国民が聞いたら激怒するだろうな。――なんの理由もなしに、3種族共に、国が召喚スキル〈才能〉を持つ者を無償で保護していると、貴様ら本気で思っていないだろうな? 無能な貴様らにも、大事な役目があるんだぞ」
ベルトルドは端整な顔に、凄惨な笑みを浮かべる。
「だが生憎、貴様らのその大事な役目は、すでに終わっている。俺たちがリッキーを庇護下に置いたからな。だから、用済みになった貴様らには、最期の務めを果たしてもらおうか」
それを合図にアルカネットが頷く。
「イリニア王女、立ちなさい」
アルカネットに突然名を呼ばれ、イリニア王女は怯えながらもゆるゆるその場に立ち上がる。
「こちらへきなさい」
アンティアのように乱暴な扱いを受けることが怖くて、イリニア王女は素直に従った。
前に出ると、ベルトルドに乱暴に腕を掴まれ引き寄せられた。
「貴様のお供の、何といったか?」
「トビアス、ですね」
アルカネットが答える。
「そうそう、そのトビアス。煩わしいから殺しておいたぞ」
「え?」
イリニア王女は一瞬なんのことか理解できず、ベルトルドの顔を見上げた。
「この娘は、ウエケラ大陸のトゥルーク王国の王女様だ。最近国王夫妻が身まかり、近々女王として即位する。だが、残念なことに、女王に就くことはない」
「――ど、どういうことなのですか……?」
声を震わせながらも、イリニア王女はベルトルドに食いついた。
「うん、いまから死ぬからじゃない?」
「……え?」
「死んだら玉座には就けないしな。トゥルーク王国はそのままニコデムス宰相が継げばいいさ。やつの後継は殺してやったから、これから急いで種付けすれば間に合うだろうし」
あっけらかんと言われて、イリニア王女は愕然とした。一体この男は何を言い出すのだろうか。
(わたくしが、死ぬ?)
「貴様はリッキーを泣かせた。不安に陥れおって、本当に腹立たしい。貴様が召喚スキル〈才能〉を持っているから今日まで我慢してやったが、もう我慢する必要はない」
「ええ。死になさい、我々の役に立って」
「顔を上げてあれを見ろ。立派だろう? 1万年も前に作られた神殿の遺跡だ」
少女たちはベルトルドが示す方向へ顔を向けると、いつの間にかそこにある神殿を見て目を見開いた。
四角い神殿だった。灰色の石造りで、華美な彫刻などは殆どない。美術的価値はなさそうだが、歴史的にはきっと重要なのだろう。正面から見ているので、奥行がどのくらいあるのかは判らなかった。
「この神殿には結界が張ってあってな、中にあるものを取り出せずに困っている」
ベルトルドは再び腕を組むと、ちょっと首を傾げて少女たちをチラッと見た。
「貴様たち、結界を外してくれ」
困惑した目が、ベルトルドに集中する。
「アルケラから何一つ召喚経験もなく、意識を飛ばしてアルケラの住人たちと交信経験もなく、なぜそれが召喚スキル〈才能〉なのか謎だっただろう。国は大金を毎年支払って貴様らを贅沢に養っているんだから、恩返しのひとつもしたいと思わんか? 何も貢献しないまま老後を迎えて死ぬなぞ、税金を支払っている国民が聞いたら激怒するだろうな。――なんの理由もなしに、3種族共に、国が召喚スキル〈才能〉を持つ者を無償で保護していると、貴様ら本気で思っていないだろうな? 無能な貴様らにも、大事な役目があるんだぞ」
ベルトルドは端整な顔に、凄惨な笑みを浮かべる。
「だが生憎、貴様らのその大事な役目は、すでに終わっている。俺たちがリッキーを庇護下に置いたからな。だから、用済みになった貴様らには、最期の務めを果たしてもらおうか」
それを合図にアルカネットが頷く。
「イリニア王女、立ちなさい」
アルカネットに突然名を呼ばれ、イリニア王女は怯えながらもゆるゆるその場に立ち上がる。
「こちらへきなさい」
アンティアのように乱暴な扱いを受けることが怖くて、イリニア王女は素直に従った。
前に出ると、ベルトルドに乱暴に腕を掴まれ引き寄せられた。
「貴様のお供の、何といったか?」
「トビアス、ですね」
アルカネットが答える。
「そうそう、そのトビアス。煩わしいから殺しておいたぞ」
「え?」
イリニア王女は一瞬なんのことか理解できず、ベルトルドの顔を見上げた。
「この娘は、ウエケラ大陸のトゥルーク王国の王女様だ。最近国王夫妻が身まかり、近々女王として即位する。だが、残念なことに、女王に就くことはない」
「――ど、どういうことなのですか……?」
声を震わせながらも、イリニア王女はベルトルドに食いついた。
「うん、いまから死ぬからじゃない?」
「……え?」
「死んだら玉座には就けないしな。トゥルーク王国はそのままニコデムス宰相が継げばいいさ。やつの後継は殺してやったから、これから急いで種付けすれば間に合うだろうし」
あっけらかんと言われて、イリニア王女は愕然とした。一体この男は何を言い出すのだろうか。
(わたくしが、死ぬ?)
「貴様はリッキーを泣かせた。不安に陥れおって、本当に腹立たしい。貴様が召喚スキル〈才能〉を持っているから今日まで我慢してやったが、もう我慢する必要はない」
「ええ。死になさい、我々の役に立って」
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