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召喚士編
episode628
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――何故こんなことに!?
同じ思いを抱いた少女たちが15名。
「さっさと歩け!」
「グズグズするな」
軍人たちの厳しい言葉と乱暴な扱いを受けながら、足場の悪い斜面を、少女たちは休憩もなしに歩かされていた。
アンティアはドレスの裾をたくしあげながら、小石で足を取られそうになる斜面を懸命に歩いている。
(どうしてわたくしが、こんな酷いメにあっているのかしら…)
どうして。
悪夢の中を彷徨っているような錯覚にとらわれながら、アンティアは今朝の出来事に思いを馳せた。
朝起きると、素敵なサプライズがあった。
ベルトルドとアルカネット両名から、連れて行きたいところがあるから、支度してケレヴィルの本部まで来るように。そう連絡が来ていると、母親から聞かされたのだ。
憧れていた2人からの誘いである。
「わたくしを一体、どこへ連れて行ってくれるのかしら」
アンティアは胸をときめかせ、大はしゃぎで部屋の中を舞踊った。
「なんて幸せなのかしら。うんとお洒落をして、2人のもとへ急いで行かなければならないわ」
衣装部屋へ駆け込むと、母親と侍女と3人でドレスを選び、髪のセットと化粧も念入りに施した。
ゴンドラ移動ももどかしく、ケレヴィルの本部へ行ってみれば、先日の同じ召喚スキル〈才能〉を持つ少女たちが集まっていた。いないのはキュッリッキとかいった、生意気な乞食猫だけだ。
暫くすると、ダエヴァだと名乗る軍人たちが軍靴を鳴らしやってきて、荒々しい態度で少女たちを外に引っ張り出した。
突然のことに戸惑う中、アンティアも乱暴に腕を掴まれ、まるで家畜を引っ張り出すような扱いで外に出された。
「無礼ね! わたくしたちは召喚スキル〈才能〉を持っているのよ!! このような扱いが許されるとでも思っているの?」
勇ましくアンティアは叫んだが、
「私語は慎め!!」
壮年の男から平手打ちを喰らい、口の端を切ってしまった。
痛みよりも、他人に手をあげられたことに驚いて、アンティアは押し黙っまった。そのまま力ずくで引きずられるようにして、地下の乗り物移動専用通路に連れて行かれる。そこで、荷馬車に幌をかけただけの粗末な馬車に放り込まれ、少女たちと共にハーメンリンナの外へ連れ出された。
「あたしたち、どうなっちゃうのかしら」
「怖いわ」
舌を噛みそうなほど揺れる馬車の中で、少女たちは身を寄せ合いながら不安を口にする。
やがて馬車が止まり外に出されると、そこは行政街ことクーシネン街にあるエグザイル・システムの建物の前だった。
突然現れた煌びやかな少女たちに、大勢の人々が好奇の目を向ける。
恥ずかしそうに俯く少女たちは、ダエヴァたちに連行されるようにして、次々にエグザイル・システムに乗せられる。そして見知らぬ場所に飛ぶと、やはり幌馬車に乗せられて、訳も判らず連行された。
数時間ほど馬車に揺られて途方にくれていた少女たちは、ようやく馬車から降ろされた。
辺り一面、真っ黒なところだ。見渡す限り黒一色で、草木一つ見当たらず、空が唯一曇天の鈍色をしているだけ。
もう何がなんだか判らない少女たちは、無駄口も叩かずダエヴァたちに連れられ、再び歩き出した。真っ黒な小石がゴロゴロと転がる、足場の悪いところを。
上質なヒールのなかに、粒状の小石が入ってきて足の裏を痛く刺激する。それに我慢できず、アンティアは立ち止まってヒールの中の小石を取ろうとした。ところが、
「足を止めるな!」
近くにいた若い軍人が、手にしていた鞭でアンティアを思い切り叩いた。その拍子にアンティアは体勢を崩すと、地面に倒れてしまった。
「きゃっ」
「何をしている」
同じ思いを抱いた少女たちが15名。
「さっさと歩け!」
「グズグズするな」
軍人たちの厳しい言葉と乱暴な扱いを受けながら、足場の悪い斜面を、少女たちは休憩もなしに歩かされていた。
アンティアはドレスの裾をたくしあげながら、小石で足を取られそうになる斜面を懸命に歩いている。
(どうしてわたくしが、こんな酷いメにあっているのかしら…)
どうして。
悪夢の中を彷徨っているような錯覚にとらわれながら、アンティアは今朝の出来事に思いを馳せた。
朝起きると、素敵なサプライズがあった。
ベルトルドとアルカネット両名から、連れて行きたいところがあるから、支度してケレヴィルの本部まで来るように。そう連絡が来ていると、母親から聞かされたのだ。
憧れていた2人からの誘いである。
「わたくしを一体、どこへ連れて行ってくれるのかしら」
アンティアは胸をときめかせ、大はしゃぎで部屋の中を舞踊った。
「なんて幸せなのかしら。うんとお洒落をして、2人のもとへ急いで行かなければならないわ」
衣装部屋へ駆け込むと、母親と侍女と3人でドレスを選び、髪のセットと化粧も念入りに施した。
ゴンドラ移動ももどかしく、ケレヴィルの本部へ行ってみれば、先日の同じ召喚スキル〈才能〉を持つ少女たちが集まっていた。いないのはキュッリッキとかいった、生意気な乞食猫だけだ。
暫くすると、ダエヴァだと名乗る軍人たちが軍靴を鳴らしやってきて、荒々しい態度で少女たちを外に引っ張り出した。
突然のことに戸惑う中、アンティアも乱暴に腕を掴まれ、まるで家畜を引っ張り出すような扱いで外に出された。
「無礼ね! わたくしたちは召喚スキル〈才能〉を持っているのよ!! このような扱いが許されるとでも思っているの?」
勇ましくアンティアは叫んだが、
「私語は慎め!!」
壮年の男から平手打ちを喰らい、口の端を切ってしまった。
痛みよりも、他人に手をあげられたことに驚いて、アンティアは押し黙っまった。そのまま力ずくで引きずられるようにして、地下の乗り物移動専用通路に連れて行かれる。そこで、荷馬車に幌をかけただけの粗末な馬車に放り込まれ、少女たちと共にハーメンリンナの外へ連れ出された。
「あたしたち、どうなっちゃうのかしら」
「怖いわ」
舌を噛みそうなほど揺れる馬車の中で、少女たちは身を寄せ合いながら不安を口にする。
やがて馬車が止まり外に出されると、そこは行政街ことクーシネン街にあるエグザイル・システムの建物の前だった。
突然現れた煌びやかな少女たちに、大勢の人々が好奇の目を向ける。
恥ずかしそうに俯く少女たちは、ダエヴァたちに連行されるようにして、次々にエグザイル・システムに乗せられる。そして見知らぬ場所に飛ぶと、やはり幌馬車に乗せられて、訳も判らず連行された。
数時間ほど馬車に揺られて途方にくれていた少女たちは、ようやく馬車から降ろされた。
辺り一面、真っ黒なところだ。見渡す限り黒一色で、草木一つ見当たらず、空が唯一曇天の鈍色をしているだけ。
もう何がなんだか判らない少女たちは、無駄口も叩かずダエヴァたちに連れられ、再び歩き出した。真っ黒な小石がゴロゴロと転がる、足場の悪いところを。
上質なヒールのなかに、粒状の小石が入ってきて足の裏を痛く刺激する。それに我慢できず、アンティアは立ち止まってヒールの中の小石を取ろうとした。ところが、
「足を止めるな!」
近くにいた若い軍人が、手にしていた鞭でアンティアを思い切り叩いた。その拍子にアンティアは体勢を崩すと、地面に倒れてしまった。
「きゃっ」
「何をしている」
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