片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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召喚士編

episode627

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「そこまで!」

 パンパンッと両手を打ち鳴らし、突然ベルトルドが部屋に入ってきた。その後ろから、アルカネットとシ・アティウスも姿を現す。

 途端に、室内が騒然と沸き返った。

「ベルトルドさん」

「お疲れ、リッキー」

 椅子から立ち上がったキュッリッキを、ベルトルドは素早く駆け寄って、愛おしげに抱きしめる。

「どさくさに紛れてなに抱きついているんです、早く離れなさい」

「うるさいぞ。せっかくリッキーとアツイ抱擁を交わしているんだ。邪魔するな」

(また始まった……)

 ところかまわず2人はこの調子だ。

 いつまでも抱きしめているベルトルドを突き放そうとしたが、少女たちの嫉妬に燃え盛る視線を感じ、キュッリッキはあえてベルトルドの腕に中にいることにした。そうすることで、先ほどぶたれた仕返しをしてやろうと、意地悪を思いついたのだ。

「対面はこのくらいにしておきましょう。有意義な話も聞けたことですしね」

「?」

 不思議そうにシ・アティウスに目を向けていると、

「ちょっと遅くなったが、ランチを食べに行こうリッキー。好きなものをご馳走するぞ」

 嬉しそうなベルトルドに、そう話を切り替えされてしまった。

「私も一緒に行きましょう」

「別にお前は来なくていいんだぞ」

「ベルトルド様が行かなくてもいいのですよ?」

「このお邪魔虫!」

「あなたはトイレ掃除でもしていればいいのです」

「嫌なことを思い出させるな!!」

「自業自得です」

「えっと………」

 トイレ掃除というのがよく判らないものの、相変わらずの2人の口喧嘩に、キュッリッキは疲れたようにため息をついた。

 2人がこんなふうに口喧嘩をするところなど、初めて目の当たりにする少女たちも、困惑を表情に刻み込んで見つめていた。



 ベルトルド、アルカネット、キュッリッキの3人がケレヴィルを辞すると、シ・アティウスは自分の所長室に戻ってデスクの前に座った。

 引き出しからファイルを取り出し、書類をめくっていく。

 書類には、先ほどの少女たちの顔写真と、パーソナルデータが綴られていた。

「キュッリッキ嬢には当たり前のことが、あの少女たちには出来ない。そもそもアルケラから何も召喚経験がない、か」

 エルアーラ遺跡でエンカウンター・グルヴェイグ・システムに対抗するために見せた、キュッリッキの召喚の数々。遺跡の録画で全て見た。あまりの見事さに、シ・アティウスは身体の芯からゾクゾクとしたものだ。

「アルケラに意識を飛ばし、神々たちと交信も可能……。それすら出来ないあの娘たち」

 シ・アティウスは手元の書類に唾を吐きかけた。アンティアの顔写真に唾がかかる。

「ゴミ以下だな」

 ファイルを乱暴にデスクに投げる。そして腕を組み、チェアに頭をもたれかけた。

 召喚スキル〈才能〉を持つ赤子を、国が家族ごと引き取り生涯世話をする。王侯貴族並みの年金が毎年欠かさず支給され、邸宅、使用人、護衛、養育費、豪遊費に、その全てが国費で賄われるのだ。

 数が少ないとは言え、税金が当たり前のように使われている。

 役立たずどもにその国費が、税金が使われてきた。召喚スキル〈才能〉があるという理由だけで、この19年間ずっとだ。

 一方、優れた召喚スキル〈才能〉を持つ正真正銘の召喚士の少女は、不遇な18年間を送ってきた。贅沢も知らず、人並みの生活も知らない。自らのスキル〈才能〉を用いて、血なまぐさい裏街道を駆け抜けてきたのだ。生きるために。

 なんという酷い差だろう。

 もはやこれは、犯罪と呼んで等しいレベルだ。それなのに、あの少女たちはキュッリッキを口汚く罵っていた。

「召喚スキル〈才能〉を有してはいるが、召喚士ではない。ゴミ以下のあの娘たちには、大いに結界解除の役に立ってもらおう。そのくらいしか使い道がないのだから」

 侮蔑を込めて、シ・アティウスは小さく笑った。
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