片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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召喚士編

episode626

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 ビシッとアンティアに人差し指を突きつける。しかし2匹ともその場に座ったまま、ジッとアンティアを見上げているだけだ。

 珍しく言うことを聞かないフェンリルたちを、キュッリッキは焦ったように見つめる。

「なんで? ……にゅ? 違う? 何が??」

「ちょ、ちょっとなんなのこの仔犬たち」

 思わず後じさりながら、アンティアはいきなり現れたフェンリルたちをじっと見おろす。

 今まで居なかったはずの仔犬が突如現れ、驚きと恐怖が瞬時にアンティアの身体を駆け上っていった。他の少女たちもざわつきながら、おっかなびっくり興味の矛先をフェンリルたちに注いだ。

「なにって、フェンリルとフローズヴィトニルじゃない。見れば判るでしょ」

「そりゃ判るわ、ただの白黒の仔犬2匹よ」

 アンティアは奮然と言い返す。

「そうじゃないわよ! フェンリルたちはアルケラの神様だよ、知らないの??」

「か…神様ですって……?」

 アンティアもエリナも、酷く不思議そうにフェンリルとフローズヴィトニルを交互に見ていた。他の少女たちも同じ反応だった。

「アナタたち、アルケラを覗いたことあるんだよね? 意識を飛ばして、アルケラの子たちとお話したこと、ナイの?」

 勢いの削げたキュッリッキの顔をチラッと見て、ムッスリと表情を変えると「ないわ」とアンティアがこぼす。エリナも同意するように頷く。

「アルケラと思しきところが、なんとなく見えたことがあるくらいよ。――何も召喚できないし、神様なんて……意識を飛ばすとか、そんなことできないわ。それが普通なんじゃないの? ねえ、皆様?」

 室内の少女たちに同意を求めるように、アンティアが困ったように呼びかける。

「あたくしもそうだわ……。普通はできないものよ。だって、みんなできないもの」

 エリナも同意するように言う。口々に他の少女たちも出来ない、やれたことがないと言い出した。

 みんなの反応に、キュッリッキは「ウソッ」と目を見開く。

「そんなはずないよ、だってアルケラの子たちも神様たちも、召喚士が大好きなんだよ。いつだって優しく見守ってくれるし、フェンリルだってアタシが物心着く前から、ずっとそばで守ってくれてたんだから」

 その発言は、少女たちの困惑をより深めただけのようだ。

「あなたは一体、何者なのですか?」

 それまで口を開こうとしなかったイリニア王女が、訝しむようにキュッリッキに詰め寄った。

「わたくしたちとは明らかに違いますもの」

 今度はキュッリッキのほうが、困惑を深める番になった。

 同じ召喚スキル〈才能〉を持つ少女たち。しかし、キュッリッキとは違う。キュッリッキが当たり前にできることが、この少女たちは出来ない。アルケラを視たこともないというのは、キュッリッキにとってショックだった。

「フェンリル……」

 困惑した声で名を呼ばれたフェンリルは、ちらっとキュッリッキを見ただけで、何も言わなかった。
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