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召喚士編
episode625
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一人用の椅子に座らされ、キュッリッキは肩をすくめて目を左右に動かした。
ある者はソファに座り、ある者はカーペットに座り、ある者はその場に立ってキュッリッキを値踏みするように見つめている。
これだけ大勢の同い年くらいの女の子たちといるのは、実はキュッリッキにとっては初めての経験なのだ。
むしろ、むさっ苦しい傭兵のおっさんたちと一緒に過ごしていた時間の方が、圧倒的に多い。今も年上のライオン傭兵団のみんなと一緒にいるのだ。
そして、自分と同じスキル〈才能〉をみんな持っている。そのコトできっと、楽しい会話が始まるのだと思いきや。
これではまるで、尋問を受けるような雰囲気である。何故なら、少女たちからは敵意しか感じないのだ。
「ねえアナタ、名前はなんておっしゃるの?」
ほぼ近い位置に立つオレンジに近い金色の髪を持つ少女が、腕を組み居丈高に言う。ツンとしているが、整った容姿の美しい少女だ。
先ほどシ・アティウスがちゃんと紹介していたような気が、と心の片隅で思う。
「キュッリッキよ」
「なんだか言いにくそうな名前ね……」
よけないお世話だ。初対面のやつに、偉そうに言われる筋合いはないとキュッリッキは心の中で毒づく。
「そういうアナタはなんていうの? さきに名乗るのが礼儀でしょ」
「乞食が偉そうに言わないでちょうだい!」
「え?」
「アナタって孤児で乞食同然の傭兵をしていたっていうじゃない。おかしいわよね? だって召喚スキル〈才能〉をもっているのでしょう、だったら孤児の時点で国が保護をするはずなのに、何故乞食生活をしていたのよ」
そうよそうよ、とあちこちから声が上がる。
乞食と傭兵は全く別ものだ。キュッリッキはムッとした表情(かお)をすると、居丈高な少女をキッと見上げる。
「あんたが知る必要はないことよ。それに乞食じゃなく、ちゃんとフリーの傭兵として働いて稼いでいたわ。物乞いなんてしたことないもん」
反論されて、少女は表情を歪める。
「無礼な口をきくのね、さすが卑しい育ちをしてきただけあるわ。それなのにどうして、ベルトルド様とアルカネット様が、こんな乞食猫の後見人をしているのかしら!」
「どうやって知り合ったのかしら」
「下賤と関わるはずはないのに、おかしいわよね」
乞食猫とはひどい言われようである。
こんなハジメマシテな連中に、自らの悲しいヒストリーを語る気は全くしない。しかし、自分のことを知りもしないくせに、いい加減な難癖をつけられるのも腹が立つ。
ガヤガヤと喧しく口々にすき放題言う少女たちを見て、キュッリッキはふとあることに気づいた。
そう、この目の前の少女たちは、ベルトルドやアルカネットに憧れている。たぶん、好きなのだろう。
さきほどアルカネットに向けて発していた黄色い声が、その考えを決定づけていた。それだけの理由で、何も知らないキュッリッキに対し、嫉妬を向けているのだ。
初対面でこんな扱いを受けるのも、それで納得できてしまう。――したくもないが。
メルヴィンと恋を成就してから、最近妙にこういうことには特に敏感になっていた。
「教えてあげないんだから」
ツーンとそっぽを向いて、キュッリッキは心の中で舌を出した。
「な、なによこの子!」
問い詰めていた少女はカッと頬を朱に染めると、繊細な手を振り上げキュッリッキの頬を叩いた。室内にパーンッという音が痛そうに響く。
「ちょっとアンティア、やりすぎよ」
おかっぱ頭の黒髪の少女が、慌ててアンティアの肩を押さえる。
「放してちょうだいエリナ! この生意気な子には、キツイお仕置きが必要なのだから」
キュッリッキは一瞬呆気に取られていたが、ハッとすると、キッとアンティアを睨みつけた。
「よくもやったわね!! フェンリル! フローズヴィトニル!!」
奮然と叫ぶと、足元に隠れていたフェンリルとフローズヴィトニルが姿を現した。
「どうせこいつらも召喚士ナンデショ! 召喚合戦なんかしたことないけど、遠慮しなくていいからブッ叩いちゃってよ!」
ある者はソファに座り、ある者はカーペットに座り、ある者はその場に立ってキュッリッキを値踏みするように見つめている。
これだけ大勢の同い年くらいの女の子たちといるのは、実はキュッリッキにとっては初めての経験なのだ。
むしろ、むさっ苦しい傭兵のおっさんたちと一緒に過ごしていた時間の方が、圧倒的に多い。今も年上のライオン傭兵団のみんなと一緒にいるのだ。
そして、自分と同じスキル〈才能〉をみんな持っている。そのコトできっと、楽しい会話が始まるのだと思いきや。
これではまるで、尋問を受けるような雰囲気である。何故なら、少女たちからは敵意しか感じないのだ。
「ねえアナタ、名前はなんておっしゃるの?」
ほぼ近い位置に立つオレンジに近い金色の髪を持つ少女が、腕を組み居丈高に言う。ツンとしているが、整った容姿の美しい少女だ。
先ほどシ・アティウスがちゃんと紹介していたような気が、と心の片隅で思う。
「キュッリッキよ」
「なんだか言いにくそうな名前ね……」
よけないお世話だ。初対面のやつに、偉そうに言われる筋合いはないとキュッリッキは心の中で毒づく。
「そういうアナタはなんていうの? さきに名乗るのが礼儀でしょ」
「乞食が偉そうに言わないでちょうだい!」
「え?」
「アナタって孤児で乞食同然の傭兵をしていたっていうじゃない。おかしいわよね? だって召喚スキル〈才能〉をもっているのでしょう、だったら孤児の時点で国が保護をするはずなのに、何故乞食生活をしていたのよ」
そうよそうよ、とあちこちから声が上がる。
乞食と傭兵は全く別ものだ。キュッリッキはムッとした表情(かお)をすると、居丈高な少女をキッと見上げる。
「あんたが知る必要はないことよ。それに乞食じゃなく、ちゃんとフリーの傭兵として働いて稼いでいたわ。物乞いなんてしたことないもん」
反論されて、少女は表情を歪める。
「無礼な口をきくのね、さすが卑しい育ちをしてきただけあるわ。それなのにどうして、ベルトルド様とアルカネット様が、こんな乞食猫の後見人をしているのかしら!」
「どうやって知り合ったのかしら」
「下賤と関わるはずはないのに、おかしいわよね」
乞食猫とはひどい言われようである。
こんなハジメマシテな連中に、自らの悲しいヒストリーを語る気は全くしない。しかし、自分のことを知りもしないくせに、いい加減な難癖をつけられるのも腹が立つ。
ガヤガヤと喧しく口々にすき放題言う少女たちを見て、キュッリッキはふとあることに気づいた。
そう、この目の前の少女たちは、ベルトルドやアルカネットに憧れている。たぶん、好きなのだろう。
さきほどアルカネットに向けて発していた黄色い声が、その考えを決定づけていた。それだけの理由で、何も知らないキュッリッキに対し、嫉妬を向けているのだ。
初対面でこんな扱いを受けるのも、それで納得できてしまう。――したくもないが。
メルヴィンと恋を成就してから、最近妙にこういうことには特に敏感になっていた。
「教えてあげないんだから」
ツーンとそっぽを向いて、キュッリッキは心の中で舌を出した。
「な、なによこの子!」
問い詰めていた少女はカッと頬を朱に染めると、繊細な手を振り上げキュッリッキの頬を叩いた。室内にパーンッという音が痛そうに響く。
「ちょっとアンティア、やりすぎよ」
おかっぱ頭の黒髪の少女が、慌ててアンティアの肩を押さえる。
「放してちょうだいエリナ! この生意気な子には、キツイお仕置きが必要なのだから」
キュッリッキは一瞬呆気に取られていたが、ハッとすると、キッとアンティアを睨みつけた。
「よくもやったわね!! フェンリル! フローズヴィトニル!!」
奮然と叫ぶと、足元に隠れていたフェンリルとフローズヴィトニルが姿を現した。
「どうせこいつらも召喚士ナンデショ! 召喚合戦なんかしたことないけど、遠慮しなくていいからブッ叩いちゃってよ!」
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