片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
675 / 882
美人コンテスト編

episode612

しおりを挟む
 ユリハルシラで過ごす最後の夜、振舞われたご馳走は素晴らしかった。

 生魚が苦手な全員が、箸の動きを止めないほど新鮮な刺身、色とりどりの握り寿司、新鮮な魚介類の網焼き、柔らかく煮た野菜や練り物など、普段食べ慣れない味付けが美味である。

「帰ったら試しに作ってみようかしら」

 キリ夫妻はただ食べるだけではなく、味を盗もうと研究しながら食べている。

「これ、あんまり油っこくなくて美味しい~」

 野菜や魚介に衣をつけて揚げたものを、キュッリッキはぱくぱく食べていた。

「全体的にカロリー低そうで、しかも美味しい料理が多いね。オレ蒸し物気に入っちゃった」

 ルーファスはプリンのような蒸し物を、独占して食べている。

 おやじ衆は食事もそこそこに、米で作った酒を飲む方が必死だ。

 よほど気に入ったようで、ベルトルドとアルカネットの2人でどんどん空瓶を量産していた。

 食事が始まりしばらくすると、宴を盛り上げる芸者たちが登場し、朝顔の間はますます盛り上がった。

 美味しく楽しい夕食は終わり、温泉へ行く者、まだ酒を飲む者、皆思い思いにユリハルシラ最後の夜を楽しんだ。



 日付も変わり、皆寝静まったその頃。

 ズンッ、という衝撃が、ケウルーレ全体を揺るがせた。

 寝ていた者は全て目を覚まし、酒を楽しんでいた者は酔いが吹っ飛ぶほど驚いた。上から落とされ地面に激突したような衝撃が、重く激しく身体に伸し掛ったのだ。

「ちょ、なんて殺意なの!?」

 リュリュはゾッとそそけ立つと、アルカネットと顔を見合わせた。

「これは、ベルトルド様ですね…」

 普段動揺など微塵も見せない男(アルカネット)が、冷や汗を額に浮かべている。

「さっき、フラッと席を立って、そのまま戻りませんね」

 シ・アティウスも複雑な色を浮かべた顔で、メガネをクイッと押し上げる。手を震わせながら。

 朝顔の間から桔梗の間へ席を移し、おやじ衆4人は酒を飲み続けていた。そのさなか、ベルトルドが無言で部屋を出て行ってから、暫く戻っていない。そこへ、突然の激しい殺意である。

 3人はそれきり黙る。あまりにも凄まじい殺意を感じたため、身体が萎縮して動けないのだ。

 そうして暫くすると、何でもないような表情で、ベルトルドがひょっこり戻ってきた。

「何だお前たち、豆鉄砲でも食らったような顔をして?」

 吹き出しながらベルトルドは言うと、自分の座布団に座った。

「な、なんだとはナニヨ!」

 ハッとなったリュリュは、ベルトルドに食ってかかる。

「一体今のはナンナノ!? 心底驚いたんだからっ」

「何かあったのか?」

 ベルトルドはキョトンっとリュリュを見る。

「しらばっくれてんじゃないわよっ! あの殺意はナンナノ!?」

「さあ?」

 胸ぐらを掴まれたまま、ベルトルドは自分の盃を掴むと、アルカネットに酌をしろと催促した。

「これ飲んだら寝るぞ」

「ベルっ!」

「そこまでにしてくださいリュリュ、もう寝ますから、出て行ってください」

「なーによ、今夜はユリハルシラ最後の夜なのよ。ベルと朝までしっぽりぐっちょぐちょに濡れまくるんだから、あーたが出て行きなさいよ」

「ダメですよ。帰りはベルトルド様に転移していただくんですから、今夜はしっかりと休んでもらわなくてはならないのです」

「あら、普通に帰らないのン?」

 普段大勢を空間転移させろと言うと、猛烈に嫌がる。

「長時間の汽車に揺られてケツが痛くなり、監獄かと思うような狭い船室に閉じ込められ、吐き出すほどマズイ飯を出され、せっかく心身ともにリフレッシュしたのに帰宅で疲れるとかありえんからな。それよりは転移したほうがラクだ」

「そういうわけですので、出て行ってくださいな。私が一緒にこの部屋で寝ます」

「ずるいわアルカネット! アタシが代わるわよ」

「なら、私と朝までしっぽりネチョネチョいやらしくねっとり濡れまくりますか?」

 瞬間、リュリュの顔から血の気がひいた。

「おやすみ、ベル、アル…」

「はい、おやすみなさいリュリュ、シ・アティウス」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...