674 / 882
美人コンテスト編
episode611
しおりを挟む
「リッキー…」
優しく労わるように声をかけると、キュッリッキはようやく、のろのろとベルトルドを見上げた。
「アタシが生きてて、安心したんだね…彼」
青ざめた顔で、精一杯微笑もうとする。キュッリッキの健気さに、ベルトルドはたまらずキュッリッキを抱きしめた。
忌まわしき幼い頃の記憶を、嫌でも思い出しているのが痛いほど伝わってくる。
飛ぶことのできない身体で、高い所から突き落とされ、身を切るほどの冷たさと死を感じ、どれほど怖い思いをしただろう。
「大丈夫だ、リッキー。俺がついているから」
「……うん。ありがとう、ベルトルドさん」
ベルトルドの腕の中で落ち着きを取り戻したキュッリッキは、にっこりとベルトルドに微笑みかけた。
「ありがとうベルトルドさん、アタシもう大丈夫!」
「そうか」
ベルトルドも安堵したように微笑み返した。
「みんなのお土産選び行こっ」
キュッリッキはベルトルドの手を掴み、売店の方へと引っ張っていく。
(強くなったな、リッキー)
完全ではないが、拠り所を得た今のキュッリッキは、随分強くなった。まだまだ不安はあるが、それでも初めて出会った頃に比べれば、格段に変わっている。
(やはり、この俺でなくては、リッキーを幸せにすることはできん。メルヴィンのような青二才の分際がリッキーの恋人などと、デカイ面させておくのは気に入らん!)
心の中で嫉妬に燃え盛っていると、
「あ、ベルトルドさん!」
「ん? ヘブッ」
角を曲がり損ね、思い切り壁に顔面クラッシュしてしまった。
「大丈夫?」
「う、うむ、このくらいなんともないぞ」
ぶつけた顔を真っ赤にして、ベルトルドはドヤ顔をしてみせる。
「鼻血出てないから平気だね」
勝手に納得すると、キュッリッキは売店に駆け寄った。
「色んなの売ってるよ~。どれがいいのかなあ」
本当は凄く痛む鼻をシクシク撫でながら、ベルトルドはゆっくりと売店の中を覗く。
「ベルトルドさんちの使用人って、何人くらいいるの?」
「何人いたっけかなあ……」
ベルトルドは上目遣いで考え込み、やがて目を閉じた。その数分後、浴衣姿のセヴェリが売店に駆けつけてきた。
「お呼びでございますか、旦那様」
「おう。ウチの使用人は何人いるんだっけ?」
「はあ、先日メイドが一人辞したので、57人でございます」
「57人もいるんだ!」
軽く飛び上がってキュッリッキは驚いた。
「これでも少ない方なのでございますよ、お嬢様」
「うへぇ~…」
「なんだ、一人辞めたのか」
「はい。――アルカネット様の…」
「ああ……」
言い淀むセヴェリに、ベルトルドは苦い表情になって頷いた。
「その件は、あとでリトヴァに正そう」
「はい」
「57人だったら、この饅頭セットを数箱買ったら全員に行き渡るんじゃないかな。12個も入ってるぞ」
「ええーーー、一人ひと箱じゃないと、ケチくさいかもお」
キュッリッキに「ケチ」と言われて、ベルトルドの心にグサリと刃が刺さる。
「そ、そうだな。一人ひと箱だな。うむ。――おい店員、この饅頭は57箱在庫あるのか?」
レジカウンターでおとなしくしていた店員は、やや驚いた顔で頷いた。
「じゃあこの饅頭の箱、57個確保しておいてくれ」
「ベルトルドさん、こっちのクマさんの顔の形したカワイイお菓子もあるよ。あ、こっちはパンダの顔クッキーだあ~。なんか、白クマのおじいちゃんと、ハギさんみたい」
キャッキャ選ぶキュッリッキに、ベルトルドは遠い目を向けた。
「店員、アレも57箱ずつな…」
「……毎度ありがとうございます」
素朴な饅頭12個入り、クマの顔をしたチョコレート12個入り、パンダの顔をしたクッキー24枚入りが、ベルトルド邸の使用人たちへのお土産と決まった。
「一口サイズだから、すぐ食べ終わるだろう…」
別にこの程度出費のうちにも入らないから構わないが、天下の副宰相様が饅頭やチョコレート菓子の箱を、大人買いしているのも胸中複雑である。
思わず引きつるベルトルドだった。
そして、宰相府や総帥本部の身近な関係者、皇王などへの土産物は、米で作った酒にし、ついでに自分やアルカネットの飲む分も買ったため凄い量となった。
「すっごいお土産の量になったね~」
「……本当だな」
山と積まれた土産入りの箱を見上げ、ベルトルドは薄笑いを浮かべる。
「アタシのもありがとう、ベルトルドさん」
「ほかに欲しいのがあれば、なんでも買ってやるぞ」
「ありがとう、でもこれだけでいいの。可愛いし、嬉しい」
キュッリッキが選んだのは、このコケマキ・カウプンキ独特の名産品だとかで、美しい布をパッチワークのようにして組み合わせた小物入れだ。
女の子らしいデザインで、キュッリッキが手にしているとより可愛らしい。
「さて、買い物も無事済んだし、晩飯の時間だな」
優しく労わるように声をかけると、キュッリッキはようやく、のろのろとベルトルドを見上げた。
「アタシが生きてて、安心したんだね…彼」
青ざめた顔で、精一杯微笑もうとする。キュッリッキの健気さに、ベルトルドはたまらずキュッリッキを抱きしめた。
忌まわしき幼い頃の記憶を、嫌でも思い出しているのが痛いほど伝わってくる。
飛ぶことのできない身体で、高い所から突き落とされ、身を切るほどの冷たさと死を感じ、どれほど怖い思いをしただろう。
「大丈夫だ、リッキー。俺がついているから」
「……うん。ありがとう、ベルトルドさん」
ベルトルドの腕の中で落ち着きを取り戻したキュッリッキは、にっこりとベルトルドに微笑みかけた。
「ありがとうベルトルドさん、アタシもう大丈夫!」
「そうか」
ベルトルドも安堵したように微笑み返した。
「みんなのお土産選び行こっ」
キュッリッキはベルトルドの手を掴み、売店の方へと引っ張っていく。
(強くなったな、リッキー)
完全ではないが、拠り所を得た今のキュッリッキは、随分強くなった。まだまだ不安はあるが、それでも初めて出会った頃に比べれば、格段に変わっている。
(やはり、この俺でなくては、リッキーを幸せにすることはできん。メルヴィンのような青二才の分際がリッキーの恋人などと、デカイ面させておくのは気に入らん!)
心の中で嫉妬に燃え盛っていると、
「あ、ベルトルドさん!」
「ん? ヘブッ」
角を曲がり損ね、思い切り壁に顔面クラッシュしてしまった。
「大丈夫?」
「う、うむ、このくらいなんともないぞ」
ぶつけた顔を真っ赤にして、ベルトルドはドヤ顔をしてみせる。
「鼻血出てないから平気だね」
勝手に納得すると、キュッリッキは売店に駆け寄った。
「色んなの売ってるよ~。どれがいいのかなあ」
本当は凄く痛む鼻をシクシク撫でながら、ベルトルドはゆっくりと売店の中を覗く。
「ベルトルドさんちの使用人って、何人くらいいるの?」
「何人いたっけかなあ……」
ベルトルドは上目遣いで考え込み、やがて目を閉じた。その数分後、浴衣姿のセヴェリが売店に駆けつけてきた。
「お呼びでございますか、旦那様」
「おう。ウチの使用人は何人いるんだっけ?」
「はあ、先日メイドが一人辞したので、57人でございます」
「57人もいるんだ!」
軽く飛び上がってキュッリッキは驚いた。
「これでも少ない方なのでございますよ、お嬢様」
「うへぇ~…」
「なんだ、一人辞めたのか」
「はい。――アルカネット様の…」
「ああ……」
言い淀むセヴェリに、ベルトルドは苦い表情になって頷いた。
「その件は、あとでリトヴァに正そう」
「はい」
「57人だったら、この饅頭セットを数箱買ったら全員に行き渡るんじゃないかな。12個も入ってるぞ」
「ええーーー、一人ひと箱じゃないと、ケチくさいかもお」
キュッリッキに「ケチ」と言われて、ベルトルドの心にグサリと刃が刺さる。
「そ、そうだな。一人ひと箱だな。うむ。――おい店員、この饅頭は57箱在庫あるのか?」
レジカウンターでおとなしくしていた店員は、やや驚いた顔で頷いた。
「じゃあこの饅頭の箱、57個確保しておいてくれ」
「ベルトルドさん、こっちのクマさんの顔の形したカワイイお菓子もあるよ。あ、こっちはパンダの顔クッキーだあ~。なんか、白クマのおじいちゃんと、ハギさんみたい」
キャッキャ選ぶキュッリッキに、ベルトルドは遠い目を向けた。
「店員、アレも57箱ずつな…」
「……毎度ありがとうございます」
素朴な饅頭12個入り、クマの顔をしたチョコレート12個入り、パンダの顔をしたクッキー24枚入りが、ベルトルド邸の使用人たちへのお土産と決まった。
「一口サイズだから、すぐ食べ終わるだろう…」
別にこの程度出費のうちにも入らないから構わないが、天下の副宰相様が饅頭やチョコレート菓子の箱を、大人買いしているのも胸中複雑である。
思わず引きつるベルトルドだった。
そして、宰相府や総帥本部の身近な関係者、皇王などへの土産物は、米で作った酒にし、ついでに自分やアルカネットの飲む分も買ったため凄い量となった。
「すっごいお土産の量になったね~」
「……本当だな」
山と積まれた土産入りの箱を見上げ、ベルトルドは薄笑いを浮かべる。
「アタシのもありがとう、ベルトルドさん」
「ほかに欲しいのがあれば、なんでも買ってやるぞ」
「ありがとう、でもこれだけでいいの。可愛いし、嬉しい」
キュッリッキが選んだのは、このコケマキ・カウプンキ独特の名産品だとかで、美しい布をパッチワークのようにして組み合わせた小物入れだ。
女の子らしいデザインで、キュッリッキが手にしているとより可愛らしい。
「さて、買い物も無事済んだし、晩飯の時間だな」
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる