673 / 882
美人コンテスト編
episode610
しおりを挟む
しんみりムードをヴァルトの「ハラヘッター」でぶち壊され、自然とお開きになると、ベルトルドは散歩してくると言って部屋を出た。
ちなみに今も、リュリュは柱に縛り付けてある。
「アイツの口からマトモな言葉を聞いたことがないぞ…ったく」
なんだか酷くガッカリした気分になって、玄関の方を目指していると、廊下の向こうにキュッリッキを見つけた。
「リッキー!」
名を呼びながら、ベルトルドは足取り軽くすっ飛んで行った。
「俺のリッキー!」
飛びかかるように抱きしめ、頭にスリスリと頬を擦り付ける。
「ふゅにゅ~~ベルトルドさん」
「愛してるぞ、リッキ~」
抱きしめてきて、キスを雨のように降らせてくる。何度言っても止めようとしないので、もうキュッリッキは言うのを諦めていた。
ここまで度を越してはいないが、仲のいい父娘はこんなもんと、ルーファスやマリオンが言っていたからだ。
恋人はメルヴィンで、ベルトルド――とアルカネット――は父親のような存在。キュッリッキの中では、そういう位置づけになっている。
「ベルトルドさんホカホカしてる」
「今しがたまで、露天風呂に入っていたからな。リッキーも一緒に露天風呂に入ろう、な?」
「ダメなの」
「リッキぃ…」
速攻拒否られる。
「そいえば、どっか行く途中だったの? ベルトルドさん」
「ああ、散歩か売店にでも行こうかと考えていた」
「売店?」
「うむ。屋敷の使用人やら職場の身近な連中に、何か土産でも買っていこうと思ってな。俺は話のワカル上司だから」
「お土産かあ~」
キリ夫妻も一緒にライオン傭兵団総出で来ているし、ファニーやハドリーも一緒だ。ベルトルドたちもいるから、特別お土産をあげたいヒトがキュッリッキにはいない。
「そうだリッキー、お土産選びを手伝ってもらえるかな? リトヴァや屋敷の連中のは、リッキーが選んでくれたら、皆も喜ぶ」
「うわぁ! うん、アタシ手伝うよ!」
ずっとお世話になった人たちだ。キュッリッキは張り切った。
「ありがとう、リッキー」
ベルトルドはニッコリ微笑んだ。
「売店どっちかな~」
キュッリッキは身体を前に向けた、その瞬間、
「キャッ」
「うわっ」
誰かとぶつかり、尻餅をついてしまった。
「大丈夫かリッキー!?」
慌ててベルトルドはしゃがみ、倒れたキュッリッキを助け起こす。
「うん、大丈夫なの。えと、ぶつかってごめんなさい」
立ち上がりざま顔を上げると、キュッリッキは目を見張って凍りついた。
「すいません、僕の方こそ」
明るい赤に近い茶色の髪は短く刈られ、ややつり目の美しい青年は、この宿の従業員の服を着ていた。
「よそ見をしていて、お客様に気づかず、大変失礼をしてしまいました。本当に大丈夫ですか?」
「怪我はしていないようだな。リッキー、大丈夫かい?」
立ち上がったまま動かないキュッリッキを、ベルトルドと従業員は心配そうに覗き込む。すると、今まで身を隠していたフェンリルとフローズヴィトニルが姿を現し、従業員に向けて歯を剥いて威嚇しだした。
「ぬ、どうした、フェンリル、フローズヴィトニル」
2匹の様子に多少驚き、ベルトルドは眉をしかめて、困惑している従業員の顔を見つめる。
記憶の糸を何度も手繰り寄せ、そして一人の名を見つけた。
「貴様、アルッティという、あの少年か」
「え?」
従業員の青年は、突如名を言い当てられて目を見開いた。
「なんで、僕の名前を知っているんですか?」
不思議そうにするアルッティに、ベルトルドは見た者が腰を抜かすほど目を鋭くして、アルッティを睨みつけた。
「この子に見覚えがあるだろう」
動かぬキュッリッキの小さな肩に、そっと両手を置く。
「貴様が幼き頃、修道院の崖の上から突き落とした、キュッリッキだ」
途端、アルッティの顔が恐怖に歪み始めた。
「思い出したか、この鈍感が。彼女は速攻思い出したのにな」
「あっ…、あれは……」
アルッティは後ろによろめき、へにゃりと腰をつく。そして、ジリジリと後退る。
「僕は…、生きて、生きてたんだオマエ…生きてた…」
脂汗を流し、口はワナワナと震え、アルッティの茶色の瞳は恐怖に縮む。
「うわ、うわああああああ」
アルッティは身体を起こしながら後ろに向けて走り出した。まろびながら、そして叫び声をあげ続け、あっという間に姿を消してしまった。
ちなみに今も、リュリュは柱に縛り付けてある。
「アイツの口からマトモな言葉を聞いたことがないぞ…ったく」
なんだか酷くガッカリした気分になって、玄関の方を目指していると、廊下の向こうにキュッリッキを見つけた。
「リッキー!」
名を呼びながら、ベルトルドは足取り軽くすっ飛んで行った。
「俺のリッキー!」
飛びかかるように抱きしめ、頭にスリスリと頬を擦り付ける。
「ふゅにゅ~~ベルトルドさん」
「愛してるぞ、リッキ~」
抱きしめてきて、キスを雨のように降らせてくる。何度言っても止めようとしないので、もうキュッリッキは言うのを諦めていた。
ここまで度を越してはいないが、仲のいい父娘はこんなもんと、ルーファスやマリオンが言っていたからだ。
恋人はメルヴィンで、ベルトルド――とアルカネット――は父親のような存在。キュッリッキの中では、そういう位置づけになっている。
「ベルトルドさんホカホカしてる」
「今しがたまで、露天風呂に入っていたからな。リッキーも一緒に露天風呂に入ろう、な?」
「ダメなの」
「リッキぃ…」
速攻拒否られる。
「そいえば、どっか行く途中だったの? ベルトルドさん」
「ああ、散歩か売店にでも行こうかと考えていた」
「売店?」
「うむ。屋敷の使用人やら職場の身近な連中に、何か土産でも買っていこうと思ってな。俺は話のワカル上司だから」
「お土産かあ~」
キリ夫妻も一緒にライオン傭兵団総出で来ているし、ファニーやハドリーも一緒だ。ベルトルドたちもいるから、特別お土産をあげたいヒトがキュッリッキにはいない。
「そうだリッキー、お土産選びを手伝ってもらえるかな? リトヴァや屋敷の連中のは、リッキーが選んでくれたら、皆も喜ぶ」
「うわぁ! うん、アタシ手伝うよ!」
ずっとお世話になった人たちだ。キュッリッキは張り切った。
「ありがとう、リッキー」
ベルトルドはニッコリ微笑んだ。
「売店どっちかな~」
キュッリッキは身体を前に向けた、その瞬間、
「キャッ」
「うわっ」
誰かとぶつかり、尻餅をついてしまった。
「大丈夫かリッキー!?」
慌ててベルトルドはしゃがみ、倒れたキュッリッキを助け起こす。
「うん、大丈夫なの。えと、ぶつかってごめんなさい」
立ち上がりざま顔を上げると、キュッリッキは目を見張って凍りついた。
「すいません、僕の方こそ」
明るい赤に近い茶色の髪は短く刈られ、ややつり目の美しい青年は、この宿の従業員の服を着ていた。
「よそ見をしていて、お客様に気づかず、大変失礼をしてしまいました。本当に大丈夫ですか?」
「怪我はしていないようだな。リッキー、大丈夫かい?」
立ち上がったまま動かないキュッリッキを、ベルトルドと従業員は心配そうに覗き込む。すると、今まで身を隠していたフェンリルとフローズヴィトニルが姿を現し、従業員に向けて歯を剥いて威嚇しだした。
「ぬ、どうした、フェンリル、フローズヴィトニル」
2匹の様子に多少驚き、ベルトルドは眉をしかめて、困惑している従業員の顔を見つめる。
記憶の糸を何度も手繰り寄せ、そして一人の名を見つけた。
「貴様、アルッティという、あの少年か」
「え?」
従業員の青年は、突如名を言い当てられて目を見開いた。
「なんで、僕の名前を知っているんですか?」
不思議そうにするアルッティに、ベルトルドは見た者が腰を抜かすほど目を鋭くして、アルッティを睨みつけた。
「この子に見覚えがあるだろう」
動かぬキュッリッキの小さな肩に、そっと両手を置く。
「貴様が幼き頃、修道院の崖の上から突き落とした、キュッリッキだ」
途端、アルッティの顔が恐怖に歪み始めた。
「思い出したか、この鈍感が。彼女は速攻思い出したのにな」
「あっ…、あれは……」
アルッティは後ろによろめき、へにゃりと腰をつく。そして、ジリジリと後退る。
「僕は…、生きて、生きてたんだオマエ…生きてた…」
脂汗を流し、口はワナワナと震え、アルッティの茶色の瞳は恐怖に縮む。
「うわ、うわああああああ」
アルッティは身体を起こしながら後ろに向けて走り出した。まろびながら、そして叫び声をあげ続け、あっという間に姿を消してしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
151
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる