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美人コンテスト編
episode599
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1時間泣くに泣いて、ようやくキュッリッキは泣き止んだ。そのあとはファニーとアリサにしょっ引かれて、温泉に向かった。それを見送り、アルカネットは心底疲れたようにため息をつく。
「あなた方も、もういいですよ」
おとなしく正座していたライオン傭兵団にお許しを与え、アルカネットは鳳凰の間を出た。
「夜風にでもあたってきましょうか…」
サンダルに履き替え外へ出る。外はだいぶ冷たくなっていて、ぶるっと震えた。
見上げると、満天の星空が煌めいている。
「イララクスから見る星空よりも、綺麗ですね」
光り方が全然違う。それは幼い頃、実家から見上げた星空と同じだ。
そんなことを考え、舗装された小さな道を歩きながら、アルカネットはひっそりとため息をつく。
キュッリッキの天然なところは、彼女の魅力の一つと言ってもいいほど愛らしい。しかし、男性の性器をミミズと言って、素手で引っ張るのは些か問題が大有りである。
ベルトルドもメルヴィンも、触ってもらえて良かったですね、というイヤミを吐く気にはなれないレベルだ。自分が同じ目に遭った時、平常心でいられるかは自信がない。
今頃はファニーたちに、色々と正しい知識を教えてもらっているだろう。少なくとも、マリオンやルーファスに任せるよりは安心できる。
様々な知識が欠けているキュッリッキは、ようやく心許せる仲間たちができて、知らなかったことを必死で吸収している真っ最中だ。
知識が身に付けば、仰天するほどの天然っぷりも収まるだろう。
そんなことを真顔で考え込んでいたら、思い切り人とぶつかり顔をしかめる。
「すみません、考え事をしていて…」
「おや、アルカネットか」
「シ・アティウスでしたか」
アルカネットは肩で一息つくと、顔を前に向けて目を見張った。
「……これは、ネモフィラですか」
「ああ、そうだ」
一面に咲き誇るネモフィラの花畑。月明かりを受け、闇夜に燦々と青く煌めいている。
「このような場所があったのですね」
「ベルトルド様と同じように、あなたも青色が好きなのだろう?」
「ええ、青は大好きな色です。この花も、青色だから好きですよ」
2人は横に並び、暫し花畑に魅入る。
宿の喧騒は、ここまでは届いていない。時折そよぐ風が、花びらや周囲の樹木の葉音を立てるくらいだ。
アルカネットとシ・アティウスは、あまり会話はしないほうだ。仲が悪いわけではなく、とくにお互い関心を持たない。
一緒に仕事に出ていても、雑談はほぼないし、それで空気が重くなることもない。ベルトルドやリュリュがいると会話も多くなるが、共にそのことを気にしたことはないのだ。
今も普段通り会話のない時間が過ぎていくが、シ・アティウスから会話をもちかけてきた。
「この花畑を見て、なにか感じるものなどあるか?」
あまりに唐突な質問に、アルカネットは軽く首をかしげ、シ・アティウスの横顔を見つめる。
「いえ、とくになにも?」
「そうなのか」
「なにか、曰く有りげなところなのですか?」
「うん。アイオン族の始祖アウリスが降り立った場所が、ここなんだそうだ」
「ほほう…」
「俺はただの記憶スキル〈才能〉だが、あなたは魔法使いだろう。なにか視えるんじゃないかと思ったのだが」
「ベルトルド様のサイ《超能力》とは違いますから、透視は出来ませんよ」
「そうか」
頓着せず頷くシ・アティウスに、アルカネットは苦笑する。
「ハーメンリンナと違って、ここは冷えますね。どうです、いいお酒もありますし、温泉にでも行きましょうか」
「そうだな」
アルカネットに続いて踵を返したとき、シ・アティウスはふと「ん?」という表情になった。
「そういえば、ベルトルド様はどうした?」
「ああ」
と言って、アルカネットは爽やかな笑顔をシ・アティウスに向ける。
「今頃リュリュと、しっぽり、ぐっちょり、ねっとりしているでしょうね」
「……そうか」
「あなた方も、もういいですよ」
おとなしく正座していたライオン傭兵団にお許しを与え、アルカネットは鳳凰の間を出た。
「夜風にでもあたってきましょうか…」
サンダルに履き替え外へ出る。外はだいぶ冷たくなっていて、ぶるっと震えた。
見上げると、満天の星空が煌めいている。
「イララクスから見る星空よりも、綺麗ですね」
光り方が全然違う。それは幼い頃、実家から見上げた星空と同じだ。
そんなことを考え、舗装された小さな道を歩きながら、アルカネットはひっそりとため息をつく。
キュッリッキの天然なところは、彼女の魅力の一つと言ってもいいほど愛らしい。しかし、男性の性器をミミズと言って、素手で引っ張るのは些か問題が大有りである。
ベルトルドもメルヴィンも、触ってもらえて良かったですね、というイヤミを吐く気にはなれないレベルだ。自分が同じ目に遭った時、平常心でいられるかは自信がない。
今頃はファニーたちに、色々と正しい知識を教えてもらっているだろう。少なくとも、マリオンやルーファスに任せるよりは安心できる。
様々な知識が欠けているキュッリッキは、ようやく心許せる仲間たちができて、知らなかったことを必死で吸収している真っ最中だ。
知識が身に付けば、仰天するほどの天然っぷりも収まるだろう。
そんなことを真顔で考え込んでいたら、思い切り人とぶつかり顔をしかめる。
「すみません、考え事をしていて…」
「おや、アルカネットか」
「シ・アティウスでしたか」
アルカネットは肩で一息つくと、顔を前に向けて目を見張った。
「……これは、ネモフィラですか」
「ああ、そうだ」
一面に咲き誇るネモフィラの花畑。月明かりを受け、闇夜に燦々と青く煌めいている。
「このような場所があったのですね」
「ベルトルド様と同じように、あなたも青色が好きなのだろう?」
「ええ、青は大好きな色です。この花も、青色だから好きですよ」
2人は横に並び、暫し花畑に魅入る。
宿の喧騒は、ここまでは届いていない。時折そよぐ風が、花びらや周囲の樹木の葉音を立てるくらいだ。
アルカネットとシ・アティウスは、あまり会話はしないほうだ。仲が悪いわけではなく、とくにお互い関心を持たない。
一緒に仕事に出ていても、雑談はほぼないし、それで空気が重くなることもない。ベルトルドやリュリュがいると会話も多くなるが、共にそのことを気にしたことはないのだ。
今も普段通り会話のない時間が過ぎていくが、シ・アティウスから会話をもちかけてきた。
「この花畑を見て、なにか感じるものなどあるか?」
あまりに唐突な質問に、アルカネットは軽く首をかしげ、シ・アティウスの横顔を見つめる。
「いえ、とくになにも?」
「そうなのか」
「なにか、曰く有りげなところなのですか?」
「うん。アイオン族の始祖アウリスが降り立った場所が、ここなんだそうだ」
「ほほう…」
「俺はただの記憶スキル〈才能〉だが、あなたは魔法使いだろう。なにか視えるんじゃないかと思ったのだが」
「ベルトルド様のサイ《超能力》とは違いますから、透視は出来ませんよ」
「そうか」
頓着せず頷くシ・アティウスに、アルカネットは苦笑する。
「ハーメンリンナと違って、ここは冷えますね。どうです、いいお酒もありますし、温泉にでも行きましょうか」
「そうだな」
アルカネットに続いて踵を返したとき、シ・アティウスはふと「ん?」という表情になった。
「そういえば、ベルトルド様はどうした?」
「ああ」
と言って、アルカネットは爽やかな笑顔をシ・アティウスに向ける。
「今頃リュリュと、しっぽり、ぐっちょり、ねっとりしているでしょうね」
「……そうか」
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