片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
660 / 882
美人コンテスト編

episode597

しおりを挟む
「やはり、リッキーさんはメルヴィンと一緒だったのですね」

 浴衣の裾を翻し、裸足でドタドタ木の廊下を走りながら、アルカネットの全身は怒りで燃えていた。

「無垢で幼気なリッキーさんのところへ無理矢理押しかけるなど、言語道断、万死に値します!」

 自分本位の想像で激怒しているが、概ね大正解である。

「恋人同士で普段イチャついているとしても、風呂場に押し入られれば怖がるのは当然です。今頃どれだけ恐怖に震え怯えているか、考えただけでも胸が張り裂けてしまう」

 非力なキュッリッキが、メルヴィンの力に抗うのは無理だ。床に押し倒され、全身を押さえつけられ、メルヴィンにいいように裸体を弄ばれているに違いない。

 メルヴィンが悲鳴をあげていた事実は、アルカネットの思考から完全除去されている。自らの思い描く哀れなキュッリッキを想像し、メルヴィンへの殺意を増幅させていた。

「リッキーさんの処女を守らねば!」

 いくらあの2人が恋人同士であっても、そんなことはアルカネットには関係ない。

 キュッリッキは自分だけのものであり、誰よりも深く愛している。メルヴィンに汚されるなど、考えただけで発狂しそうだ。

 キュッリッキがどの部屋を使っているかは知らないが、彼女の気配のする方へと進み、鳳凰の間に到着した。

 ノックもせずに荒々しくドアを開き、部屋へ踏み込んだ瞬間、アルカネットは我が目を疑った。

「あ! アルカネットさんいいところにきたの! あのねあのね、メルヴィンの股間にミミズが生えてるんだよ! 引っこ抜くの手伝って!!」

 ほっそりとした白い裸体で浴槽に立ち、湯の中に両手を沈めて何やら引っ張っている。

「リ……リッキー……さん!?」

 なにか、よく似た光景を以前見たような気がする。そう、アルカネットの心は呟く。

「リッキーそれはミミズじゃありませんから、引っ張らないでください!!」

 どうしていいか判らず、キュッリッキの行動を阻止するべく喚きたてるメルヴィン。そして、ミミズと信じて疑っていない必死のキュッリッキ。

 2人の様子を遠巻きに見て、アルカネットは目の前が暗くなりそうになり、慌てて頭を振った。

(お、落ち着くのです、落ち着くのですよ自分!)

 そう、以前ベルトルドの暴れん棒をミミズと勘違いして、必死に引っこ抜こうとしていた光景が脳裏に蘇る。

 その後、ヴィヒトリに押し付けて、男女の身体の仕組みなどについて講義をさせたはずだ。それなのに何故、また同じようなことをしているのだろうか。

 というより、2人が裸で一緒に露天風呂に浸かっていることこそ大問題だ。

「おいメルヴィン生きてるか!?」

「大丈夫か助けに来たぞ!」

 追いついてきたライオン傭兵団が部屋に乱入し、室内は一気に騒然となる。

「きゃあああみんなのエッチー!」

「エッチどころじゃねえよ! メルヴィンどうしたんだよっ」

「ザカリーのバカ! 見ないであっち向いててよ!!」

「なんでオレだけっ」

「メルヴィン白目むいてんぞ! ランドン早く」

「あんたもー何してんのよ!」

「キューリさんにタオルタオル」

 アルカネットはすっかり置いてけぼり状態になり、大騒ぎになる一同を呆然と見やる。

(えー……)

 とにかく、とアルカネットは深呼吸を一つして、

「そこをどきなさい!!」

 憤然とライオン傭兵団を押しのけベランダに出ると、

「さあリッキーさん、手を洗いましょう!!」

「ほえ」

 ファニーにタオルを巻かれていたキュッリッキは、アルカネットに羽交い締めにされ浴槽から取り出されてしまった。

「あーん、まだミミズ引っこ抜けてないのお~~」

「それはミミズじゃありません!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...