片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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美人コンテスト編

episode591

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「骨一本で封じられる神の力というのも、なんだかという気がしなくもない…」

「ほほほ。でもアウリスは半神でございましたし、万能ではなかったのかもしれません」

「半神、だったんですか」

 それは知らなかった、とシ・アティウスは意外そうに唸る。

「自らの骨を取り戻すため、アウリスは盗賊団と接触しましたが、盗賊団の頭はアウリスの骨がイルマタル帝国に高く売れると判り、返そうとはしなかったのです」

「当然の展開、といった不幸だな」

「本当に。でも、盗賊団の頭は女でした。イルマタル帝国に高値で売りつける算段の他に、彼女はアウリスに想いを寄せるようになっていました。しかし、マーレト姫もまた、アウリスを恋い慕っていたのです」

「見事な三角関係に……」

 リュリュが好きそうな展開になったと、シ・アティウスは吹き出しそうになって堪える。

「盗賊団の頭の想いに気づきながらも、アウリスはクーデターを鎮め、マーレト姫を正当な皇位継承者として玉座を継がせたい思いでいっぱいだった。そして、細くなっていく己の血を再び濃くするため、アウリスはマーレト姫の想いの方を受け入れました」

「ふむ…」

「盗賊団の頭は失恋し、そのショックからイルマタル帝国と手を組もうとしますが、裏切られ、半殺しの目に遭いました」

「散々な…」

「ええ。そしてアウリスはクーデターを鎮め、無事皇位継承の儀を執り行い、マーレト姫を女帝として玉座につけることに成功しました。そしてマーレト姫との間に、一児をもうけることも出来た」

 どこか寂しげにシグネは俯いた。

「瀕死の重傷を負いながらも、どうにか生き残った盗賊団の頭は、惑星ペッコを去り、ここ惑星ヒイシに落ち延びたのです」

「それは」

「盗賊団の頭の名はユリハルシラ。そう、コケマキ・カウプンキを開いたその人なのです」

「なんとまあ」

「そして何故アウリスは彼女を追って、この地へ来たのかは知りません。しかし2人は再会し、このネモフィラの花畑で愛を誓い合い、最期の時を迎えるまで夫婦として暮らしました」

 シグネが話してくれた物語を、シ・アティウスは心の中で何度も噛み締めた。

 そしてあることに気づく。

「かなり詳細に物語を知っているんですね。あなたは一体」

 レンズの奥は色に隠れて見えないシ・アティウスに顔を向けられ、シグネは暫し逡巡するように目を泳がせた。

「私は語り部です。アウリスとユリハルシラの間に生まれた子の子孫でもあります」

「なるほど、そうでしたか…」

「2人の血を継いだ子供たちは世界中に散らばりました。しかし私の両親もそのまた祖父母も、ずっとこのコケマキ・カウプンキで暮らしてきました。そしてケウルーレで宿を守っています」

 語り部はスキル〈才能〉とは全く異なる能力で、そう多く存在していないという。また存在数も明らかになっておらず、詳しいことも知られてはいない。

「語り部には幻視の力が備わっていると聞いたことがある。あなたは幻視で視てきたんですか?」

「幻視の力があるのはそうですが、私のこれはアウリスとユリハルシラの記憶を受け継いでいるのです」

「なんと…」

「2人がもうけた子は3人で、うち2人はこの島を出ました。残った子の血筋が私のルーツです。そして2人の記憶は私の血筋に受け継がれています。全てではありませんが」

 シグネの横顔を見つめ、シ・アティウスは小さく頷いた。

「ヴィプネン族やトゥーリ族から見れば、ただの御伽噺程度で済むだろう。だが、アイオン族に――とくに本星のアイオン族が聞けば、ただではすまされない話だな」

「全くですよ。フルメヴァーラ皇家の祖先が惑星ヒイシに降り立ち、盗賊団の頭との間に子をもうけたなどと。大問題でございますね」

 クスクスと愉快そうにシグネは笑う。

「そんなに喋ってしまって良かったのか? 俺はハワドウレ皇国のアルケラ研究機関ケレヴィルに所属している学者だ。記憶スキル〈才能〉を持っているから、一生忘れない」

「ふふっ、いいのでございますよ。私は語り部、必要とあればいくらでも話します。ただ、これまでいらしたお客様の中には、興味を示されたお方は一人もおりませんでした。あなただけでございますよ」

「まあ、アイオン族にとってはアウリスとマーレト姫のことは周知の事実だし、アウリスとユリハルシラのことは知らないのだろうからな。――俺は、あるルーツを調べている。その関係でこの話も聞きかじっていた」

「あるルーツ……。もしやそれは」

 思い当たったような顔をするシグネに、シ・アティウスは頷いた。

「お察しのとおりだ」

「では、それは予想と外れていないと申し上げられますわ」

「そうか、間違いなさそうか」

 シ・アティウスはニヤリと口の端を歪める。

「ここへこられて、本当に良かった」

 満足そうに言うシ・アティウスに、シグネはにっこりと微笑んだ。
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