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美人コンテスト編
episode590
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湯殿の大騒ぎを尻目に、シ・アティウスはさっさとあがると、浴衣に着替えて宿を出た。
宿は大きな池の中に建っているが、島の中を散策できるように周囲には小道が整備されている。島の中はかなり広いので、迷わないようにしてあるのだろう。
シ・アティウスは道なりに進み、やがて開けた丘に出た。
「ほほう…」
目の前には一面に、青い花が咲き乱れている。
この花がネモフィラという名の花であることは知っているが、季節外れだと記憶の中から情報を引っ張り出す。記憶スキル〈才能〉を持つシ・アティウスは、膨大な知識を蓄えていた。
「ここは、島の中心地になるのかな」
「そうでございますよ」
独り言を受ける声に、シ・アティウスは背後をゆっくりと振り返った。
「女将」
シグネはたおやかな笑みを浮かべ、小さく会釈した。
「この場所は、かつて神が降り立った場所だと、我々は伝え聞いているのでございますよ」
ゆっくりと歩を進め、シグネはシ・アティウスの横に並んだ。
「……俺は、その伝説に興味があり、ずっとここに来たかった。キュッリッキ嬢のおかげで夢が叶った」
「あの金髪の、美しいお嬢様ですね。アイオン族とお見受けしましたが、とても人懐っこいご様子で、好感をいだきましたわ」
「彼女は複雑な生い立ちでね。だが、素直ないい子だ」
あれだけ凄惨な過去を生きてきて、よく素直に育ったとシ・アティウスは感心している。
癖は強すぎるが、ベルトルドやライオン傭兵団との出会いもまた、彼女の素直さに良い影響があったのだろう。
暫し2人は小さな青い花の絨毯に見入った。
「ユリハルシラというアイオン族の女性が、このケウルーレに降り立ちました。もとは惑星ペッコの出身です。そしてこのコケマキ・カウプンキを作ったのも彼女で、自由都市としての体裁が整うと、ほかの人間に運営を任せ、ここに温泉宿を開きました」
「ほほう、コケマキ・カウプンキを作ったのは彼女だったんですか」
シグネはそっと頷く。
「そして後に、神が降り立ったのです」
「アイオン族の始祖アウリス、ですね」
「はい」
風に揺らされ、サワサワと花びらの擦れ合う音が静かに漂う。
「アウリスについては、どこまでご存知ですの?」
「鬼籍に入った後、なんらかの事情で一度蘇り、その後この地へ降り立ち2番目となる妻を迎えたと。大雑把だがこのくらいは」
「かなり端折っていますが、概ねその通りです」
懐かしそうな表情になって、シグネは天を仰ぐ。
「イルマタル帝国の皇位継承権を持つ第一皇女マーレトは、皇位継承の儀でアウリスと出会いました。――皇位継承の儀とは、アイオン族の始祖であり、イルマタル帝国を作った初代皇帝でもあるアウリスが定めた、絶対的な掟でした」
神であるアウリスが、何故鬼籍に入ったかは知られていない。
彼は鬼籍に入る間際、自らの直系の子孫であるフルメヴァーラ皇家に、ある絶対的な掟を定めた。
それは、皇位を継ぐ者は必ず自分の裁定を受け、自分の子孫であることが証明されなければならない、というものだった。そのため皇位継承の儀が執り行われるたび、アウリスは死の眠りから呼び覚まされるようになる。
「神聖な儀式ではありましたが、それを快く思わない子孫たちもまた、いたのです」
アウリスの柩は宮殿に安置されていたが、玉座を狙うフルメヴァーラ皇家の分家筋の者が、アウリスの柩を暴き、おさめられていた遺体から骨を一本抜き取った。
「骨ですか」
「ええ、肋骨だったと言われています」
眠りから覚めることに問題はなかったが、肋骨を抜き取られた為、本来の力を発揮することができず、それを好機とみなした分家筋がクーデターを起こした。
「アウリスはマーレト姫と逃亡を余儀なくされ、自らの骨を取り戻すために旅をしました。骨は辺境の寺院に隠されていて、ようやく行方を見つけたときには、寺院は盗賊団に襲われ、骨も持ち去られていたのです」
宿は大きな池の中に建っているが、島の中を散策できるように周囲には小道が整備されている。島の中はかなり広いので、迷わないようにしてあるのだろう。
シ・アティウスは道なりに進み、やがて開けた丘に出た。
「ほほう…」
目の前には一面に、青い花が咲き乱れている。
この花がネモフィラという名の花であることは知っているが、季節外れだと記憶の中から情報を引っ張り出す。記憶スキル〈才能〉を持つシ・アティウスは、膨大な知識を蓄えていた。
「ここは、島の中心地になるのかな」
「そうでございますよ」
独り言を受ける声に、シ・アティウスは背後をゆっくりと振り返った。
「女将」
シグネはたおやかな笑みを浮かべ、小さく会釈した。
「この場所は、かつて神が降り立った場所だと、我々は伝え聞いているのでございますよ」
ゆっくりと歩を進め、シグネはシ・アティウスの横に並んだ。
「……俺は、その伝説に興味があり、ずっとここに来たかった。キュッリッキ嬢のおかげで夢が叶った」
「あの金髪の、美しいお嬢様ですね。アイオン族とお見受けしましたが、とても人懐っこいご様子で、好感をいだきましたわ」
「彼女は複雑な生い立ちでね。だが、素直ないい子だ」
あれだけ凄惨な過去を生きてきて、よく素直に育ったとシ・アティウスは感心している。
癖は強すぎるが、ベルトルドやライオン傭兵団との出会いもまた、彼女の素直さに良い影響があったのだろう。
暫し2人は小さな青い花の絨毯に見入った。
「ユリハルシラというアイオン族の女性が、このケウルーレに降り立ちました。もとは惑星ペッコの出身です。そしてこのコケマキ・カウプンキを作ったのも彼女で、自由都市としての体裁が整うと、ほかの人間に運営を任せ、ここに温泉宿を開きました」
「ほほう、コケマキ・カウプンキを作ったのは彼女だったんですか」
シグネはそっと頷く。
「そして後に、神が降り立ったのです」
「アイオン族の始祖アウリス、ですね」
「はい」
風に揺らされ、サワサワと花びらの擦れ合う音が静かに漂う。
「アウリスについては、どこまでご存知ですの?」
「鬼籍に入った後、なんらかの事情で一度蘇り、その後この地へ降り立ち2番目となる妻を迎えたと。大雑把だがこのくらいは」
「かなり端折っていますが、概ねその通りです」
懐かしそうな表情になって、シグネは天を仰ぐ。
「イルマタル帝国の皇位継承権を持つ第一皇女マーレトは、皇位継承の儀でアウリスと出会いました。――皇位継承の儀とは、アイオン族の始祖であり、イルマタル帝国を作った初代皇帝でもあるアウリスが定めた、絶対的な掟でした」
神であるアウリスが、何故鬼籍に入ったかは知られていない。
彼は鬼籍に入る間際、自らの直系の子孫であるフルメヴァーラ皇家に、ある絶対的な掟を定めた。
それは、皇位を継ぐ者は必ず自分の裁定を受け、自分の子孫であることが証明されなければならない、というものだった。そのため皇位継承の儀が執り行われるたび、アウリスは死の眠りから呼び覚まされるようになる。
「神聖な儀式ではありましたが、それを快く思わない子孫たちもまた、いたのです」
アウリスの柩は宮殿に安置されていたが、玉座を狙うフルメヴァーラ皇家の分家筋の者が、アウリスの柩を暴き、おさめられていた遺体から骨を一本抜き取った。
「骨ですか」
「ええ、肋骨だったと言われています」
眠りから覚めることに問題はなかったが、肋骨を抜き取られた為、本来の力を発揮することができず、それを好機とみなした分家筋がクーデターを起こした。
「アウリスはマーレト姫と逃亡を余儀なくされ、自らの骨を取り戻すために旅をしました。骨は辺境の寺院に隠されていて、ようやく行方を見つけたときには、寺院は盗賊団に襲われ、骨も持ち去られていたのです」
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