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美人コンテスト編
episode585
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「ようこそケウルーレへ」
橋を守る役人の一人が、一歩前に出てにこやかに言った。身なりからして、ここの責任者だろう。
「皆様のお荷物は、一時こちらで預からせていただきます。宿までお運びいたしますので、貴重品だけは抜いておいてください」
役人の示す先に、綺麗な布が貼られた手押し車がある。金銀様々な絹糸の刺繍が美しい布で、花や草木の柄を模していた。
皆は言われたとおり貴重品を抜いて、荷物を手押し車に乗せていく。乗せ終わると運び手の役人が、同じように美しい布を荷物に被せた。
「では、宿までご案内致します」
役人は小さく会釈すると、先頭に立って橋を渡り始めた。そのあとを皆ついていく。
橋は大人3人が並んで歩ける程度の幅で、黒い瓦屋根のついている木橋である。
歪み無く渡された木橋の手摺は朱で塗られ、吹きされされているにもかかわらず、橋は見事に清められていた。
「落ちないように、手摺の外に身を乗り出さないでくださいね」
今にも身を乗り出そうとしていたキュッリッキに向けて、役人から注意が飛ぶ。
「あっ、はいなのっ」
横を歩くメルヴィンに、赤面しながらしがみつく。そんな様子に、くすくすと笑いが起こった。
島に近づくにつれ、それが結構大きな島だと判ってくると、感嘆のつぶやきがチラホラ上がり始める。
「ステーションの方から見ると、やけに小さな島に見えたが、結構大きいな」
「ハーメンリンナの一区画くらいの広さはありそうねえ」
「それだと、随分と広いじゃないですか」
意外にも大きい島の様子に、おっさんトリオは息を呑む。
進むにつれ段々と会話も減り、あまりの長さにうんざりムードが漂い始める。橋を渡り始めて、すでに30分が経過しているのだ。
「ちょっと疲れちゃったかも……」
キュッリッキがひっそりと愚痴をこぼすと、
「さあリッキー、俺が抱っこしてやろう」
「いいえ、私が抱っこして差し上げますから」
ベルトルドとアルカネットが鼻息荒く両腕を差し伸べてくる。しかし、
「フェンリル、ちょっと乗っけてなの」
2人の腕をチラっと見て、キュッリッキは足元を歩くフェンリルにお願いした。
フェンリルはすぐさまキュッリッキが乗れるくらいの大きさになり、キュッリッキはフェンリルの背に跨る。ぐったりとするキュッリッキに、メルヴィンが労わるように頭を撫でた。
「怪我が治って間もないし、今のキューリは疲れやすくなっているから」
ベソかくおっさん2人に、ランドンがボソリとツッコんだ。
「そうですね。お嬢様にあまり無理をさせないようにと、ヴィヒトリ先生からもご注意をいただいています」
更にセヴェリがツッコミ混ざり、アリサが大きく頷いた。
数ヶ月前にナルバ山で瀕死の重傷を負い、今ではすっかり元気になっているが、まだ身体は本調子ではないと判り、ベルトルドとアルカネットはしょんぼり俯く。
「怪我の後遺症や虚弱によく効く温泉もありますので、ご滞在の間、ゆっくり身体を癒してください」
先頭を歩く役人が、優しい口調で場を和ませるように言ってくれた。
「あの島には、神が降り立ったとされる場所があります。そのため乗り物のような無粋なもので入らないように、こうして徒歩で移動することになっているのです」
「そんな神聖な場所に、温泉宿を開いたのですか…」
シ・アティウスが興味深そうに言うと、
「その神の妻が創業者なのだそうです。ユリハルシラの」
マジっすか!? と声なきどよめきが橋の上に広がる。宿の名前ユリハルシラとは、その神の妻の名だという。
「なんだか、人間臭い夫婦?なんだな、その神様って」
胡乱げに言うザカリーに、役人は面白そうに笑って頷いた。
「事の真偽は、我々地元民も知らないことなんですよ」
橋を守る役人の一人が、一歩前に出てにこやかに言った。身なりからして、ここの責任者だろう。
「皆様のお荷物は、一時こちらで預からせていただきます。宿までお運びいたしますので、貴重品だけは抜いておいてください」
役人の示す先に、綺麗な布が貼られた手押し車がある。金銀様々な絹糸の刺繍が美しい布で、花や草木の柄を模していた。
皆は言われたとおり貴重品を抜いて、荷物を手押し車に乗せていく。乗せ終わると運び手の役人が、同じように美しい布を荷物に被せた。
「では、宿までご案内致します」
役人は小さく会釈すると、先頭に立って橋を渡り始めた。そのあとを皆ついていく。
橋は大人3人が並んで歩ける程度の幅で、黒い瓦屋根のついている木橋である。
歪み無く渡された木橋の手摺は朱で塗られ、吹きされされているにもかかわらず、橋は見事に清められていた。
「落ちないように、手摺の外に身を乗り出さないでくださいね」
今にも身を乗り出そうとしていたキュッリッキに向けて、役人から注意が飛ぶ。
「あっ、はいなのっ」
横を歩くメルヴィンに、赤面しながらしがみつく。そんな様子に、くすくすと笑いが起こった。
島に近づくにつれ、それが結構大きな島だと判ってくると、感嘆のつぶやきがチラホラ上がり始める。
「ステーションの方から見ると、やけに小さな島に見えたが、結構大きいな」
「ハーメンリンナの一区画くらいの広さはありそうねえ」
「それだと、随分と広いじゃないですか」
意外にも大きい島の様子に、おっさんトリオは息を呑む。
進むにつれ段々と会話も減り、あまりの長さにうんざりムードが漂い始める。橋を渡り始めて、すでに30分が経過しているのだ。
「ちょっと疲れちゃったかも……」
キュッリッキがひっそりと愚痴をこぼすと、
「さあリッキー、俺が抱っこしてやろう」
「いいえ、私が抱っこして差し上げますから」
ベルトルドとアルカネットが鼻息荒く両腕を差し伸べてくる。しかし、
「フェンリル、ちょっと乗っけてなの」
2人の腕をチラっと見て、キュッリッキは足元を歩くフェンリルにお願いした。
フェンリルはすぐさまキュッリッキが乗れるくらいの大きさになり、キュッリッキはフェンリルの背に跨る。ぐったりとするキュッリッキに、メルヴィンが労わるように頭を撫でた。
「怪我が治って間もないし、今のキューリは疲れやすくなっているから」
ベソかくおっさん2人に、ランドンがボソリとツッコんだ。
「そうですね。お嬢様にあまり無理をさせないようにと、ヴィヒトリ先生からもご注意をいただいています」
更にセヴェリがツッコミ混ざり、アリサが大きく頷いた。
数ヶ月前にナルバ山で瀕死の重傷を負い、今ではすっかり元気になっているが、まだ身体は本調子ではないと判り、ベルトルドとアルカネットはしょんぼり俯く。
「怪我の後遺症や虚弱によく効く温泉もありますので、ご滞在の間、ゆっくり身体を癒してください」
先頭を歩く役人が、優しい口調で場を和ませるように言ってくれた。
「あの島には、神が降り立ったとされる場所があります。そのため乗り物のような無粋なもので入らないように、こうして徒歩で移動することになっているのです」
「そんな神聖な場所に、温泉宿を開いたのですか…」
シ・アティウスが興味深そうに言うと、
「その神の妻が創業者なのだそうです。ユリハルシラの」
マジっすか!? と声なきどよめきが橋の上に広がる。宿の名前ユリハルシラとは、その神の妻の名だという。
「なんだか、人間臭い夫婦?なんだな、その神様って」
胡乱げに言うザカリーに、役人は面白そうに笑って頷いた。
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