片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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美人コンテスト編

episode576

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「うおっ」

 目の前の光景に、ハドリーはギョッと目を剥いて一歩退く。

 濃紺色の軍服姿の人垣がずらりと円陣を組んで並び、その中心には使用人と思しき人々が肉を焼いたりしているのだ。

 リゾートなビーチに、まるで不釣合いな軍人と使用人たち。

「あ、そっか…」

 チラッと視線を前に向け、後ろ姿も偉そうなベルトルドを見る。

 ハワドウレ皇国でも、皇王以上に最重要人物とされる副宰相がいるのだ。見えないところにも、きっと警備目的で軍人たちが配置されているのだろう。それに、召喚士であるキュッリッキもいるのだ。

 ふむふむと自己完結して、ハドリーは小さく頷いた。

「お疲れ様です、閣下! そして、優勝おめでとうございます、お嬢様」

 陣から一歩外れて、四角い顔をした軍人が、ビシッと背筋を伸ばして敬礼を向けてきた。

「ご苦労アルヴァー大佐、暫く警備しっかり頼む」

「ありがとう、アルヴァーさん」

「ハッ! お任せ下さい。皆様はごゆるりとお過ごしくださいませ」

「アルヴァーさん、久しぶり~」

 ライオン傭兵団は口々にアルヴァーに挨拶をして、円の中へと入っていく。ヴァルトはすでに肉にかぶりついていた。

「乾杯前に食うな馬鹿者!」

 ベルトルドの拳骨が、ヴァルトの脳天に炸裂する。

「ふごっ」

「グラスを持って来い」

 控えている使用人たちにベルトルドが促すと、品の良いグラスをトレイに載せたメイドたちが、グラスを皆に配り始めた。

「おお、シャンパン……」

 ファニーは眉を寄せて小さく呟く。そしてライオン傭兵団の顔をチラチラ見ると、皆違和感なくグラスを手にしていた。

 ビーチで乾杯なら、ビールじゃないのだろうかと思ってしまう。

「住む世界が違うからな…」

 髭面をファニーの耳元に寄せて、ハドリーがうんざりと囁く。

「ホントよね。コレもきっと、飲んだこともない最高級品にチガイナイわ」

「では、世界一美しい俺のリッキーの優勝と、リッキーの友達の2位入賞を祝して」

「誰があなたのですって? 私のリッキーさんでしょう」

「音頭をいちいち混ぜ返すな馬鹿者」

「こういうことは、ハッキリとさせなければいけませんからね」

 ベルトルドとアルカネットが、キュッリッキの所有権を争い始め、乾杯が中断される。

「もお、また始まっちゃった。――2人はほっといて、乾杯しちゃお! アタシとファニーの入賞のお祝い、かんぱーい!」

「乾杯!」

「おめでとう!」

 キュッリッキが仕切り直し、乾杯してしまった。いつものことなので、まともに相手をしてもしょうがないと判っている。

 夕刻目前のビーチに、グラスの涼やかな音色が響いた。

「さあ皆様、こちらにお酒をご用意していますよ」

 真っ白なテーブルクロスのかかった台には、幾種もの酒類の瓶やグラスが並び、台の下には樽も置いてある。

 ベルトルド邸の執事代理をしているセヴェリが、にこやかに台を示す。

「何飲もっかな~」

「オレ白ワイン飲みたい」

「こちらはお肉やお野菜を串で焼いてますよ」

 メイドのアリサが焼けたての肉を盛った皿を掲げている。

 皆、思い思い散って飲食を始めた。

 その様子を寂しそうに見つめ、ベルトルドとアルカネットは顔を見合わせると、肩を落としてため息をついた。
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