片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
632 / 882
美人コンテスト編

episode569

しおりを挟む
(メルヴィンにやっと見てもらえる。頑張っちゃうんだから)

 やや緊張気味に面を上げて、キュッリッキはステージをまっすぐ歩いていく。

 ステージの半分上はテントで日除けがされていて薄暗い。前に進むにつれ視界がどんどん開けていくと、太陽の光に照らされた海が眩しく輝き、キュッリッキは一瞬目を細める。

 海と波打ち際に近い観客たちが、徐々に視界に飛び込んできた。

(メルヴィンはドコかなあ?)

 目だけをキョロキョロするが、人が多すぎて見つからない。

(もうちょっと前に行ったら見つかるかな。…でも、なんだか凄く静かな気がするかも~?)

 ほかの出場者達のように大声援で迎えられると思いきや、観客たちの意外な反応に、キュッリッキは目をぱちくりさせていた。



 バンドの演奏がピタリと止まり、波が引くように会場の騒音も静まっていく。

 衣擦れの音とヒールの靴音だけが、潮騒とともにビーチに響き渡った。

 観客たちは皆、吸い付けられたようにステージに立つキュッリッキに見入っていた。

 胸元や細い二の腕を大きく覆う飾りは、銀と青のビーズで幾何学模様に編まれ、そこから柔らかな半透明の薄布が、幾重にも裾に広がってほっそりした身体を包み込んでいる。

 裾のあたりが淡い青色になっていて、水と白い泡を彷彿とさせるドレスだ。

 そよ風に薄布が揺れると、陽の光に透けて身体の線があらわになり、ほんのりと淡く肌の色も透ける。

 49人までの艶かしい美しさの競演のあとに、神秘的で清楚な美が登場して、会場は感動の渦に落とし込まれている状況だった。

 陽の光を弾いて金色に煌く髪の毛と、日焼けとは無縁の真っ白な肌、儚げでいて美しい顔は戸惑いを浮かべて、目の前の観客に向けられていた。

 静まり返る中、キュッリッキがステージの所定の位置に立つと、静寂を突き破るように大歓声が沸き起こった。

 これまで顔よりも、その艶かしいボディに魅了されていた人々は、キュッリッキの登場により、なんのコンテストかを思い出す。

「どお? メルヴィン」

 ルーファスがニヤニヤとメルヴィンに感想を求めると、メルヴィンは惚けた様にキュッリッキに釘付けとなっている。

「言葉で聞くまでもないか」

 ルーファスの苦笑に、タルコットとギャリーはにっこりと笑った。

 毎日見ているはずのキュッリッキの顔、そして姿。しかし今ステージにいる彼女は、絵画から抜け出た女神か妖精のように見えるのだ。

「綺麗です、本当に…」

 頬を赤らめつつ、メルヴィンは心酔するように呟いた。



「フフンッ、愚民どもめ。リッキーの美しさに魂から魅入られたか」

 ポロシャツにスラックス姿のベルトルドは、尊大なドヤ顔で鼻を鳴らす。さすがに軍服は着ていない。リュリュもアルカネットも、似たりよったりのラフな格好だ。

「ちょっと前まで股間がバーニングしてたくせに、よく言うわネ、まったく」

「男としてアタリマエの反応だろう。首から下の、裸体に等しいエロティックな艶姿は、実に眼福だった」

「なかなかに神々しいというか、神秘的な雰囲気ですねキュッリッキ嬢。これまでの49人のエロイ姿が霞む勢いを醸し出していますよ」

「無垢なまでに、本当に透明感のある美しさです。魅入られないほうがどうかしているというものです」

 シ・アティウスの率直な感想に、アルカネットが深々と同意する。

「さすがは召喚士様、ってところかしら?」



「おおっと、あまりの神秘的な美しさに仕事忘れちゃったよ~! さあキュッリッキちゃん、キミの特技をここでご披露しちゃってえー!!」

「そうだった!」

 司会者に促され、キュッリッキはハッとなる。メルヴィンはどこかと、探すことに夢中になっていたのだ。

「えっと、では、得意な歌を歌いまーーーっす!」

 そう元気よく大声で宣言し、キュッリッキは司会者のマイクをひったくった。



「ちょっ! ヤバイぞ」

 観客席にいるハドリーが、慌てて両手で耳を塞ぐ。



「ヤダあの子、マイク持っちゃった」

 ステージの裏で、ファニーは両手で耳を塞いだ。



「アタシの十八番、『恋のドキドキハリケーンラブ』いっきまーす!」

 キュッリッキは大きく息を吸い込み、そして。

「あ~~~たしの~~~~この~~あふれるううう想いわあああああ」

 握り拳で歌いだした瞬間、ビーチにいるすべての人々がずっこけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

処理中です...