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美人コンテスト編
episode564
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「美人コンテスト?」
この男にしては珍しく、露骨なまでに不可解な表情を浮かべて、その顔をベルトルドに向けていた。
「そうだ! 俺のリッキーを出場させ、当然、当たり前に優勝して賞品をゲットするのだ!」
「誰があなたのですか。――私のリッキーさんが負ける要素は、これっぽっちもありませんからね」
ドヤ顔の2人を更に怪訝そうに見つめ、シ・アティウスはリュリュを見る。
「止めても無駄よ。小娘よりやる気満々なんだから」
呆れ顔でリュリュは肩をすくめてみせた。
仕事の打ち合わせのために、宰相府のベルトルドの執務室には、アルカネット、リュリュ、シ・アティウスの4人が集っていた。
「なにか、良い賞品なんですか? 優勝賞品とは」
「ふっふっふっ、聞いて驚け。あの、ケウルーレの超最高級温泉宿ユリハルシラの招待券だ!」
「お」
シ・アティウスの表情に、ようやく興味深げな色が浮かぶ。
「かなり以前から、ケウルーレに行きたがっていたろう」
「ええ、彼の地には、ある伝説の確認をしに行きたいのです」
「あら、あーたの興味をそそる伝説なんてあるの、温泉地に」
「温泉地として名が轟いたのは、ここ100年くらいのことでしょう。――ケウルーレは、アイオン族の始祖が降り立ち、2番目の妻を迎え、終の住処と定めた地と言われている場所なんです」
「ほほお」
ベルトルドは目をぱちくりさせてシ・アティウスを見る。
「コケマキ・カウプンキは実に神秘的な自由都市です。入国規制を行っているわけではありませんが、場所が場所なだけに、訪れる人も少ない。それだけに漂ってくる噂もあまりない。せいぜいが、ケウルーレの温泉の話題くらいでしょう」
3つの惑星には、それぞれ自由都市というものが、いくつも存在している。
種族統一国家を嫌う人々が集まり、小さな町を興し、そこから都市規模まで発展したものが、自由都市の発祥と言われていた。
この世界で『国』というものは、エグザイル・システムを有していることだ。エグザイル・システムを所有していなければ、『国』を名乗ることができない。それ故、『都市』と呼ばれる。
自由都市はどの国にも属さず、また、支援や救助を受けることもできない。エグザイル・システムもない。その代償に、どの国からも政治・軍事などの圧力受けない。それが、ハワドウレ皇国のような種族統一国家からであってもだ。
コケマキ・カウプンキはワイ・メア大陸の東の果てにある、コケマキ島という大きな島一つを指す。ケウルーレはコケマキ島のほぼ中央にあると言われていた。
「でも、なんでアイオン族の始祖が、ヴィプネン族の惑星ヒイシの島を、終の住処なんかにしたのん?」
そこにロマンスを感じたのか、リュリュが興味津々で身を乗り出す。
「アイオン族の始祖アウリスは、一度は故郷の惑星ペッコで鬼籍に入っています。ですが、とある事件で黄泉がえり、その後惑星ヒイシに渡ったと言われています。何故ヒイシにきたのかは知りません」
「ンまっ、いいわあ~、そういうのって。愛し合う女とともに、終の住処に選ぶなんて、さそいい土地なんでしょうねえ。しかも良い温泉もあるなんて」
「……」
ロマンス話に『温泉』という単語が混ざるだけで、何か場違いなものでも見つけたような気分になるベルトルドだった。
「そんなに興味があるのでしたら、普通にいつでも行けばいいのではないですか?」
アルカネットが不思議そうに言うと、シ・アティウスは首を横に振る。
「入国規制はありませんが、ケウルーレのみ、予約がとれないと入れないようになっているんです。たとえ温泉目的ではなくても、ただの観光でもなんでも、予約制なんです。そしてその予約が全く取れず、行くに行けないんですよ」
「おやまあ…」
「ベルの権威も全く効果がないものねえ」
「フンッ。招待券が手に入れば、好きなだけケウルーレを闊歩出来るんだろう? 来週を楽しみにしているがいい!」
ふふーんと得意顔でベルトルドが言うと、シ・アティウスは苦笑した。
「そいえば、招待券なんてオークションにでもかけられてるんじゃない? かなりの破格だろうけどン」
「ンなもん、とっくに調べ尽くしてある」
「アッフン」
「全ては来週の美人コンテストにかかっている。ああ、待ち遠しい!」
ケウルーレに行けるチャンスが、かなりの勝率でぶら下がっている。これは、是非ともキュッリッキには勝ってもらわなければなるまい。シ・アティウスはひっそりと微笑んだ。
この男にしては珍しく、露骨なまでに不可解な表情を浮かべて、その顔をベルトルドに向けていた。
「そうだ! 俺のリッキーを出場させ、当然、当たり前に優勝して賞品をゲットするのだ!」
「誰があなたのですか。――私のリッキーさんが負ける要素は、これっぽっちもありませんからね」
ドヤ顔の2人を更に怪訝そうに見つめ、シ・アティウスはリュリュを見る。
「止めても無駄よ。小娘よりやる気満々なんだから」
呆れ顔でリュリュは肩をすくめてみせた。
仕事の打ち合わせのために、宰相府のベルトルドの執務室には、アルカネット、リュリュ、シ・アティウスの4人が集っていた。
「なにか、良い賞品なんですか? 優勝賞品とは」
「ふっふっふっ、聞いて驚け。あの、ケウルーレの超最高級温泉宿ユリハルシラの招待券だ!」
「お」
シ・アティウスの表情に、ようやく興味深げな色が浮かぶ。
「かなり以前から、ケウルーレに行きたがっていたろう」
「ええ、彼の地には、ある伝説の確認をしに行きたいのです」
「あら、あーたの興味をそそる伝説なんてあるの、温泉地に」
「温泉地として名が轟いたのは、ここ100年くらいのことでしょう。――ケウルーレは、アイオン族の始祖が降り立ち、2番目の妻を迎え、終の住処と定めた地と言われている場所なんです」
「ほほお」
ベルトルドは目をぱちくりさせてシ・アティウスを見る。
「コケマキ・カウプンキは実に神秘的な自由都市です。入国規制を行っているわけではありませんが、場所が場所なだけに、訪れる人も少ない。それだけに漂ってくる噂もあまりない。せいぜいが、ケウルーレの温泉の話題くらいでしょう」
3つの惑星には、それぞれ自由都市というものが、いくつも存在している。
種族統一国家を嫌う人々が集まり、小さな町を興し、そこから都市規模まで発展したものが、自由都市の発祥と言われていた。
この世界で『国』というものは、エグザイル・システムを有していることだ。エグザイル・システムを所有していなければ、『国』を名乗ることができない。それ故、『都市』と呼ばれる。
自由都市はどの国にも属さず、また、支援や救助を受けることもできない。エグザイル・システムもない。その代償に、どの国からも政治・軍事などの圧力受けない。それが、ハワドウレ皇国のような種族統一国家からであってもだ。
コケマキ・カウプンキはワイ・メア大陸の東の果てにある、コケマキ島という大きな島一つを指す。ケウルーレはコケマキ島のほぼ中央にあると言われていた。
「でも、なんでアイオン族の始祖が、ヴィプネン族の惑星ヒイシの島を、終の住処なんかにしたのん?」
そこにロマンスを感じたのか、リュリュが興味津々で身を乗り出す。
「アイオン族の始祖アウリスは、一度は故郷の惑星ペッコで鬼籍に入っています。ですが、とある事件で黄泉がえり、その後惑星ヒイシに渡ったと言われています。何故ヒイシにきたのかは知りません」
「ンまっ、いいわあ~、そういうのって。愛し合う女とともに、終の住処に選ぶなんて、さそいい土地なんでしょうねえ。しかも良い温泉もあるなんて」
「……」
ロマンス話に『温泉』という単語が混ざるだけで、何か場違いなものでも見つけたような気分になるベルトルドだった。
「そんなに興味があるのでしたら、普通にいつでも行けばいいのではないですか?」
アルカネットが不思議そうに言うと、シ・アティウスは首を横に振る。
「入国規制はありませんが、ケウルーレのみ、予約がとれないと入れないようになっているんです。たとえ温泉目的ではなくても、ただの観光でもなんでも、予約制なんです。そしてその予約が全く取れず、行くに行けないんですよ」
「おやまあ…」
「ベルの権威も全く効果がないものねえ」
「フンッ。招待券が手に入れば、好きなだけケウルーレを闊歩出来るんだろう? 来週を楽しみにしているがいい!」
ふふーんと得意顔でベルトルドが言うと、シ・アティウスは苦笑した。
「そいえば、招待券なんてオークションにでもかけられてるんじゃない? かなりの破格だろうけどン」
「ンなもん、とっくに調べ尽くしてある」
「アッフン」
「全ては来週の美人コンテストにかかっている。ああ、待ち遠しい!」
ケウルーレに行けるチャンスが、かなりの勝率でぶら下がっている。これは、是非ともキュッリッキには勝ってもらわなければなるまい。シ・アティウスはひっそりと微笑んだ。
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