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美人コンテスト編
episode561
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「こんちゃ~っす、誰かいるか~い?」
玄関フロアから大声がして、ちょうど階段を降りてきたルーファスが応じた。
「おや、アートスじゃない、どったの?」
「よっ、モテ男」
アートスと呼ばれた男は、気安い好い笑顔をルーファスに向ける。傭兵ギルド・エルダー街支部の広報担当だ。
「来週、毎年恒例のイベントを、今回はハーツイーズ支部と合同でやるから、そのお知らせにきた」
「――ああ、もうそんな時期なの」
一拍おいて、ルーファスは大きく頷く。
「8月に大きな戦争挟んだからね~、うっかりしてる傭兵団が多いのなんの。いつもながら大慌てで、スカウトに走り回ってるぜ」
「なるほ」
さぞ必死にスカウトしているだろう姿を想像して、2人は顔を見合わせ苦笑する。
「お前さんとこは、またいつのもねーちゃん出すつもり?」
「ううん…、言えば出るって言うだろうしい…、出したところで入賞しないしなあ」
心底困ったような声を出すルーファスに、アートスは肩をすくめてみせた。
「十人並みコンテンストなら、ちょっとは可能性はあるだろうけどネ」
「うんうん」
「まあ一応、申込書渡しておくよ。エントリーするなら、前日までにギルドに提出しておいてくれ」
「おっけーい、わざわざありがとね~」
「んじゃ、またな」
アートスを見送ったあと、申込書を扇代わりにして顔を煽りながら、ルーファスは雑談室へと向かう。
今は仕事がないので、みんな談話室に集っている。思い思いの場所で、暇そうになにかをしていた。
「カーティス、傭兵ギルドから美人コンテストの申込書が届けられたよ」
本を読んでいたカーティスが、顔を上げて差し出された申込書を受け取る。
「ああ、もうそんな時期でしたか」
とくに感情もなく、興味なさげに淡々と言う。
「今年はハーツイーズ支部と合同だそうだよ。きっと、海辺に陣取って、派手にやらかすんじゃないのかなあ~」
「それは大掛かりですねえ。残暑祭りってところでしょうか」
「確かにお祭りだしね。――んで、どうする? また今年も出場?」
「したところで…」
カーティスはどこか言い淀むように、ごにょごにょと声を潜め呟く。
「なあ、それ、キューリ出したら優勝すんじゃね」
ビリヤードをつついていたザカリーが明るく言うと、
「私が出場するのよ!」
普段滅多に大声を出さないマーゴットが、力んで立ち上がる。
「おめーが出場したところで、入賞もしねーじゃん」
眉間に皺を寄せて、ザカリーは吐き捨てる。同意する頷きが、室内のあちこちから起こった。
「傭兵界のトップであるライオン傭兵団が、唯一最下位に甘んじているイベントだな」
わざと嫌味ったらしくギャリーが笑う。
傭兵ギルド主催の美人コンテストは、毎年残暑に行われる。
職業柄一般人からは嫌煙されがちの傭兵たちにも、明るく楽しい息抜きの話題を! そうギルドが気合を入れている、唯一の大イベントだ。
こうしたお祭り騒ぎにノリやすい傭兵たちは、自分のところのマドンナを出場させたり、臨時日雇いで一般人女性をスカウトしてきて出場させたりしていた。
当然ライオン傭兵団も勇んで参加しているが、マーゴットを出場させて、毎年参加賞止まりである。
「だ~か~ら~、キューリ出したら優勝するってぇ」
「まあ、確かに勝率は高いよね。胸はちっさくても、美人だし可愛いから」
「だろ? マーゴットなんておよびじゃねえよ」
「なんですって!」
「うっせーよ、ぶーす」
「まあまあ」
白熱しかかるザカリーとマーゴットを、ルーファスは慌ててなだめる。
「そのキューリは、ドコいったんでぃ?」
タバコをふかしながらギャリーが言うと、
「ベルトルドさんに呼ばれたとかで、ハーメンリンナに行っています」
カウンターに座っていたメルヴィンは、ちょっと寂しげに言った。
玄関フロアから大声がして、ちょうど階段を降りてきたルーファスが応じた。
「おや、アートスじゃない、どったの?」
「よっ、モテ男」
アートスと呼ばれた男は、気安い好い笑顔をルーファスに向ける。傭兵ギルド・エルダー街支部の広報担当だ。
「来週、毎年恒例のイベントを、今回はハーツイーズ支部と合同でやるから、そのお知らせにきた」
「――ああ、もうそんな時期なの」
一拍おいて、ルーファスは大きく頷く。
「8月に大きな戦争挟んだからね~、うっかりしてる傭兵団が多いのなんの。いつもながら大慌てで、スカウトに走り回ってるぜ」
「なるほ」
さぞ必死にスカウトしているだろう姿を想像して、2人は顔を見合わせ苦笑する。
「お前さんとこは、またいつのもねーちゃん出すつもり?」
「ううん…、言えば出るって言うだろうしい…、出したところで入賞しないしなあ」
心底困ったような声を出すルーファスに、アートスは肩をすくめてみせた。
「十人並みコンテンストなら、ちょっとは可能性はあるだろうけどネ」
「うんうん」
「まあ一応、申込書渡しておくよ。エントリーするなら、前日までにギルドに提出しておいてくれ」
「おっけーい、わざわざありがとね~」
「んじゃ、またな」
アートスを見送ったあと、申込書を扇代わりにして顔を煽りながら、ルーファスは雑談室へと向かう。
今は仕事がないので、みんな談話室に集っている。思い思いの場所で、暇そうになにかをしていた。
「カーティス、傭兵ギルドから美人コンテストの申込書が届けられたよ」
本を読んでいたカーティスが、顔を上げて差し出された申込書を受け取る。
「ああ、もうそんな時期でしたか」
とくに感情もなく、興味なさげに淡々と言う。
「今年はハーツイーズ支部と合同だそうだよ。きっと、海辺に陣取って、派手にやらかすんじゃないのかなあ~」
「それは大掛かりですねえ。残暑祭りってところでしょうか」
「確かにお祭りだしね。――んで、どうする? また今年も出場?」
「したところで…」
カーティスはどこか言い淀むように、ごにょごにょと声を潜め呟く。
「なあ、それ、キューリ出したら優勝すんじゃね」
ビリヤードをつついていたザカリーが明るく言うと、
「私が出場するのよ!」
普段滅多に大声を出さないマーゴットが、力んで立ち上がる。
「おめーが出場したところで、入賞もしねーじゃん」
眉間に皺を寄せて、ザカリーは吐き捨てる。同意する頷きが、室内のあちこちから起こった。
「傭兵界のトップであるライオン傭兵団が、唯一最下位に甘んじているイベントだな」
わざと嫌味ったらしくギャリーが笑う。
傭兵ギルド主催の美人コンテストは、毎年残暑に行われる。
職業柄一般人からは嫌煙されがちの傭兵たちにも、明るく楽しい息抜きの話題を! そうギルドが気合を入れている、唯一の大イベントだ。
こうしたお祭り騒ぎにノリやすい傭兵たちは、自分のところのマドンナを出場させたり、臨時日雇いで一般人女性をスカウトしてきて出場させたりしていた。
当然ライオン傭兵団も勇んで参加しているが、マーゴットを出場させて、毎年参加賞止まりである。
「だ~か~ら~、キューリ出したら優勝するってぇ」
「まあ、確かに勝率は高いよね。胸はちっさくても、美人だし可愛いから」
「だろ? マーゴットなんておよびじゃねえよ」
「なんですって!」
「うっせーよ、ぶーす」
「まあまあ」
白熱しかかるザカリーとマーゴットを、ルーファスは慌ててなだめる。
「そのキューリは、ドコいったんでぃ?」
タバコをふかしながらギャリーが言うと、
「ベルトルドさんに呼ばれたとかで、ハーメンリンナに行っています」
カウンターに座っていたメルヴィンは、ちょっと寂しげに言った。
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