622 / 882
アン=マリー女学院からの依頼編
episode559
しおりを挟む
ベルトルドの悲鳴が遠のいていくのを聞きながら、アルカネットは心底満足そうにニッコリと微笑む。邪な計画を阻止できて大満足なのだ。
「お見苦しいところをお見せしてしまい、たいへん失礼致しました」
これ以上にないほど優雅に頭を下げられ、イリニア王女とニコデムス宰相は呆気にとられて、条件反射的にコクコクと頷いた。先ほど怒鳴りつけられて心底恐怖したが、今の会話はなんなのだろうか。
「さて、突然で申し訳ありませんが、殿下には、我々と一緒に皇都イララクスにお越しいただきたいのですが、よろしいでしょうか」
「え?」
「それは一体……?」
いきなりのことに、ニコデムス宰相は怪訝そうに目を眇めた。
「今回の一件では、首謀者一味を一網打尽にしましたが、まだブロムストランド共和国の首相の生死が定かではありません。安全が確認されるまでは、殿下の御身は危険なままです。次期女王として即位なさる前に、危険を根絶して、安心して玉座に就かれるがよろしかろうと存じます。そして我がハワドウレ皇国の社交界にも、誼を結んでおくと今後のためにもよろしいかと」
実のところ、ニコデムス宰相はこの事件の詳細を知らされていなかった。
国王夫妻が不慮の事故で逝去し、国葬のためにイリニア王女に首都に戻るように連絡を出した。場所が場所なだけに、戻るのには日数をようする。そして即位のこともまた連絡をしていた。旅の間に心の整理を促すためだった。
ようやく学院側から、学院で雇った傭兵たちに護衛されながら、イリニア王女が出発したことを知った。何故学院が傭兵を雇ったのか訝しみ、すぐさま王宮から護衛を向かわせることにした。
しかし護衛たちは王女とは合流できず、行方知れずだと連絡を寄越してきた。ところが今日になり、突如ハワドウレ皇国魔法部隊長官という肩書きのアルカネットと、副宰相兼軍総帥の秘書官リュリュという2人組が現れた。配下の傭兵たちが王女を護衛しており、そろそろ到着するだろう、と言うのだ。そして本当に現れたので心底驚いた。
彼らからブロムストランド共和国が王女を狙っていると、簡単に説明は受けているが、正直ニコデムス宰相は困惑していた。こうして王女が無事到着したのは幸いだったが。更にアン=マリー女学院院長が縛り上げられているのにも驚いていた。
突然両親を失い、命を狙われ、重責を担うことになる可哀想な姪に、いきなり問い詰めるようなことはできない。それよりも、まずはゆっくりと勞ってやりたかった。
縛られたまま地面に転がされているシェシュティン院長を見つめ、暫く考え込んでいたイリニア王女は、判りましたと返事をした。そしてニコデムス宰相を振り向く。
「叔父様、わたくし行ってまいりますわ」
「殿下……」
「今回の事後処理、お任せ致します」
ニコデムス宰相は眉を顰めたまま、ゆっくりと頷いた。
「判りました。殿下が安全に即位出来るよう、よく掃除をしてからお迎え致します」
「ありがとうございます、叔父様」
ようやくイリニア王女は破顔した。
「護衛のためにトビアスをお連れください。――構いませぬな?」
アルカネットに顔を向ける。単身向かわせるわけにはいかない。今度こそ信頼のおける護衛をつけなくては、安心できなかった。
「ええ、もちろんです」
笑顔を崩さずアルカネットは了承した。
「お見苦しいところをお見せしてしまい、たいへん失礼致しました」
これ以上にないほど優雅に頭を下げられ、イリニア王女とニコデムス宰相は呆気にとられて、条件反射的にコクコクと頷いた。先ほど怒鳴りつけられて心底恐怖したが、今の会話はなんなのだろうか。
「さて、突然で申し訳ありませんが、殿下には、我々と一緒に皇都イララクスにお越しいただきたいのですが、よろしいでしょうか」
「え?」
「それは一体……?」
いきなりのことに、ニコデムス宰相は怪訝そうに目を眇めた。
「今回の一件では、首謀者一味を一網打尽にしましたが、まだブロムストランド共和国の首相の生死が定かではありません。安全が確認されるまでは、殿下の御身は危険なままです。次期女王として即位なさる前に、危険を根絶して、安心して玉座に就かれるがよろしかろうと存じます。そして我がハワドウレ皇国の社交界にも、誼を結んでおくと今後のためにもよろしいかと」
実のところ、ニコデムス宰相はこの事件の詳細を知らされていなかった。
国王夫妻が不慮の事故で逝去し、国葬のためにイリニア王女に首都に戻るように連絡を出した。場所が場所なだけに、戻るのには日数をようする。そして即位のこともまた連絡をしていた。旅の間に心の整理を促すためだった。
ようやく学院側から、学院で雇った傭兵たちに護衛されながら、イリニア王女が出発したことを知った。何故学院が傭兵を雇ったのか訝しみ、すぐさま王宮から護衛を向かわせることにした。
しかし護衛たちは王女とは合流できず、行方知れずだと連絡を寄越してきた。ところが今日になり、突如ハワドウレ皇国魔法部隊長官という肩書きのアルカネットと、副宰相兼軍総帥の秘書官リュリュという2人組が現れた。配下の傭兵たちが王女を護衛しており、そろそろ到着するだろう、と言うのだ。そして本当に現れたので心底驚いた。
彼らからブロムストランド共和国が王女を狙っていると、簡単に説明は受けているが、正直ニコデムス宰相は困惑していた。こうして王女が無事到着したのは幸いだったが。更にアン=マリー女学院院長が縛り上げられているのにも驚いていた。
突然両親を失い、命を狙われ、重責を担うことになる可哀想な姪に、いきなり問い詰めるようなことはできない。それよりも、まずはゆっくりと勞ってやりたかった。
縛られたまま地面に転がされているシェシュティン院長を見つめ、暫く考え込んでいたイリニア王女は、判りましたと返事をした。そしてニコデムス宰相を振り向く。
「叔父様、わたくし行ってまいりますわ」
「殿下……」
「今回の事後処理、お任せ致します」
ニコデムス宰相は眉を顰めたまま、ゆっくりと頷いた。
「判りました。殿下が安全に即位出来るよう、よく掃除をしてからお迎え致します」
「ありがとうございます、叔父様」
ようやくイリニア王女は破顔した。
「護衛のためにトビアスをお連れください。――構いませぬな?」
アルカネットに顔を向ける。単身向かわせるわけにはいかない。今度こそ信頼のおける護衛をつけなくては、安心できなかった。
「ええ、もちろんです」
笑顔を崩さずアルカネットは了承した。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる