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アン=マリー女学院からの依頼編
episode546
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談話室の床に正座して、カーティスはうなだれていた。
エグザイル・システム方面を見に行ったギャリーたちは、キュッリッキを見つけられなかった。その報告を聞いたとき、ナントナクこうなることは半分予想していたとはいえ、実際押しかけてこられるとうんざりする。
目の前に立つアルカネットの軍靴のつま先をしみじみ見つめ、漂ってくる怒気にじわりじわりと慄く。
「リュリュ、リッキーさんは、なんと言ってベルトルド様を唆したんですか?」
後ろに控えるリュリュに、爆発寸前の怒りを燻らせたような声音で、アルカネットが冷ややかに言う。
「えーっと『アタシのお願い聞いてくれたら一発ヤラせてあげる!!』だったわねン」
少々間を空けたあとに「はぁ…」と切なげなため息をついて、アルカネットはゆるゆると首を横に振った。今にも目眩を起こしそうな表情だ。
「あの純粋無垢でいたいけなリッキーさんが、そんな下品な言葉を知っていたわけがありません。まして、意味を理解して口にしているわけではないでしょう。――絶妙な場面で使っているあたりがちょっと心配ですが…。さあカーティス、一体誰が、リッキーさんにそんな不届きな言葉を教えたんです?」
「はい……、えー……、ルーファスとマリオンです……」
そして深々とため息をついた。
世間知らずではないが、他人とのコミュニケーションが苦手だったこともあり、キュッリッキは語彙がバラエティな方ではない。それで色々知らないのをいいことに、ルーファスやマリオンが余計な知識を植え付けている。おかげで時々素っ頓狂なことを言い出してびっくりすることがあるが、今回はそれが最悪の形で露見したようだ。
この際折角だから、アルカネットにお灸を据えてもらうか、とカーティスは心の中で頷いた。
「今はアジトに居ないようですね」
アルカネットはギロリとした目で室内を見渡す。2人共仕事に出ていて命拾いしたようなものだ。
「それで、リッキーさんはどこへ行ったのです。具体的な場所の見当はついているのでしょう?」
もちろん、ついている。
アン=マリー女学院からもたらされた依頼の、王女を狙う黒幕が判明し、そのことを知ったキュッリッキは飛び出していったのだから。
カーティスは依頼の経緯を説明した。そして、調査報告もブルニタルとペルラにも口添えしてもらう。
アルカネットは細い顎に手を添え、伏せ目がちに暫し考え込んだ。
「今からあとを追いかけても、移動してしまっているでしょう。首都ヴァルテルで待ち構えていたほうが良さそうですね」
「そうねん。いくらベルでも、すぐに小娘を押し倒すわけはないでしょうし」
「押し倒させませんよ。ぶっ殺してでも阻止してみせます」
冷気が室内を緩やかに覆い尽くす。アルカネットが本気で怒ると、周辺温度が急激に下がるのだ。魔具が自身の身体であるため、魔力がそうした形で吹き出すのである。
「全くしょうがないんだから。お仕置き、たーっぷりしてやらなくっちゃね」
「ええ、骨の髄まできっちり思い知らせてやってください」
ベルトルドがキュッリッキを連れて空間転移してしまったあと、リュリュはアルカネットを引っ張り出して、ライオン傭兵団のアジトに押しかけてきた。上級レベルのサイ《超能力》を有するリュリュでも、空間転移は出来ない。
それで2人が向かった先を聞き出すため、カーティスに詰め寄っているのである。
アルカネットを引っ張り出してきたのは、当然ベルトルドのキュッリッキへの下心行為を阻止させるためだ。女に興味はないが、不幸な生い立ちのキュッリッキを心底不憫に思っている。それに、ある思いも心の隅に有り、キュッリッキに対して老婆心が働いてしまうのだ。
「行きましょうか」
「おっけー」
地鳴りでも起きそうなほど、軍靴で床を踏み鳴らしながら出て行くアルカネットを、カーティスはうんざりと見送った。
エグザイル・システム方面を見に行ったギャリーたちは、キュッリッキを見つけられなかった。その報告を聞いたとき、ナントナクこうなることは半分予想していたとはいえ、実際押しかけてこられるとうんざりする。
目の前に立つアルカネットの軍靴のつま先をしみじみ見つめ、漂ってくる怒気にじわりじわりと慄く。
「リュリュ、リッキーさんは、なんと言ってベルトルド様を唆したんですか?」
後ろに控えるリュリュに、爆発寸前の怒りを燻らせたような声音で、アルカネットが冷ややかに言う。
「えーっと『アタシのお願い聞いてくれたら一発ヤラせてあげる!!』だったわねン」
少々間を空けたあとに「はぁ…」と切なげなため息をついて、アルカネットはゆるゆると首を横に振った。今にも目眩を起こしそうな表情だ。
「あの純粋無垢でいたいけなリッキーさんが、そんな下品な言葉を知っていたわけがありません。まして、意味を理解して口にしているわけではないでしょう。――絶妙な場面で使っているあたりがちょっと心配ですが…。さあカーティス、一体誰が、リッキーさんにそんな不届きな言葉を教えたんです?」
「はい……、えー……、ルーファスとマリオンです……」
そして深々とため息をついた。
世間知らずではないが、他人とのコミュニケーションが苦手だったこともあり、キュッリッキは語彙がバラエティな方ではない。それで色々知らないのをいいことに、ルーファスやマリオンが余計な知識を植え付けている。おかげで時々素っ頓狂なことを言い出してびっくりすることがあるが、今回はそれが最悪の形で露見したようだ。
この際折角だから、アルカネットにお灸を据えてもらうか、とカーティスは心の中で頷いた。
「今はアジトに居ないようですね」
アルカネットはギロリとした目で室内を見渡す。2人共仕事に出ていて命拾いしたようなものだ。
「それで、リッキーさんはどこへ行ったのです。具体的な場所の見当はついているのでしょう?」
もちろん、ついている。
アン=マリー女学院からもたらされた依頼の、王女を狙う黒幕が判明し、そのことを知ったキュッリッキは飛び出していったのだから。
カーティスは依頼の経緯を説明した。そして、調査報告もブルニタルとペルラにも口添えしてもらう。
アルカネットは細い顎に手を添え、伏せ目がちに暫し考え込んだ。
「今からあとを追いかけても、移動してしまっているでしょう。首都ヴァルテルで待ち構えていたほうが良さそうですね」
「そうねん。いくらベルでも、すぐに小娘を押し倒すわけはないでしょうし」
「押し倒させませんよ。ぶっ殺してでも阻止してみせます」
冷気が室内を緩やかに覆い尽くす。アルカネットが本気で怒ると、周辺温度が急激に下がるのだ。魔具が自身の身体であるため、魔力がそうした形で吹き出すのである。
「全くしょうがないんだから。お仕置き、たーっぷりしてやらなくっちゃね」
「ええ、骨の髄まできっちり思い知らせてやってください」
ベルトルドがキュッリッキを連れて空間転移してしまったあと、リュリュはアルカネットを引っ張り出して、ライオン傭兵団のアジトに押しかけてきた。上級レベルのサイ《超能力》を有するリュリュでも、空間転移は出来ない。
それで2人が向かった先を聞き出すため、カーティスに詰め寄っているのである。
アルカネットを引っ張り出してきたのは、当然ベルトルドのキュッリッキへの下心行為を阻止させるためだ。女に興味はないが、不幸な生い立ちのキュッリッキを心底不憫に思っている。それに、ある思いも心の隅に有り、キュッリッキに対して老婆心が働いてしまうのだ。
「行きましょうか」
「おっけー」
地鳴りでも起きそうなほど、軍靴で床を踏み鳴らしながら出て行くアルカネットを、カーティスはうんざりと見送った。
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