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アン=マリー女学院からの依頼編
episode542
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「それにしても妙だな」
どっかりと岩に腰を下ろしたタルコットが、愛用の鎌スルーズを傍らに置いた。
「何がですか?」
メルヴィンの問いに、タルコットは眉を眇める。
「奇襲が全くない」
「……そういえば、ありませんね」
ないことは一向に構わないが、街を出て最初の奇襲があってからというもの、現在まで2度目の奇襲がない。それはメルヴィンもずっと気になっていた。
「まさか奇襲要員が、叩きのめした15人だけ、とかナイよねえ…」
「そんな軟弱な準備状態で、ボクたちを引っ張り出したっていうのか?」
ギロッとタルコットに睨まれ、ルーファスは首をすくめる。
「それは流石にナイよねっ」
「山の中だと敵にとっても不利だから、ヴェルゼッドで待ち伏せしている、ということもありえますね」
腕を組みながら言うメルヴィンに、皆頷いた。首都ヴァルテルに行くには、ヴェルゼッドから汽車に乗るのが早道だからだ。だから必ず立ち寄ると予測は立つ。
奇襲してきた者たちは、それなりに訓練を受けている戦いぶりだった。傭兵のものとは明らかに動きが違っている。しかし、山の中は地形も不安定で、草木が茂って視覚も悪い。罠も張りやすく、ある程度特殊な能力を持った戦闘員が必要になる。傭兵なら無理をするだろうが、奇襲してこない以上、相手は傭兵ではない。
「最初の奇襲で事が済む筈だったんでしょうね、敵さんにしてみたら。まさか全滅の返り討ちにあうとは、予想外だったんじゃないですかね。人員補充とかナントカ、色々あるんじゃないでしょうか」
フサフサと尻尾を揺らしながら、シビルは言った。
「甘く見られたもんだな、気に入らん」
タルコットは不愉快そうに舌打ちした。
戦闘が大好きなタルコットからしてみたら、奇襲もなくただ歩くだけの護衛旅に、些か忍耐を強要されていて機嫌が悪い。
「これでヴェルゼッドでも奇襲がなかったら、ボクは帰るぞ」
「まあまあ……」
小さな手でタルコットを宥めながら、シビルはため息をついた。
「殿下、奇襲の、敵に心当たりはありませんか?」
「そんな他人行儀な呼び方はお止めくださいませ! イリニアと呼んで下さいまし」
「え…」
いきなりイリニア王女に詰め寄られ、メルヴィンは石のように固まった。
「メルヴィン様には、普通に名前で呼んで欲しいのです…」
まっすぐ見つめてきながら言うイリニア王女に、メルヴィンはタジタジとなって僅かに身体を引く。――なんで!? と驚く表情が物語っていた。
「えっと……、イリニア様」
「様は要りません。イリニア、でようございます」
「………」
どっかりと岩に腰を下ろしたタルコットが、愛用の鎌スルーズを傍らに置いた。
「何がですか?」
メルヴィンの問いに、タルコットは眉を眇める。
「奇襲が全くない」
「……そういえば、ありませんね」
ないことは一向に構わないが、街を出て最初の奇襲があってからというもの、現在まで2度目の奇襲がない。それはメルヴィンもずっと気になっていた。
「まさか奇襲要員が、叩きのめした15人だけ、とかナイよねえ…」
「そんな軟弱な準備状態で、ボクたちを引っ張り出したっていうのか?」
ギロッとタルコットに睨まれ、ルーファスは首をすくめる。
「それは流石にナイよねっ」
「山の中だと敵にとっても不利だから、ヴェルゼッドで待ち伏せしている、ということもありえますね」
腕を組みながら言うメルヴィンに、皆頷いた。首都ヴァルテルに行くには、ヴェルゼッドから汽車に乗るのが早道だからだ。だから必ず立ち寄ると予測は立つ。
奇襲してきた者たちは、それなりに訓練を受けている戦いぶりだった。傭兵のものとは明らかに動きが違っている。しかし、山の中は地形も不安定で、草木が茂って視覚も悪い。罠も張りやすく、ある程度特殊な能力を持った戦闘員が必要になる。傭兵なら無理をするだろうが、奇襲してこない以上、相手は傭兵ではない。
「最初の奇襲で事が済む筈だったんでしょうね、敵さんにしてみたら。まさか全滅の返り討ちにあうとは、予想外だったんじゃないですかね。人員補充とかナントカ、色々あるんじゃないでしょうか」
フサフサと尻尾を揺らしながら、シビルは言った。
「甘く見られたもんだな、気に入らん」
タルコットは不愉快そうに舌打ちした。
戦闘が大好きなタルコットからしてみたら、奇襲もなくただ歩くだけの護衛旅に、些か忍耐を強要されていて機嫌が悪い。
「これでヴェルゼッドでも奇襲がなかったら、ボクは帰るぞ」
「まあまあ……」
小さな手でタルコットを宥めながら、シビルはため息をついた。
「殿下、奇襲の、敵に心当たりはありませんか?」
「そんな他人行儀な呼び方はお止めくださいませ! イリニアと呼んで下さいまし」
「え…」
いきなりイリニア王女に詰め寄られ、メルヴィンは石のように固まった。
「メルヴィン様には、普通に名前で呼んで欲しいのです…」
まっすぐ見つめてきながら言うイリニア王女に、メルヴィンはタジタジとなって僅かに身体を引く。――なんで!? と驚く表情が物語っていた。
「えっと……、イリニア様」
「様は要りません。イリニア、でようございます」
「………」
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