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アン=マリー女学院からの依頼編
episode540
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メルヴィンと遠く離れた皇都イララクスのハーメンリンナに居るキュッリッキは、目の前のテレビに目を向けつつもため息の連続だった。
今まさに、テレビの中では大好きな『美魔女っ子カトリーナ』が魔法で変身して、多くの悪と戦闘中である。
いつもなら変身シーンが出てくると、テレビの前に立って真似をして喜んでいるというのにそれもしない。ぺたりと床に座り込んで、肩を落としている。その様子を後ろのソファに並んで座るベルトルドとアルカネットが、不思議そうに見つめていた。
(元気がないな、リッキー)
(口の端にのせるのも怖気がしますが、メルヴィンと離れ離れになっているから落ち込んでいるんです)
(俺がこんなに近くにいるのに?)
(別にあなたがいたって関係ないでしょう。むしろ私がこうしてそばにいるのに、あんなに落ち込んでいることが心配です)
(そういうお前だって関係ないだろう!!)
念話でいがみ合いながら、ベルトルドとアルカネットは視線をぶつけていた。
週に一回、水曜日はテレビを観にキュッリッキが遊びに来てくれる。どんなに仕事が忙しかろうと、キュッリッキが来る時間前には絶対に帰宅している2人だった。そして、一生懸命乞い願い、キュッリッキには泊まっていってもらう。更に拝み倒して一緒に寝ようと言うが、それだけは却下されていた。
(しかし、リッキーを連れて行かなかったことは褒めてやるが、そんなに時間のかかる仕事なのか? あいつらが受けた依頼は)
(トゥルーク王国の王女を護衛して、首都に送り届けるものだったと聞いています)
(ほう……確かあの国、最近国王夫妻が事故死したんだったな)
(ええ、視察先で事故に遭われたようです。そのため一人娘の王女が、急に女王として即位すると、報告があがっています)
(ウエケラ大陸の中では大きな国だが、織物生産が盛んなくらいで、クーデターとは無縁そうな感じはするんだがなあ)
(皇国に対しても低姿勢ですしね。王女と近親者の宰相も、よく国王に尽くして国に貢献していると評判がいいですが)
(何年か前に皇国の建国記念に来訪した国王と謁見したが、タヌキでもキツネでもない、ごく普通の王だったような。無能でも有能でもない、淡々とした印象がある)
(そうですね。織物交易も盛んですから、富ませることに才能は豊かだったようです)
(ふむ…。まあ、ギルド側からの判断で回ってきたとは言え、あいつらが出しゃばるくらいに護衛が危険だというわけか。自国の護衛ではなく傭兵を雇うくらい、事態は切羽詰っているのかな)
(ダエヴァに調べさせましょうか?)
落ち込むキュッリッキの後ろ姿を見つめ、ベルトルドは首を横に振る。
(いや、調査はすでにあいつらがやっているだろう。皇国に直接影響がなければ、放っておけばいいさ)
(判りました)
アルカネットは小さく頷いた。
すでに『美魔女っ子カトリーナ』は終わっているようで、別の番組が始まっていた。
「リッキー、こっちにおいで」
ベルトルドに声をかけられ、キュッリッキは「うん」と力なく返事をして、ベルトルドとアルカネットの間に座った。
この間ザカリーに買ってもらった大きなペンギンのぬいぐるみをギュッと抱きしめ、キュッリッキはため息をこぼしまくっている。
「もうすぐ夕飯だぞ。リッキーの大好きなものばかり用意させてある」
「デザートも沢山ありますからね」
「あんまりお腹すいてないもん…」
メルヴィンが心配で、ずっと食欲がない。
ベルトルドとアルカネットは顔を見合わせて肩をすくめた。
食欲が沸くくらい、何か気が紛れることはないだろうか。それを色々考えるが、妙案が思い浮かばなかった。
そこへノックがして、セヴェリが顔を出した。
「皆様、お夕食の準備が整いました。食堂へお集まりください」
「おう」
「さあ、行きましょうリッキーさん」
アルカネットにそっと促され、キュッリッキは頷いた。
「エドラも連れてっていい?」
ペンギンのぬいぐるみを持ち上げる。どうやらメスのペンギンらしい。
「お食事中は隣の椅子に座らせるなら、かまいませんよ」
「ありがと」
ようやくキュッリッキはにっこり微笑み、ベルトルドとアルカネットは苦笑した。
今まさに、テレビの中では大好きな『美魔女っ子カトリーナ』が魔法で変身して、多くの悪と戦闘中である。
いつもなら変身シーンが出てくると、テレビの前に立って真似をして喜んでいるというのにそれもしない。ぺたりと床に座り込んで、肩を落としている。その様子を後ろのソファに並んで座るベルトルドとアルカネットが、不思議そうに見つめていた。
(元気がないな、リッキー)
(口の端にのせるのも怖気がしますが、メルヴィンと離れ離れになっているから落ち込んでいるんです)
(俺がこんなに近くにいるのに?)
(別にあなたがいたって関係ないでしょう。むしろ私がこうしてそばにいるのに、あんなに落ち込んでいることが心配です)
(そういうお前だって関係ないだろう!!)
念話でいがみ合いながら、ベルトルドとアルカネットは視線をぶつけていた。
週に一回、水曜日はテレビを観にキュッリッキが遊びに来てくれる。どんなに仕事が忙しかろうと、キュッリッキが来る時間前には絶対に帰宅している2人だった。そして、一生懸命乞い願い、キュッリッキには泊まっていってもらう。更に拝み倒して一緒に寝ようと言うが、それだけは却下されていた。
(しかし、リッキーを連れて行かなかったことは褒めてやるが、そんなに時間のかかる仕事なのか? あいつらが受けた依頼は)
(トゥルーク王国の王女を護衛して、首都に送り届けるものだったと聞いています)
(ほう……確かあの国、最近国王夫妻が事故死したんだったな)
(ええ、視察先で事故に遭われたようです。そのため一人娘の王女が、急に女王として即位すると、報告があがっています)
(ウエケラ大陸の中では大きな国だが、織物生産が盛んなくらいで、クーデターとは無縁そうな感じはするんだがなあ)
(皇国に対しても低姿勢ですしね。王女と近親者の宰相も、よく国王に尽くして国に貢献していると評判がいいですが)
(何年か前に皇国の建国記念に来訪した国王と謁見したが、タヌキでもキツネでもない、ごく普通の王だったような。無能でも有能でもない、淡々とした印象がある)
(そうですね。織物交易も盛んですから、富ませることに才能は豊かだったようです)
(ふむ…。まあ、ギルド側からの判断で回ってきたとは言え、あいつらが出しゃばるくらいに護衛が危険だというわけか。自国の護衛ではなく傭兵を雇うくらい、事態は切羽詰っているのかな)
(ダエヴァに調べさせましょうか?)
落ち込むキュッリッキの後ろ姿を見つめ、ベルトルドは首を横に振る。
(いや、調査はすでにあいつらがやっているだろう。皇国に直接影響がなければ、放っておけばいいさ)
(判りました)
アルカネットは小さく頷いた。
すでに『美魔女っ子カトリーナ』は終わっているようで、別の番組が始まっていた。
「リッキー、こっちにおいで」
ベルトルドに声をかけられ、キュッリッキは「うん」と力なく返事をして、ベルトルドとアルカネットの間に座った。
この間ザカリーに買ってもらった大きなペンギンのぬいぐるみをギュッと抱きしめ、キュッリッキはため息をこぼしまくっている。
「もうすぐ夕飯だぞ。リッキーの大好きなものばかり用意させてある」
「デザートも沢山ありますからね」
「あんまりお腹すいてないもん…」
メルヴィンが心配で、ずっと食欲がない。
ベルトルドとアルカネットは顔を見合わせて肩をすくめた。
食欲が沸くくらい、何か気が紛れることはないだろうか。それを色々考えるが、妙案が思い浮かばなかった。
そこへノックがして、セヴェリが顔を出した。
「皆様、お夕食の準備が整いました。食堂へお集まりください」
「おう」
「さあ、行きましょうリッキーさん」
アルカネットにそっと促され、キュッリッキは頷いた。
「エドラも連れてっていい?」
ペンギンのぬいぐるみを持ち上げる。どうやらメスのペンギンらしい。
「お食事中は隣の椅子に座らせるなら、かまいませんよ」
「ありがと」
ようやくキュッリッキはにっこり微笑み、ベルトルドとアルカネットは苦笑した。
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