片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
602 / 882
アン=マリー女学院からの依頼編

episode539

しおりを挟む
 傭兵登録をしていない者たちが護衛などの仕事をする場合、道場のような確かな場所で一時でも弟子入りしてお墨付きをもらうと、それが確かな証として役に立つ。

 腕がたてば誰でも雇い入れるというわけではないからだ。

 お墨付きを募集先の商家に見せれば、大抵はすぐに護衛職にありつけた。信用で成り立つ商売同士、道場といえど適当な者には発行しない。それなりに人柄と腕前を見極めた者にのみ発行している。

 アッペルバリ交易都市では商人が多いため、安全を確保するために、傭兵ギルドと並んで道場の存在も大きく貢献しているのだ。

 メルヴィンは首をかしげながら空を仰ぎ見る。毎月仕送りは続けているが、もうだいぶ帰っていない。手紙も一方的にもらうが、筆不精なこともあり、あまり出したことがなかった。喧嘩別れしているわけではないので、単に面倒臭がっているのだ。

 イリニア王女は微笑みながら、メルヴィンに色々な質問をした。好きな食べ物や好きな色、好きな風景や好きな音楽など。道中の会話のほとんどは、イリニア王女がメルヴィンに投げかける質問について、メルヴィンのみが丁寧に答えるもので成り立っていた。

(なあ、シビル)

(なんですか?)

(あれってどう見ても、メルヴィンに気があるように見えるんだ……王女サマ)

(どう見なくっても、気があるようですねえ…)

 念話を使いシビルに話しかけながら、ルーファスは困ったように眉を寄せた。

(例によって例のごとく、気づいてないよね)

(………まあ、相手はメルヴィンさんですしね)

(だよねー………)

 明らかにメルヴィンに気があり、興味を持っているイリニア王女に、当のメルヴィンは全く気づいていないようだった。気づいたところでイリニア王女の気持ちを受け入れることなど出来ないが、皇都で留守番をしているだろうキュッリッキに比べ、イリニア王女はそういうことには積極的なようだ。もはやメルヴィン以外は眼中に無いようである。

「段差があるので、注意してください」

 ちょっとした段差の下からイリニア王女に呼びかけるメルヴィンに、イリニア王女は怯えた表情を向けた。

「どうしましょう、怖いですわ……」

「受け止めますから、飛び降りてください。大丈夫ですよ」

 両手を広げて励ますメルヴィンに、イリニア王女は「えいっ」と小さくつぶやき、目をつむって飛び降りた。

「おっと」

 イリニア王女をしっかり受け止めて、そっと地面に下ろす。

「ありがとうございます。怖かったですわ…」

 そう言ってメルヴィンの胸にしだれかかった。そんなイリニア王女の両肩をしっかり掴み、メルヴィンは笑いかけた。

「大丈夫ですよ。我々がしっかり守りますから」

「はい。頼りにしております」

 顔だけをあげて、イリニア王女は柔らかく微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

処理中です...