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アン=マリー女学院からの依頼編
episode539
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傭兵登録をしていない者たちが護衛などの仕事をする場合、道場のような確かな場所で一時でも弟子入りしてお墨付きをもらうと、それが確かな証として役に立つ。
腕がたてば誰でも雇い入れるというわけではないからだ。
お墨付きを募集先の商家に見せれば、大抵はすぐに護衛職にありつけた。信用で成り立つ商売同士、道場といえど適当な者には発行しない。それなりに人柄と腕前を見極めた者にのみ発行している。
アッペルバリ交易都市では商人が多いため、安全を確保するために、傭兵ギルドと並んで道場の存在も大きく貢献しているのだ。
メルヴィンは首をかしげながら空を仰ぎ見る。毎月仕送りは続けているが、もうだいぶ帰っていない。手紙も一方的にもらうが、筆不精なこともあり、あまり出したことがなかった。喧嘩別れしているわけではないので、単に面倒臭がっているのだ。
イリニア王女は微笑みながら、メルヴィンに色々な質問をした。好きな食べ物や好きな色、好きな風景や好きな音楽など。道中の会話のほとんどは、イリニア王女がメルヴィンに投げかける質問について、メルヴィンのみが丁寧に答えるもので成り立っていた。
(なあ、シビル)
(なんですか?)
(あれってどう見ても、メルヴィンに気があるように見えるんだ……王女サマ)
(どう見なくっても、気があるようですねえ…)
念話を使いシビルに話しかけながら、ルーファスは困ったように眉を寄せた。
(例によって例のごとく、気づいてないよね)
(………まあ、相手はメルヴィンさんですしね)
(だよねー………)
明らかにメルヴィンに気があり、興味を持っているイリニア王女に、当のメルヴィンは全く気づいていないようだった。気づいたところでイリニア王女の気持ちを受け入れることなど出来ないが、皇都で留守番をしているだろうキュッリッキに比べ、イリニア王女はそういうことには積極的なようだ。もはやメルヴィン以外は眼中に無いようである。
「段差があるので、注意してください」
ちょっとした段差の下からイリニア王女に呼びかけるメルヴィンに、イリニア王女は怯えた表情を向けた。
「どうしましょう、怖いですわ……」
「受け止めますから、飛び降りてください。大丈夫ですよ」
両手を広げて励ますメルヴィンに、イリニア王女は「えいっ」と小さくつぶやき、目をつむって飛び降りた。
「おっと」
イリニア王女をしっかり受け止めて、そっと地面に下ろす。
「ありがとうございます。怖かったですわ…」
そう言ってメルヴィンの胸にしだれかかった。そんなイリニア王女の両肩をしっかり掴み、メルヴィンは笑いかけた。
「大丈夫ですよ。我々がしっかり守りますから」
「はい。頼りにしております」
顔だけをあげて、イリニア王女は柔らかく微笑んだ。
腕がたてば誰でも雇い入れるというわけではないからだ。
お墨付きを募集先の商家に見せれば、大抵はすぐに護衛職にありつけた。信用で成り立つ商売同士、道場といえど適当な者には発行しない。それなりに人柄と腕前を見極めた者にのみ発行している。
アッペルバリ交易都市では商人が多いため、安全を確保するために、傭兵ギルドと並んで道場の存在も大きく貢献しているのだ。
メルヴィンは首をかしげながら空を仰ぎ見る。毎月仕送りは続けているが、もうだいぶ帰っていない。手紙も一方的にもらうが、筆不精なこともあり、あまり出したことがなかった。喧嘩別れしているわけではないので、単に面倒臭がっているのだ。
イリニア王女は微笑みながら、メルヴィンに色々な質問をした。好きな食べ物や好きな色、好きな風景や好きな音楽など。道中の会話のほとんどは、イリニア王女がメルヴィンに投げかける質問について、メルヴィンのみが丁寧に答えるもので成り立っていた。
(なあ、シビル)
(なんですか?)
(あれってどう見ても、メルヴィンに気があるように見えるんだ……王女サマ)
(どう見なくっても、気があるようですねえ…)
念話を使いシビルに話しかけながら、ルーファスは困ったように眉を寄せた。
(例によって例のごとく、気づいてないよね)
(………まあ、相手はメルヴィンさんですしね)
(だよねー………)
明らかにメルヴィンに気があり、興味を持っているイリニア王女に、当のメルヴィンは全く気づいていないようだった。気づいたところでイリニア王女の気持ちを受け入れることなど出来ないが、皇都で留守番をしているだろうキュッリッキに比べ、イリニア王女はそういうことには積極的なようだ。もはやメルヴィン以外は眼中に無いようである。
「段差があるので、注意してください」
ちょっとした段差の下からイリニア王女に呼びかけるメルヴィンに、イリニア王女は怯えた表情を向けた。
「どうしましょう、怖いですわ……」
「受け止めますから、飛び降りてください。大丈夫ですよ」
両手を広げて励ますメルヴィンに、イリニア王女は「えいっ」と小さくつぶやき、目をつむって飛び降りた。
「おっと」
イリニア王女をしっかり受け止めて、そっと地面に下ろす。
「ありがとうございます。怖かったですわ…」
そう言ってメルヴィンの胸にしだれかかった。そんなイリニア王女の両肩をしっかり掴み、メルヴィンは笑いかけた。
「大丈夫ですよ。我々がしっかり守りますから」
「はい。頼りにしております」
顔だけをあげて、イリニア王女は柔らかく微笑んだ。
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