片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
599 / 882
アン=マリー女学院からの依頼編

episode536

しおりを挟む
「よく眠ってるね」

 イリニア王女の顔を覗き込むようにして、ルーファスがぽつりとこぼす。それに頷いて、メルヴィンは握っているイリニア王女の手に目を向けた。

「あんなにすぐの奇襲で馬車が壊れてしまいましたし、慣れない山歩きで疲れたんだと思います」

「予想外過ぎたよね~、まさか街を出てすぐ奇襲とか」

 アン=マリー女学院でイリニア王女を託されたあと、メルヴィンたちはすぐに出発した。学院側で質素な馬車が用意され、馬車を操りながら戦闘が出来るタルコットが御者に、防御と攻撃が行える魔法使いのシビルがその横でサポート、そして感知に優れたメルヴィンと、咄嗟に防御が張れるルーファスが、中でイリニア王女を守る。

 シオンの街からもっとも近い――それなりの距離はかかる――汽車の終点駅のある街ヴェルゼッドまで、馬車で向かう予定だった。途中休息を挟みながらになるので、4日くらいはかかるだろう。そこから汽車で一気に首都ヴァルテルへ行く。

 ところが街を出て数分経った頃に奇襲を受けた。

 如何にもな黒い外套を頭からすっぽり被った、魔法使いが5名、武器を振り回す戦闘員が10名。計15名による奇襲だ。

 さすがに魔法攻撃だと分が悪く、かわしきれなかった魔法による攻撃が馬と車に着弾し、修理不可能までに壊されてしまった。

 その後軽くキレたタルコットが大暴れして敵は全滅させたが、絶命する前の敵から首謀者を問いただそうとするものの、それは知らなかったようである。ルーファスによる透視でも、探り出すことは無理だった。

 一旦街へ戻って馬車を調達することも検討されたが、奇襲のタイミングがあまりにも早かったことを警戒して、歩いてヴェルゼッドの街まで向かう事が決まった。

 広大なノーテリエ山地を旅するということで、シエンの街を出る前に、シビルはイリニア王女に旅装の指示を細かく出した。どんなに高貴な身分でも、自らの足で旅をしなくてはならない。そのため旅をする服装や靴は大事だ。

 そのかいもあり、山歩きでもイリニア王女はしっかりと皆についてきた。しかし、それは無理を隠していたことが夕刻には判り、沢を見つけて野宿することになった。初日に無理をさせて、首都に着くまでもたなかったら洒落にならない。

 すみません、と心底申し訳なさそうに詫びるイリニア王女を皆でねぎらい、軽い食事を摂らせてから寝かせた。でもよほど心細かったのか、ずっと山歩きで手をひいていたメルヴィンに、寝ている間手を握っていて欲しいと請うてきて、メルヴィンはイリニア王女の手を握ってそばに座っていた。

「なんか、メルヴィンばっかりモテ期だなあ、このところ」

 横目で嫉妬混じりの視線を受けて、メルヴィンは目をぱちくりさせる。

「え、そうですか?」

「キューリちゃんとか王女サマとか、美少女にモテてる」

 拗ねるようにルーファスに言われて、メルヴィンは困ったように笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女 産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。 母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場 捨てる神あれば拾う神あり? 人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。 そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。 主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。 ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。 同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております 追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新としております

処理中です...