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アン=マリー女学院からの依頼編
episode532
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世界中に複数点在する転送装置エグザイル・システム。
半径1メートルほどの黒い石造りの台座に、短い銀の支柱のようなものが3本立っている。台座の中心には世界地図が彫り込まれていて、エグザイル・システムが置かれている各地を示す、突起のようなスイッチがある。行きたい場所のスイッチを踏めば、装置は起動して、目的地へ一瞬にして飛ばしてくれるのだ。
3本の支柱は惑星間移動用のスイッチである。
ハワドウレ皇国の皇都イララクスにあるエグザイル・システムは、エルダー街から歩くこと20分ほどの距離に、行政街との異名を持つクーシネン街に置かれていた。
エグザイル・システムはどこのものでも無料で誰でも使え、利用者も多く、あらゆる国々から行き来している。人でも物でも飛ばせるので、特に惑星間の移動では大量の荷物を往復して飛ばしてくる者もいた。そのため国によっては出入国手続き窓口や税関が設置されている。休むことなく24時間常に賑わう場所の一つだ。
「それでは、行ってきますね」
「おう、がんばってら」
「……」
トゥルーク王国にあるアン=マリー女学院へ向かうため、エグザイル・システムへと来たメルヴィン、タルコット、ルーファス、シビルの4人は、キュッリッキとザカリーの見送りを受けて、列に並んでいた。
「リッキー」
むすっと下を向いたまま唇を尖らせているキュッリッキに、メルヴィンは優しく呼びかける。
エグザイル・システムまで見送りに行くと言いだしたのはキュッリッキで、こうしてエグザイル・システムまでくると、途端に不機嫌度MAXに拗ねて黙り込んでしまった。
メルヴィンは苦笑すると、身体を屈めてキュッリッキと目線の高さを同じくする。
「いってらっしゃい、と言ってくれないんですか?」
無言のままちらっと目だけをあげて、すぐに伏せてしまう。
口を開けば寂しさに襲われて泣きそうになる。今生の別れではないが、数日もの間メルヴィンと会えないと思うと、涙を堪えるので精一杯だ。
見送りは笑顔で、とキリ夫人にも言われているが、まだまだ慣れない。
辛抱強く待つこと数分、キュッリッキは顔を上げると、自分からメルヴィンに感情を込めてキスをすして、
「早く帰ってきてね、いってらっしゃい……」
そう、蚊が鳴くほどの小さな声で、涙目に言った。
キュッリッキなりに割り切り我慢しようとしている。それでも離れ離れになるのが寂しくて辛いと、キスで伝わってきた。今もこうして、泣くまいと堪えている。
仕事に行くのだから、笑顔で見送って欲しいと思う。しかし、恋人となって初めての短い別れだ。もちろんメルヴィンも辛いし寂しい。だから、これは2人にとって最初の試練かな、とメルヴィンは思った。
「はい。行ってきます」
メルヴィンはにっこり笑い、キュッリッキを抱きしめた。
「愛しています」
耳元で囁かれ、キュッリッキは顔を真っ赤にして、やっと微笑んだ。
2人の様子を黙って見ていた仲間たちは、ヤレヤレと苦笑する。心情としては連れて行ってやりたいが、強大な圧力のもとでは仕方なかった。
メルヴィンはもう一度キュッリッキを優しく抱きしめ、そして列に戻った。
傭兵ギルドに所属している傭兵たちは、ギルドから特別に発行されている身分証明証を持っているので、どの国でも出入国の際に面倒な手続きをパスしてもらえる。傭兵業を営む人々は皆持っていた。
順番を待って4人は台座に立つと、遠くで見ているキュッリッキとザカリーに手を振って、光に包まれ飛んだ。
「無事飛んでったな。さて、帰るか」
ザカリーに言われ、キュッリッキは小さく頷いてきびすを返した。
「アタシ、ちょっと街をぶらついてから帰る」
「なら、オレも一緒に行くぜっ」
「えー……」
物凄く嫌そうに言われて、ザカリーは慌てて作り笑いを浮かべる。
「そんな嫌そうな顔すんなって~~。好きなモン奢ってやっからサ、なっ?」
「………じゃあイイヨ」
「オッケー! ブローリン街行こうぜ」
キュッリッキから承諾を得て嬉しいザカリーは、意気揚々とブローリン街へ向けて歩き出した。その後ろを歩きながら、キュッリッキはもう一度エグザイル・システムの方を見て、寂しそうに唇を尖らせた。
半径1メートルほどの黒い石造りの台座に、短い銀の支柱のようなものが3本立っている。台座の中心には世界地図が彫り込まれていて、エグザイル・システムが置かれている各地を示す、突起のようなスイッチがある。行きたい場所のスイッチを踏めば、装置は起動して、目的地へ一瞬にして飛ばしてくれるのだ。
3本の支柱は惑星間移動用のスイッチである。
ハワドウレ皇国の皇都イララクスにあるエグザイル・システムは、エルダー街から歩くこと20分ほどの距離に、行政街との異名を持つクーシネン街に置かれていた。
エグザイル・システムはどこのものでも無料で誰でも使え、利用者も多く、あらゆる国々から行き来している。人でも物でも飛ばせるので、特に惑星間の移動では大量の荷物を往復して飛ばしてくる者もいた。そのため国によっては出入国手続き窓口や税関が設置されている。休むことなく24時間常に賑わう場所の一つだ。
「それでは、行ってきますね」
「おう、がんばってら」
「……」
トゥルーク王国にあるアン=マリー女学院へ向かうため、エグザイル・システムへと来たメルヴィン、タルコット、ルーファス、シビルの4人は、キュッリッキとザカリーの見送りを受けて、列に並んでいた。
「リッキー」
むすっと下を向いたまま唇を尖らせているキュッリッキに、メルヴィンは優しく呼びかける。
エグザイル・システムまで見送りに行くと言いだしたのはキュッリッキで、こうしてエグザイル・システムまでくると、途端に不機嫌度MAXに拗ねて黙り込んでしまった。
メルヴィンは苦笑すると、身体を屈めてキュッリッキと目線の高さを同じくする。
「いってらっしゃい、と言ってくれないんですか?」
無言のままちらっと目だけをあげて、すぐに伏せてしまう。
口を開けば寂しさに襲われて泣きそうになる。今生の別れではないが、数日もの間メルヴィンと会えないと思うと、涙を堪えるので精一杯だ。
見送りは笑顔で、とキリ夫人にも言われているが、まだまだ慣れない。
辛抱強く待つこと数分、キュッリッキは顔を上げると、自分からメルヴィンに感情を込めてキスをすして、
「早く帰ってきてね、いってらっしゃい……」
そう、蚊が鳴くほどの小さな声で、涙目に言った。
キュッリッキなりに割り切り我慢しようとしている。それでも離れ離れになるのが寂しくて辛いと、キスで伝わってきた。今もこうして、泣くまいと堪えている。
仕事に行くのだから、笑顔で見送って欲しいと思う。しかし、恋人となって初めての短い別れだ。もちろんメルヴィンも辛いし寂しい。だから、これは2人にとって最初の試練かな、とメルヴィンは思った。
「はい。行ってきます」
メルヴィンはにっこり笑い、キュッリッキを抱きしめた。
「愛しています」
耳元で囁かれ、キュッリッキは顔を真っ赤にして、やっと微笑んだ。
2人の様子を黙って見ていた仲間たちは、ヤレヤレと苦笑する。心情としては連れて行ってやりたいが、強大な圧力のもとでは仕方なかった。
メルヴィンはもう一度キュッリッキを優しく抱きしめ、そして列に戻った。
傭兵ギルドに所属している傭兵たちは、ギルドから特別に発行されている身分証明証を持っているので、どの国でも出入国の際に面倒な手続きをパスしてもらえる。傭兵業を営む人々は皆持っていた。
順番を待って4人は台座に立つと、遠くで見ているキュッリッキとザカリーに手を振って、光に包まれ飛んだ。
「無事飛んでったな。さて、帰るか」
ザカリーに言われ、キュッリッキは小さく頷いてきびすを返した。
「アタシ、ちょっと街をぶらついてから帰る」
「なら、オレも一緒に行くぜっ」
「えー……」
物凄く嫌そうに言われて、ザカリーは慌てて作り笑いを浮かべる。
「そんな嫌そうな顔すんなって~~。好きなモン奢ってやっからサ、なっ?」
「………じゃあイイヨ」
「オッケー! ブローリン街行こうぜ」
キュッリッキから承諾を得て嬉しいザカリーは、意気揚々とブローリン街へ向けて歩き出した。その後ろを歩きながら、キュッリッキはもう一度エグザイル・システムの方を見て、寂しそうに唇を尖らせた。
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