片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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番外編・2

コッコラ王国の悲劇・44

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 エルダー街の一角にあるライオン傭兵団のアジトでは、皆が談話室に正座させられ、オレンジ色のソファにふんぞり返って座るベルトルドと、その傍らに優雅に立つアルカネット、その反対側になよっと立つリュリュに見下ろされ、ガタガタと震えながら身を縮こませていた。

 2週間前の悪夢が自然と蘇り、気持ちよりも身体のほうが、より正確に恐怖を覚えているのだ。

「可愛いお前たちが怪我をしていた間は、そっとしておいてやろう、そう大いなる慈悲をもって我慢していた俺に、心の底から大感謝しろ」

 腕を組み、顎を反らせ、ベルトルドは大儀そうに言う。

「本来なら戦争犯罪人として罰してしかるべきのところだが、首謀者であるコッコラ国王の死去により、罪状が曖昧だ。雇われた傭兵たちは所詮金目当て、それが商売でもあるのだから、罪は不問とすることになった」

 ホッとため息がいくつかあったが、アルカネットの軽い咳払いで、ため息をついたものは肩をすくめた。

「だが、お前たちのほとんどは、元々は皇国軍出身だ。いまだ顔を覚えている者も多い。それが堂々と敵対して、あまつさえ元同僚たちを葬るとはなんたることか! と、大将たちが激怒していてな」

 やっぱりね、という空気が遠慮なく室内に漂う。

「そこは俺の可愛い身内だからと、涙ながらに大将たちを説き伏せて、お前たちへの厳罰は、俺に一任される形で許しを得てきた」

 許しを得たのは事実だが、うるさく言い立てる大将たちにぷちっとキレたベルトルドが、笑顔で脅しをかけたのは公然の秘密である。

 キュラ平原で無慈悲と力を見せつけたベルトルドを、もはや侮るものなどいなかった。戦場の様子は軍部だけではなく、行政側にも伝えられ、小僧と蔑んで侮辱する年寄りどももいなくなった。

 正規部隊の大将たちも、絶対に逆らってはいけない相手、と認識を改めたのだ。

「つまらん売名行為でノコノコ出かけて行ったツケは、たっぷり払ってもらうから、覚悟しろよ馬鹿者どもが!!」

 ヒイッと皆首をすくめた。その様子があまりにもおかしくて、リュリュはぷっと吹き出す。

「すんませーん、傭兵ギルドエルダー街支部のモンですが、責任者いますかねー?」

 突然玄関ホールのほうで大声がして、なんだろうと皆が揃って玄関のほうへ首を向ける。

「カーティス行ってこい」

 ベルトルドに促され、カーティスは頷いて立ち上がると部屋を出て行った。

 しばらくして戻ってくると、ニヤニヤが抑えきれない微妙な表情で、元の位置に正座した。

「なんだったんだ?」

 ギャリーが代表して訊くと、カーティスは嬉しそうに、若干はしゃいだような声を出した。

「ウチに仕事の依頼が5件も舞い込んできているそうで、あとでギルドに顔を出すようにと伝えに来てくれました」

 その瞬間、皆は大声で喜び快哉を上げた。目の前にいる3人の存在は忘れたかのように。

 呆れたようにその様子を見ると、ベルトルドはやれやれと苦笑して、アルカネットとリュリュと顔を見合わせた。



 それから3年の月日が流れ、ライオン傭兵団は惑星ヒイシにとどまらず、惑星ペッコ、惑星タピオでも有名になっている。

 団とは名ばかりの人数しかいないが、所属する傭兵たちは、一人当千の実力を持ち、仕事は完璧で失敗もない。傭兵界のトップに君臨しているのだ。

 強力な後ろ盾がいると噂されるが、誰が後ろ盾をしているかは謎のまま。

 世界中のフリーの傭兵たちが、ライオン傭兵団への入団を夢見て憧れている。しかし、新入団員は皆無だと言う。

 そして、一人の少女が突如、新しく入団した。

 世界でも稀中の稀、召喚スキル〈才能〉を持つという。

 召喚士が入団したことで、ライオン傭兵団の名は不動のものとなっていた。
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