片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
586 / 882
番外編・2

コッコラ王国の悲劇・41

しおりを挟む
(ベルトルド様を独占するかのように立ち振る舞う貴婦人は、確か、ハッキネン子爵夫人ではなかったかしら?)

 自らが当主で子爵夫人と呼ばれているわけではない。ハッキネン子爵の妻だからそう呼ばれている女性なのに、ベルトルドと浮気を堂々と白状している。

 厚かましいを通り越し、物凄い度胸だとジーネット王女は一瞬クラクラと頭がグラリと傾いだ気がして、倒れそうになったが、どうにか踏ん張り堪えた。

 女房風を吹かせて凛気を放つハッキネン子爵夫人は、他の貴婦人たちにもみくちゃにされている。

 困惑した顔のベルトルドは手招きすると、会場の外に控えていた男が颯爽と傍らに歩み寄った。

(あの方は確か、ベルトルド様のお屋敷で執事をなさっているという…)

 ジーネット王女は記憶をたどる。

(従者としても、同行なさっているのね)

 ベルトルドはその男に何事かを耳打ちすると、身を翻して素早くテラスの方へと行き、中庭のほうへ歩き去ってしまった。

 残された貴婦人たちはそのことに気づいたが、その場に残った男が貴婦人たちを押しとどめ、必死にとりなしている。

 ベルトルドの動向を目で追いかけていたジーネット王女は、一瞬心臓がドクンッと跳ねた。これは、もしかしたらベルトルドと、2人きりになれるチャンスではないか。

(ベルトルド様のおそばに、行かなくては…)

 ジーネット王女はいつも以上に気合を入れると、自分を取り囲む紳士たちを言葉巧みに言いくるめ、ついに包囲網を突破することに成功した。

(良かった、抜けられたわ。ベルトルド様は、ドコにいらっしゃるかしら)

 中庭に出てくると、目の前には大きな噴水がある。

 噴水のふちに腰掛け、腕を組んで目を閉じているベルトルドがいた。

 晴れ渡った空に浮かぶ満月の明かりはとても明るく、ベルトルドを優しい光で柔らかく照らし出していた。

(まあ…、なんて綺麗なのかしら……)

 王女はうっとりと、その姿に見とれてしまった。

 ベルトルドの目を閉じたその顔には、僅かに疲労のようなものが見て取れる。

 毎日物凄い量の仕事をこなしていると聞いている。更にこの上、貴婦人たちにもみくちゃにされて、さぞ疲れているだろう。

(きっと、ハッキネン子爵夫人が無闇に疲れさせたのだわ)

 そう思うと、ジーネット王女は怒りがこみ上げてきた。そして、そば近くでそっとお慰めして差し上げたい、と強く思った。

 得意な竪琴を奏で、少しでも御心を安らかにしてあげられたら。しかし今、竪琴はない。ならば歌などどうだろう?

 そんな風に思案を巡らせていると、いつの間にかジーネット王女は物陰から出て、ベルトルドのそばへ近づいていた。

 そのことに気づいてジーネット王女はハッとしたが、ベルトルドとの距離は縮まっていて、3歩足を踏み出せば、ベルトルドの間近に。

(このまま、告白してしまえれば――)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

処理中です...