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番外編・2
コッコラ王国の悲劇・41
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(ベルトルド様を独占するかのように立ち振る舞う貴婦人は、確か、ハッキネン子爵夫人ではなかったかしら?)
自らが当主で子爵夫人と呼ばれているわけではない。ハッキネン子爵の妻だからそう呼ばれている女性なのに、ベルトルドと浮気を堂々と白状している。
厚かましいを通り越し、物凄い度胸だとジーネット王女は一瞬クラクラと頭がグラリと傾いだ気がして、倒れそうになったが、どうにか踏ん張り堪えた。
女房風を吹かせて凛気を放つハッキネン子爵夫人は、他の貴婦人たちにもみくちゃにされている。
困惑した顔のベルトルドは手招きすると、会場の外に控えていた男が颯爽と傍らに歩み寄った。
(あの方は確か、ベルトルド様のお屋敷で執事をなさっているという…)
ジーネット王女は記憶をたどる。
(従者としても、同行なさっているのね)
ベルトルドはその男に何事かを耳打ちすると、身を翻して素早くテラスの方へと行き、中庭のほうへ歩き去ってしまった。
残された貴婦人たちはそのことに気づいたが、その場に残った男が貴婦人たちを押しとどめ、必死にとりなしている。
ベルトルドの動向を目で追いかけていたジーネット王女は、一瞬心臓がドクンッと跳ねた。これは、もしかしたらベルトルドと、2人きりになれるチャンスではないか。
(ベルトルド様のおそばに、行かなくては…)
ジーネット王女はいつも以上に気合を入れると、自分を取り囲む紳士たちを言葉巧みに言いくるめ、ついに包囲網を突破することに成功した。
(良かった、抜けられたわ。ベルトルド様は、ドコにいらっしゃるかしら)
中庭に出てくると、目の前には大きな噴水がある。
噴水のふちに腰掛け、腕を組んで目を閉じているベルトルドがいた。
晴れ渡った空に浮かぶ満月の明かりはとても明るく、ベルトルドを優しい光で柔らかく照らし出していた。
(まあ…、なんて綺麗なのかしら……)
王女はうっとりと、その姿に見とれてしまった。
ベルトルドの目を閉じたその顔には、僅かに疲労のようなものが見て取れる。
毎日物凄い量の仕事をこなしていると聞いている。更にこの上、貴婦人たちにもみくちゃにされて、さぞ疲れているだろう。
(きっと、ハッキネン子爵夫人が無闇に疲れさせたのだわ)
そう思うと、ジーネット王女は怒りがこみ上げてきた。そして、そば近くでそっとお慰めして差し上げたい、と強く思った。
得意な竪琴を奏で、少しでも御心を安らかにしてあげられたら。しかし今、竪琴はない。ならば歌などどうだろう?
そんな風に思案を巡らせていると、いつの間にかジーネット王女は物陰から出て、ベルトルドのそばへ近づいていた。
そのことに気づいてジーネット王女はハッとしたが、ベルトルドとの距離は縮まっていて、3歩足を踏み出せば、ベルトルドの間近に。
(このまま、告白してしまえれば――)
自らが当主で子爵夫人と呼ばれているわけではない。ハッキネン子爵の妻だからそう呼ばれている女性なのに、ベルトルドと浮気を堂々と白状している。
厚かましいを通り越し、物凄い度胸だとジーネット王女は一瞬クラクラと頭がグラリと傾いだ気がして、倒れそうになったが、どうにか踏ん張り堪えた。
女房風を吹かせて凛気を放つハッキネン子爵夫人は、他の貴婦人たちにもみくちゃにされている。
困惑した顔のベルトルドは手招きすると、会場の外に控えていた男が颯爽と傍らに歩み寄った。
(あの方は確か、ベルトルド様のお屋敷で執事をなさっているという…)
ジーネット王女は記憶をたどる。
(従者としても、同行なさっているのね)
ベルトルドはその男に何事かを耳打ちすると、身を翻して素早くテラスの方へと行き、中庭のほうへ歩き去ってしまった。
残された貴婦人たちはそのことに気づいたが、その場に残った男が貴婦人たちを押しとどめ、必死にとりなしている。
ベルトルドの動向を目で追いかけていたジーネット王女は、一瞬心臓がドクンッと跳ねた。これは、もしかしたらベルトルドと、2人きりになれるチャンスではないか。
(ベルトルド様のおそばに、行かなくては…)
ジーネット王女はいつも以上に気合を入れると、自分を取り囲む紳士たちを言葉巧みに言いくるめ、ついに包囲網を突破することに成功した。
(良かった、抜けられたわ。ベルトルド様は、ドコにいらっしゃるかしら)
中庭に出てくると、目の前には大きな噴水がある。
噴水のふちに腰掛け、腕を組んで目を閉じているベルトルドがいた。
晴れ渡った空に浮かぶ満月の明かりはとても明るく、ベルトルドを優しい光で柔らかく照らし出していた。
(まあ…、なんて綺麗なのかしら……)
王女はうっとりと、その姿に見とれてしまった。
ベルトルドの目を閉じたその顔には、僅かに疲労のようなものが見て取れる。
毎日物凄い量の仕事をこなしていると聞いている。更にこの上、貴婦人たちにもみくちゃにされて、さぞ疲れているだろう。
(きっと、ハッキネン子爵夫人が無闇に疲れさせたのだわ)
そう思うと、ジーネット王女は怒りがこみ上げてきた。そして、そば近くでそっとお慰めして差し上げたい、と強く思った。
得意な竪琴を奏で、少しでも御心を安らかにしてあげられたら。しかし今、竪琴はない。ならば歌などどうだろう?
そんな風に思案を巡らせていると、いつの間にかジーネット王女は物陰から出て、ベルトルドのそばへ近づいていた。
そのことに気づいてジーネット王女はハッとしたが、ベルトルドとの距離は縮まっていて、3歩足を踏み出せば、ベルトルドの間近に。
(このまま、告白してしまえれば――)
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