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番外編・2
コッコラ王国の悲劇・40
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コッコラ王国は独立している国とはいえ、ハワドウレ皇国の属国である身分に変わりはない。けれど、一国の王女としてハワドウレ皇国の社交界へ大切に招かれていたジーネット王女は、かねてから密かに想いを寄せる殿方がいた。
若くしてハワドウレ皇国の、副宰相の地位に就いているベルトルドである。
実年齢よりも外見はずっと若く、どこかやんちゃな雰囲気を持ちながらも、切れ長の目と塑像のように整った美しい顔立ちが、とにかく目を引いた。
彼にしか着用を許されていないという、白い軍服をまとった肢体はすらりとしなやかで、颯爽と歩く姿はまるで体重を感じさせない。
パーティー会場やサロンで彼の姿を見るたびに、ジーネット王女は胸の高鳴りを抑えることが出来なかった。
ベルトルドの周りには常に美しい貴婦人たちが取り囲み、それを遠目に嫉妬に狂うほどの熱い視線を送る貴婦人たちが大勢いた。誰もがベルトルドの話し相手になりたい、そして愛人になりたいと望んでいるのだ。
ベルトルドはいまだ独身で、ハーメンリンナに広大な屋敷をかまえ、従順な執事のアルカネットとともに住んでいるという。そして、屋敷に出入りをするような貴婦人はいないと聞いていた。
(まだ、定まった恋人も、お持ちではないのね)
女性をそばに置いていない。それは、ジーネット王女に希望をわかせた。同じような想いに、身を焦がしている貴婦人たちも多いだろう。
内気なジーネット王女もベルトルドのことに関しては、いつもよりもずっと勇気を出すことができた。
その日、社交界でも権威のある名家のひとつ、ヒーデンサロ伯爵の屋敷で夜会が催され、ジーネット王女も招かれていた。社交界の華でもあるベルトルドも、当然招待を受けている。
これまでは他の貴婦人たちと同じように装っていたが、それではベルトルドの興味を引くことはできないと思い、コッコラ王国の民族衣装で美しく装い夜会に出席した。
目立つことはとにかく避けたい。そう思っていたから、いつも地味に近いドレスをまとっていた。そのおかげかどうか、あまり紳士たちの好奇に触れることなくこれまできていたが、民族衣装をまとったジーネット王女は、人目を引きまくった。
赤いシルクのベールには、金の刺繍と薄く加工された金の飾りがあしらわれ、その身をおおう赤いシルクのドレスもまた、同じように金刺繍と金細工に覆われ煌びやかだ。
歩くたびにシャラシャラと涼やかな音が立ち、豊かな黒髪と象牙色の肌を持つ王女は、エキゾチックな美に満ちていた。
たちまち多くの紳士たちに取り囲まれてしまい、王女は激しく困惑しながらも、必死にベルトルドの姿を求めた。
そしてそこには、いつものようにたくさんの貴婦人に取り囲まれているベルトルドがいた。
ベルトルドを見つけることができて安堵した王女は、どう紳士たちの包囲網を脱出しようかと思案を巡らせていた。すると、突如激しいどよめきが会場を埋め尽くした。
パリーンっと割れるグラスの音で、談笑に沸く紳士淑女の声が止む。
「あたくしとベルトルド様は深い仲なのよ! おどき! このメス豚!!」
美しい顔立ちには違いないが、残念なほどに化粧に覆われた顔は、怒りと嫉妬に満ち溢れて歪んでいる。
「ンまあ! なにを根拠に仰っているのかしらっ! 下品なかたね!」
「夫を持つ女がなにを言っているの!?」
変わらず化粧でバッチリ顔をガードしている2人の貴婦人も、怒りで顔が真っ赤になっていた。
ベルトルドを取り囲む貴婦人たちが、突如けたたましい舌戦を繰り広げ始めていた。
罵り合いに加え、扇でのチャンバラが始まり、近くに有るテーブルの上のグラスや食器が投げ合いになる。
とんだコメディ・ショーのようだ。
「副宰相殿との浮気を自ら暴露するとはなあ」
「女は怖い怖い」
ジーネット王女を取り囲む紳士たちは、遠巻きにその様子をみながら嘲笑する。
若くしてハワドウレ皇国の、副宰相の地位に就いているベルトルドである。
実年齢よりも外見はずっと若く、どこかやんちゃな雰囲気を持ちながらも、切れ長の目と塑像のように整った美しい顔立ちが、とにかく目を引いた。
彼にしか着用を許されていないという、白い軍服をまとった肢体はすらりとしなやかで、颯爽と歩く姿はまるで体重を感じさせない。
パーティー会場やサロンで彼の姿を見るたびに、ジーネット王女は胸の高鳴りを抑えることが出来なかった。
ベルトルドの周りには常に美しい貴婦人たちが取り囲み、それを遠目に嫉妬に狂うほどの熱い視線を送る貴婦人たちが大勢いた。誰もがベルトルドの話し相手になりたい、そして愛人になりたいと望んでいるのだ。
ベルトルドはいまだ独身で、ハーメンリンナに広大な屋敷をかまえ、従順な執事のアルカネットとともに住んでいるという。そして、屋敷に出入りをするような貴婦人はいないと聞いていた。
(まだ、定まった恋人も、お持ちではないのね)
女性をそばに置いていない。それは、ジーネット王女に希望をわかせた。同じような想いに、身を焦がしている貴婦人たちも多いだろう。
内気なジーネット王女もベルトルドのことに関しては、いつもよりもずっと勇気を出すことができた。
その日、社交界でも権威のある名家のひとつ、ヒーデンサロ伯爵の屋敷で夜会が催され、ジーネット王女も招かれていた。社交界の華でもあるベルトルドも、当然招待を受けている。
これまでは他の貴婦人たちと同じように装っていたが、それではベルトルドの興味を引くことはできないと思い、コッコラ王国の民族衣装で美しく装い夜会に出席した。
目立つことはとにかく避けたい。そう思っていたから、いつも地味に近いドレスをまとっていた。そのおかげかどうか、あまり紳士たちの好奇に触れることなくこれまできていたが、民族衣装をまとったジーネット王女は、人目を引きまくった。
赤いシルクのベールには、金の刺繍と薄く加工された金の飾りがあしらわれ、その身をおおう赤いシルクのドレスもまた、同じように金刺繍と金細工に覆われ煌びやかだ。
歩くたびにシャラシャラと涼やかな音が立ち、豊かな黒髪と象牙色の肌を持つ王女は、エキゾチックな美に満ちていた。
たちまち多くの紳士たちに取り囲まれてしまい、王女は激しく困惑しながらも、必死にベルトルドの姿を求めた。
そしてそこには、いつものようにたくさんの貴婦人に取り囲まれているベルトルドがいた。
ベルトルドを見つけることができて安堵した王女は、どう紳士たちの包囲網を脱出しようかと思案を巡らせていた。すると、突如激しいどよめきが会場を埋め尽くした。
パリーンっと割れるグラスの音で、談笑に沸く紳士淑女の声が止む。
「あたくしとベルトルド様は深い仲なのよ! おどき! このメス豚!!」
美しい顔立ちには違いないが、残念なほどに化粧に覆われた顔は、怒りと嫉妬に満ち溢れて歪んでいる。
「ンまあ! なにを根拠に仰っているのかしらっ! 下品なかたね!」
「夫を持つ女がなにを言っているの!?」
変わらず化粧でバッチリ顔をガードしている2人の貴婦人も、怒りで顔が真っ赤になっていた。
ベルトルドを取り囲む貴婦人たちが、突如けたたましい舌戦を繰り広げ始めていた。
罵り合いに加え、扇でのチャンバラが始まり、近くに有るテーブルの上のグラスや食器が投げ合いになる。
とんだコメディ・ショーのようだ。
「副宰相殿との浮気を自ら暴露するとはなあ」
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